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――国王への謁見後……大きく事が動きだした。
エーヴは、直ぐに連絡をしたステファンの養父が迎えに来て、彼の領地へと向かった。ずっと、エーヴを想い続けていた幼馴染みの魔道士は、きっと彼女を幸せにしてくれるだろう。
ステファンについては、『病弱だった為に、専門施設で隠して育てられた第一王子が、病を完治し王太子として戻って来た』と、王国内に大きく噂を広められた。
近々、お披露目を兼ねた大規模なダンスパーティーが催されるようだ。
現王妃のアレクサンドルの母は――。
王太后が亡くなる怖ろしい瞬間を目にした時から、王族同士のいざこざには何が有っても関わらないと決めたらしい。
だから、ステファンが王太子になろうとも、全く気にしないのだとアレクサンドルは教えてくれた。
シュヴァリエは、容姿をずっとステファンが借りていた為、そのまま変わらず魔導師として受け入れられている。
ただし、新しい王太子の名が『ステファン』なので、魔導師ステファンは魔導師シュヴァリエに改名。そう登録し直して、宮廷内の関係者に周知を図った。
まあ、身代わりでいつも仕事をしていたので、だれも別人になったとは思わないだろう。
そして、沙織は――。
ガブリエルとアーレンハイム公爵邸に帰り、カリーヌやミシェルと感動の再会を果たしたのだった。
「うーん。さて、どうしたものかしら?」
公爵邸の庭園で、一人で悩んでいた。突然消えたリュカの存在を、カリーヌにどう説明したら良いのかと。
王太子になったステファンや、身代わりの居ないシュヴァリエは、宮廷から離れられない。
それにも増して、王太子ステファンにどうやってカリーヌを会わせたら良いのかが、大問題なのだ。
(……やはりここは、お義父様に相談かしら?)
「サオリ姉様、何を悩んでいるのですか?」
庭を眺めつつ真剣に悩んでいると、ミシェルが声をかけて来た。
カリーヌは今日、友人のお茶会に呼ばれていて留守をしている。沙織も誘われたが、流石に疲れているからと遠慮させてもらった。
「実は、リュカが居なくなってしまって……。カリーヌ様に何て言ったら良いのかと……はぁ」
(まあ、嘘じゃないし)
「あんなに懐いていたのに、不思議ですね。きっと、……王太子として忙しいのでしょう」
「……うぇっ!!? な、な、何で、それをっ!」
ミシェルは、チラリとこちらを流し目に見た。
「どう考えても、王命で行くのにリバーツェは連れて行かないでしょう? 姉様が向かわれた後、全て父上にお聞きしましたよ……ステファン殿下の事。彼方此方で第一王子の噂を広めたのは、僕ですからね」
(あゔっ! そうだった、ミシェルはお義父様の片腕として動くんだった! ……忘れてたわ)
「じ、じゃぁ、今の魔導師が……」
「彼が、あの影だったとは……。シュヴァリエでしたっけ?」
(ああー……、完全にミシェルの瞳の中が吹雪いてるわ)
「よくもまぁ、色々と隠していましたね。サオリ姉様?」
「…………すみません」
「でも、宮廷魔導師になったら……そう簡単には姉様には近付けませんね。僕的には、もう邪魔されなくて良かったです」
「邪魔って? いったい何の……」
沙織には意味がさっぱり分からなかったが、ミシェルは怖いくらいにこやかだ。
それはさておき――。
「あっ! ミシェルがそこまで知ってるなら、協力してほしいの!」
「……協力? 今度は何を企んでいるのですか?」
(企むとは、失礼なっ)
ムッとしつつも、ステファンとカリーヌに素敵な出逢いを演出したい、と話を持ちかけてみた。
ミシェルは、度が過ぎるシスコンではあるが……カリーヌの幸せを心から願っている。そうでなければ、アレクサンドルとの婚約なんて、疾うの昔に潰していた筈だ。
だからこそ、誰よりもカリーヌの幸せを願うステファンになら、ミシェルも協力してくれるだろうと思った。
「ステファン殿下と……」
「ええ、お義父様も呪いが解けたら良いと言ってくれました。この件も、ご相談したいのだけれど」
ピクっと、ミシェルの眉が動く。
「この件も? ……やっと影が離れたのに、次から次へと」と、ぶつぶつ呟いた。
「え? 何か言った?」
「いいえ」
ミシェルはそう言うと、突然――グイッと沙織の腰を引き寄せた。
(なっ――!?)
焦る沙織にお構いなしで、ミシェルは甘い声で耳打ちする。
「……こんな、演出はどうですか?」
ミシェルは、ある事を提案してきた。
その案には賛成だが。いくら内緒話だとしても、この近過ぎる距離にどぎまぎしてしまう。話が終わると直ぐにパッと離れた。
そして、早速宮廷へ向かおうとすると。
「僕も行きます」
「はい?」
「僕がシュヴァリエに会うのに、何か問題ありますか? まだ、隠し事とかあるのですか?」
ニコニコの笑顔が少し怖い。
「……ありません」
仕方なく、ミシェルも一緒に研究室へ転移した。
転移陣は起動すると光るので、シュヴァリエは沙織が来ると分かっていたのだろう。
でもまさか、ミシェルも一緒に現れるとは思わなかったのか、驚いた様子だった。
「成る程、此処に転移していたのですね」
ミシェルはキョロキョロと周りを見渡し、正面に居たシュヴァリエをじっと見る。
「君が、影だったシュヴァリエか……。僕の知っているステファン様そのものだね」と、ミシェルは正直な感想を言った。
「シュヴァリエ、突然ごめんなさい!」
ミシェルの態度も気になったが、先に急な訪問を謝った。
「サオリ様、どうされたのですか?」
「実は、シュヴァリエにお願いがあって……」
「ぜひ、君に協力をしてほしい。カリーヌ姉様とステファン殿下の為に」
「ステファン様の……。ミシェル様、お話し下さい」
それから――三人である計画を立てた。