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カリーヌは、沙織が王の命令を無事に終わらせて、このアーレンハイム邸に帰って来てくれた事が、嬉しくて仕方なかった。
(サオリ様が無事にお戻りになって、本当に良かったわ!)
そんな、ある日。
カリーヌがお茶会から公爵邸へ帰ると、沙織が神妙な面持ちでやって来た。
「カリーヌ様、申し訳ありません。宮殿に連れて行ったリュカが……行方不明になってしまったのです」
「そ、そんなっ……」
悲しそうに伝えてくる沙織に、カリーヌはそれ以上何も言えなかった。
(リュカが居なくなってしまうなんて……。私も悲しいけれど、サオリ様はもっと悲しんでいらっしゃるわ。どうしたら、サオリ様を元気付けられるかしら?)
オロオロするしか出来ない自分に、不甲斐なさを感じたカリーヌは落ち込んだ。
◇◇◇
――数日後。
カリーヌは、宮殿で開かれるダンスパーティーに行くことになった。
公爵家の者として、絶対に参加しなければならないパーティーだ。正直なところ、ダンスパーティーには辛い思い出があり、未だに宮殿に行くのが怖い。
ただ、今回は沙織もミシェルも一緒なので、それだけでカリーヌは心を強く持てた。
出来上がったばかりのドレスが、ようやく届いたので、今日はそれを着て行く。
カリーヌと沙織は、新しいデザインの素敵なドレスを新調していたのだ。雰囲気や体型の違う二人は、髪飾りだけ色違いでお揃いの物を作ってもらった。
それぞれの髪色に合わせた髪飾りで、動くと揺れるストーンがあしらわれて、とても可愛らしい。
何より、沙織とお揃いということで、カリーヌの一番のお気に入りになった。
自分も身支度を整えてもらいながら、カリーヌはキラキラとした瞳で、沙織を見つめる。
(サオリ様は、スラッとスタイルが良くてっ。何て素敵にドレスを着こなすのでしょう!)
うっとりとしている間に、カリーヌも仕上がった。
支度を終えた、カリーヌ、沙織、ミシェルは、馬車で宮殿へと向かう。
婚約者のいないカリーヌのエスコートは、弟であるミシェルがする。
沙織のエスコートはガブリエルがする予定なのだが――忙しいガブリエルは、先に宮殿へ行っていると連絡があった。
馬車が宮殿へと到着すると、沙織は先にガブリエルに用事があると言う。直接ホールで落ち合う約束をして、時間まで別行動をする事になった。
(サオリ様と離れてしまうのは、不安だけれど……。いいえ! 私もしっかりしなくては)
そんな思いを胸に抱き、ミシェルにエスコートされ、背筋を伸ばして歩く。
すると、突然――。ミシェルはハッとした様に、キョロキョロとしだした。
「ミシェル? どうかしたの?」
「カリーヌ姉様、申し訳ありません! 馬車に落とし物をした様です。取りに戻っても良いでしょうか?」
「まあ! それは大変だわ。私は、ここで待っていますから、取りに行ってらっしゃい」
「姉様、ありがとうございます! 直ぐに戻ります!」
ミシェルを見送ったカリーヌは、豪華な宮殿の廊下の端で暫く待つことにした。あのダンスホールに一人で入る勇気は、まだ無い。
そして、何気なく目をやった廊下の片隅に――。
見覚えのある、青いモフモフの尻尾がパタパタと動いていた。まさかと思い、それをじっと凝視していると……クルッと振り向いた。
クリクリの可愛い目をしたリバーツェが、ぱちぱち瞬きしてカリーヌを見る。
(あっ! あれはリュカ? そうだわ、サオリ様は宮廷で居なくなってしまっと……あ、だめよ、行ってしまうっ。追いかけなくてはっ)
カリーヌは、動き出したリュカを追いかけた。洗練された歩き方を崩さずに。
ドレスの中で足を必死に動かして歩くが、小動物の速さに合わせるのは流石に辛かった。
けれど――。
途中で止まっては、まるでカリーヌが追いつくのを待っているかの様に、リュカらしきリバーツェは進んで行く。
あと少しで捕まえられると思ったら、開いていた扉の中にシュッと入ってしまった。
(リュカ、待って……)
慌ててカリーヌも中に入ると……そこは、一度だけ来た事がある、見覚えのある部屋だった。
カリーヌは辺りを見回し、リュカを呼んだ。
「リュカっ、お願いです! 出てきてくださいませ!」
「……カリーヌ嬢?」
背後から、急に声をかけられてビクッと肩が跳ねる。
カリーヌのリュカを呼ぶ声を聞いて出てきたのは――リュカではなく、カリーヌの知らない男性だった。
慌てて、カリーヌは勝手に部屋に入ってしまったことを謝り、その男性の顔を見た。
「……アレクサンドル殿下? えっ、違う……? あっ、失礼いたしました! 人違いをしてしまったようです」
アレクサンドルによく似た男性は、同年代には見えず少し年上のようだ。
漆黒の髪に瑠璃色の瞳の、落ち着いた優しい雰囲気で、どことなく聞き覚えのある声でカリーヌに話しかけてくる。
「今日はダンスパーティーの筈ですが、どうしてこちらに?」
「え、あっ! こちらに、リバーツェは来なかったでしょうか?」
「……リバーツェ?」
男性は怪訝そうな顔をし、周りを見渡した。
(どうしましょう。不快にさせてしまったかしら……でも)
「申し訳ありませんが……少しだけ。ほんの少しだけ、探させていただいてもよろしいですか?」
カリーヌは勇気を振り絞りお願いすると、男性は優しく微笑み頷いた。
「では、僕も一緒に探しましょう」
――ドキッ!
カリーヌはそのアレクサンドルに良く似た男性に、胸が高鳴るのを感じた。
(……初めて会った方に、どうしてドキドキしてしまうのかしら?)
自分の感情が理解できないまま、部屋の中を二人で隈無く探した。初対面の男性と一緒にいるとは思えない程、自然に振る舞えていることに――カリーヌ自身が驚いている。
「……見つかりませんね」
残念そうに言う男性に、お礼を言おうとすると。
「カリーヌ様?」と、背後から名前を呼ばれた。
「まあ、ステファン様!」
今まで何度も会いたいと願っていた――リュカと同じ髪色をした、ステファンが立っていた。