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※私達は四百年もの間、狂座として裏から世の安定を図ってきた。それは様々な『消去』という形を以てだ。
年月と共に、確固たる組織としても安定していき、正に狂座は順風満帆だった。これなら近い内に訪れる運命も、異なるものになるかもしれないと、私は思っていた。
だが私達は永遠の存在とはいえ、所詮はかりそめの存在。生体で狂座の真の当主が必要と、ノクティスが考案した。今から三十年もの前の事だ。
だが狂座には後継者足る、真の可能性を持つ者は皆無だった。
この数百年の間で、誰一人として第三の壁を超える者さえ居なかった。第二止まりが関の山。それでも世の安定を図るに足るは、それで必要充分以上なのだけどね。
だが狂座の後継者としてなら、それは余りにも力不足。
そこでノクティスが提案したのが、生体である能力者を育てるのではなく、新たに能力者を“創り出す”事だった。
私は馬鹿な事だと笑った。それではまるで、人類がノクティスを創り出したのと同意ではないかと。
だがノクティスの思考は、私の想像をも超えていた。
神を超えし者は、思考も常識を超える。
つまりノクティスは、人が神を超える為に自身を生み出したように、私達二人の神を超えし者が、それを超える生体を生み出そうと考案したのだ。
神を超えし者が、それを超える者を新たに創る。それは想像すらも超えた行為。
だが、そんな事は不可能だった。
確かにノクティスは両方の性を同時に持つ存在。私達の遺伝子なら理論的にそれは可能だが、私達は形は在っても既に存在しない者。生体に命を植え付け、産み出す”事自体が出来ぬ身。
ならばともう一つの可能性が、私達の細胞から創り出す事。だがこれも等しく不可能。
私達には、細胞という枠すら存在しない。遺伝子から何まで全て、この世の理には存在しない。
まあ仮に、私達が存在する生体だったとしても、その案を私が受け入れる事は無かっただろうがね。
だからこの計画自体が最初から破綻し、絶対に実現しない筈だった……。
だが――私は知らなかったのだよ。存在しない筈のノクティスの細胞。かつてノクティスを創ったハルが、その細胞を保管していた事に。
だが、それだけでは計画は実現しない。もう一つ、私の細胞が必要だった。
計画は頓挫したと思われたまま時は過ぎ、今より二十六年前。私の転生体となる幸人――君が現世に転生した。そして二年後、奇しくも同じ魂を共有するもう一人の私、そして君の妹で在る――『如月 姫紀』が……ね。ノクティスは内密に、私の転生体を探し当てた。
二人の特異点としての資質は魂と同様、同一だった。
ノクティスの考えでは、男性より女性の方がより神秘的な力が働くと考えていた。ノクティス自身が、女性寄りのベースだからね。
つまり姫紀は選ばれたのだ。ノクティスの野望が依代に。
――私は二人が私の転生体だった事も、全ての事が終わってから後に知った。私が受け入れる筈が無いと、ノクティスは極秘に事を進めていた。
そして遂に機は熟した。今より十一年前、オリジナルの細胞を入手する為と、同時に二人も要らないオリジナルを内密に消す為、ノクティスは作戦を決行する。
細胞を入手するだけなら、方法は幾らでもあった。だが、あくまで私に知られてはならない。そして何より、幸人自身も欲しかった。
表向きには通り魔的な、不法入国者達の犯行に見せ掛けて、幸人達近辺一帯を襲撃した。
この一件で、瀕死ながらも生き残ったのは予定通り幸人と、幼馴染みでありコード『デビル』、勝弘の二人のみ。それでも表向きには、全員死亡となったがね……。
事態を聞き付けた私が手を回し、表では死亡する事になった二人を、裏に生を回した――“エリミネーター”として生きる為に。
その後、私と同一系統である幸人の、優秀なエリミネーターとしてへの指南を自ら買って出た。これは私の後継者に足る逸材だと。
それでも幸人が私で在る事に気付かなかった。自分の事は、自分が一番分からないとはよく云ったものだ……。
これもノクティスの計算の内だったのかもしれない。狂座の後継者ベースとなる依代の私――姫紀ともう一つ、最強のエリミネーターとしての私――幸人を同時に手に入れる。かりそめでは無い、生体としてのね。
結局の所、私もノクティスの掌で転がされていたのだよ。
――そして時は過ぎ、今より四年前の事。私に見せたいものがあるとノクティスに呼ばれ、エルドアーク地下宮殿へ足を運んだ。
それは完成した事の知らせだった。其処で目にしたものは、秘密研究室で培養液の中に漂う、一人の生体だった。
其処で初めて私は全てを知らされたのだ。ノクティスの細胞と、私――姫紀の細胞とを掛け合わせた、人造生体が創られていた事を。
同じ人造生体でもノクティスとの最大の相違点は、ノクティスが完成品として創られた事に対し、それは幼子として創られた。
完成品はそれで完成。だが成長と共になるよう創ったのなら、完成の暁には“最初から完成品を”も超える。
培養液の中でまだ目覚めておらず、十歳にも満たない幼子で在りながら、その子は既に臨界突破を計測。そしてこれまでに無い、未知の能力も確認された。
――そう。悠莉、君の事だ。君は神を超えし者が、それすらも超える者として創られた人造生体。狂座の真の後継者足る、究極にして禁断の存在だ。
悠莉の存在はその力によって人を意のままに操り、支配するだけに留まらず、肥大した力は何時の日か、全宇宙を精神電脳ネットワークで覆い支配下に置く、狂座の真の意味での女王支配者になる事に意義があった。それがかりそめの存在の自身に代わる、ノクティスの真の狙いであり到達点。
再び創られるだろうノクティス自身に対する、最大の切り札としてもね……。
創られてしまった以上、最早私にはどうする事も出来なかった。悠莉は云わば、私にとって娘にも分身にも等しい存在。
私は以降、ノクティスと――狂座と決別し、対成す『ネオ・ジェネシス』を創設。ノクティスがそのつもりなら、私は私のやり方で運命を変えてみせる。
その為には、どんな犠牲を払おうともね。
ノクティスが悠莉を切り札にしているように、私も目的は同様。異なるのは彼女を宇宙の女王支配者としてではなく、その力で生体の根本原子を浄化する為に――だったがね。
――これが……全ての真相だ。
未来と過去が現代に交錯し、運命は大きなうねりを迎えようとしている。
この先は……――
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