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でも私――……。何を言うつもりだったんだろう。言わなくて良かった。二人にとってはただの思い出話でさっさと過去を置き去りにして今のパートナーへと想いを馳せる。
私だけが23歳に戻って、あの時ほのかな恋心を橘さんに伝えていたら、今隣にいるのは私だったかな、とか。30で恋人と別れた時、三宅くんに告白されていたら、だとか。今の私が23歳や30歳に戻って期待する。たらればほど不毛なものは無いのに。
今の私の結婚したい気持ちが結婚式で増殖して、かつ過去の好意が期待させておいて現実を叩きつけて来る。ただ、もやもやしただけだ。二人には別のパートナーがいて幸せで、私には何もない。そう思うと心の底から苛立つような感情がせり上がって来た。完全に八つ当たりなことは理解して、人の幸せをお祝い出来ない人間に成り下がりたくはなく自分で自分をなだめた。
ふう、落ち着こう。何もなかった。今まで通り何もなかっただけだ。そう、私は大丈夫。
聞いたことがある。持っている物が一辺倒になったらこけてしまうって。だから3つの足で立ってる三脚はなかなかこけないんだって。だから、私は大丈夫。仕事もあるし友達だっている。趣味だってある。ちょっと恋愛が上手くいかなかったからって私はこけたりしない。
「東谷、どした? 」
先行く二人が振り向いた。ぐっと唇を噛む。
「んーん、何でもない」
何も考えてない二人を前にこけるかこけないか考えてる自分にやっぱり悔しいけど、私も前に進もうとする。この二人のように過去のことと笑えるように。
そう思って二人の後頭部を交互に睨みつけた。
そして気が付いた、私ってそんな好意を持っている人にすら、結婚はおろか恋愛に興味ないように見えるのかな。もっと自分から行ってもいいのかもしれない。これ以上チャンスを逃さないためにも。
厳かな披露宴とは違い、会員制の二次会は新郎新婦の友人たちの賑やかな中に彼らの仕事とは違う一面が見られて楽しかった。
「若干、職場の同僚って2次会まで招待する必要あるかなって気しますね」
「あー。友達だけでいいかもな。俺ら浮かないように気を使ってくれてたのと、景品豪華で盛り上がってたけど」
「はは。そうですね、楽しかったですけど」
「会員制だし、嫌なら断ればいいだけだけど。気使って呼ばれるなら遠慮するかなー」
「人数集まらないってんなら行くかな」
「その前に人数集まらなかったら日を改めて、単に仲間内で飲むくらいでいいんじゃない」
「あ、そりゃそうっすね」
三宅くんは、呼ぶ側として色々と橘さんに意見を聞いていた。再会したばかりの彼女とはもうそこまで話が進んでいるのだろう。心が決まっている三宅くんに彼女が羨ましくなる。
誰かが自分を結婚相手として、生涯の伴侶として考えてくれるというのはどんな気持ちだろう。私には到底手の届かない夢のようで想像も出来なかった。
この後まだ飲むと言った橘さんと三宅くんと別れ、時間つぶしで寄った雑貨屋さんで買った小物と結婚式で配られたもので手荷物はそれなりに多くなった。履き慣れないフォーマルな足元。ヒールの踵が痛い。
そうだなぁ、2次会は断っても良かったのかもしれない。
街中のベンチに腰掛けると靴ずれを確認する。不思議なもので一度立ち止まって靴を脱いでしまえば、傷口が痛すぎてもうパンプスが履けない。どうしよう。どこかに絆創膏はないかと探したが、入れたはずのない物が見つかるわけがなかった。……コンビニまで何とか行って、絆創膏を買おう。あー、立つのも憂鬱だ。
「あれ、さっきの……」
人の気配がして振り向くと、同じ二次会に参加した人達がいた。
直接は話さなかったけど、ゲームなんかは会場の一体感もあり、何となく覚えてる。
私より若い男の子と女の子数人の団体だった。いくつだろう。20代半ばから後半、くらいかなと推測した。
「靴ずれですか? 俺、絆創膏持ってますよ。よかったらどうぞ」
そう言って一人の男の子が絆創膏を手渡してくれた。
「ありがとうございます。ほんとうに助かります」
嬉しさから直ぐに甘えてしまった。
「え、すごい。絆創膏なんていつも持ってるなんて。えっと、ゆうじくんだっけ。すごいね」
私とそのゆうじくんを覗き込むように女の子が言った。
「ああ、彼女がよく靴擦れするから持ち歩くの癖」
「え、彼女? 今からフリーの子たちで飲もうってことじゃなかったの? 」
「あ、今はいないいない。前の彼女ってこと」
「そっか。びっくりした」
「さすがにな。今日みたいな日に悪さしないって」
会話からこの団体の状況がわかってしまった。
私は少し酔っているだろうこの人たちが話すのを聞いてる間に靴擦れにパンストの上から絆創膏を貼って応急処置をした。
「ありがとうございます。助かりました」
「あ、いいえ。お姉さんも、気をつけて帰って下さいね」
「お疲れさまでした! 」
そこはぎこちなさにも期待を孕んだ空気感で新郎新婦の縁でつながった出会いの場なのだろう。今や下の世代が適齢期ってやつか。
『お姉さん』と呼ばれたのが耳に残った。わかってるけど、ずっと年上で、見たらわかる年齢差で、独身の子が集まって縁を結ぶ。私も独身だけど、そこには呼んでもらえなくて。いや場違いだからいいんだけど。独身じゃないと思われてる可能性もあって、普通は結婚してる年で。そりゃ新婦より年上だし。わかってるんだけど、それでいいんだけど、しばらくもやもやする気持ちをやり過ごすのに時間がかかってしまい、ベンチから動けなかった。
いや、いいんだけど。絆創膏、有難いな、うん。ありがとうございます。無理に感情を収めた。
コメント
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うわあ、このエピソードめっちゃ刺さった…😭💕 主人公の「たられば」考えちゃう気持ち、すごくわかる〜!しかも三脚の比喩、めっちゃ良い…仕事も友達も趣味もあるのに恋愛だけうまくいかないもどかしさとか、靴ずれで立ち止まった瞬間に年齢差突きつけられちゃう切なさとか、読みながら一緒にもやもやしちゃったよ…。絆創膏くれた優しい男の子に「お姉さん」って呼ばれたとこの描写、地味に傷つくポイントすぎて泣ける…。西原さんの心情描写、繊細で大好きです🌸 続きも楽しみにしてるね!