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「そんな……ボクが幸人お兄ちゃんの妹さんと、あの人の細胞で創られたなんて……」
エンペラーより語られた真実に、悠莉は呆然自失。
「悠莉……」
何となく予感はしていた。だが琉月は思い止まる。
だからといって、悠莉が大切な存在である事。それに何ら変わりはない。
「じゃあ……あの時の事件は――」
自身がエンペラーの転生体で在る事実以上に、雫にとっても衝撃は大きかった。
「そう……全てノクティスの思惑通り。いや、私達が全ての元凶だ」
妹が殺され、自身も裏に生きる事になった事。そして妹の写し身とも云える悠莉が、それらで創られた事。その全てが狂座の手の内だった事にだ。
つまり狂座に属する彼等も全て、この闘いさえノクティスの掌で踊らされていた事になる。
――では自分達は、今まで何の為に?
各々がこれまでの経緯に、複雑な心境で立ち竦むしかない。
「……私はただ、定められた運命を変えたかった。だが、もうその必要も無い。可能性を見出だす事が出来たのだから――」
“――っ!?”
不意にエンペラーの身体が、更に薄くぼやけた。
「永久体と云っても、所詮は存在しない者。私達を消しうる可能性を持つのは、それを超える生体のみ」
エンペラーは消えて無くなろうとしていた。雫が一瞬とはいえエンペラーを凌駕した事により、その存在意義を絶った事になる。
「ユキ!」
消えようとするエンペラーを、亜美は抱き止めようとするが、感触さえも徐々に薄れていく。
「アミ……済みません。約束を二度も破る事になってしまい……。だけど私は消えねばなりません。本来在るべき死後の、待っている人達の下へ」
「そんな……やっと逢えたのに。四百年も独りにさせたのに、こんな……」
亜美はこの決別が最初から必然だと分かってはいても、やるせなかった。
「……貴女は貴女。『水無月 亜美』以外の何者でもありません。昔の事も私の事も忘れて、今を生きて幸せになってください」
エンペラーは今一度、亜美へ自分自身の事を促す。昔の事に関係無く、大切なのは今を生きる、この時だと。
何時の間にかエンペラーの口調が、何処か穏やかなものに変わっている。本来、これが彼の地なのだろう。
「何も悔いはありません。確かな未来の可能性を、見る事が出来たのですから……」
そう言ってエンペラーは、辺りを見回した。
彼等――そして雫へと。
人の持つ無限の可能性を彼等に――雫へ託したのだ。
「古きは土に帰り、無へ還ろう。次なる新たな芽を育む為に――」
それが本来の生態系の、在るべき姿。命は何時か必ず終わりを迎え、次の世代へと受け継がれていく。
エンペラーの存在は、本来在ってはならない――。
消え逝く間際、エンペラーの下へ歩み立つ雫。
「……かと言って、お前の行いは許されるものではないし、考えを改めるつもりも無い」
それは彼――エンペラーへの同情では無い。
「俺は俺だ。例え魂が同じで在っても、俺はお前を認めない」
エンペラーは敵で在り、絶対悪。それは変わらない事を、雫は確かに突き付けた。
「俺も……同じだよ。アンタに同情する気も、許す気もねぇ」
「これまで多くの犠牲と、兄に手を掛けた貴方は……」
重傷で動けないが、時雨と琉月も同じ気持ちだ。
「……それでいい。私は絶対悪で在り、君達の世の反逆者。だからこそ私を、決して許すな」
エンペラーは反論も、言い訳もしなかった。
自分は最後まで悪として消える――それが正しく、彼等への最後の餞。
「君達は自分の信じる道を進めばいい……――」
「ユキ……」
そしてそれを最後に、エンペラーは亜美の腕の中で消えていった。まるで最初から存在しなかったように。
“ありがとう。そしてさようなら……アミ。カレン、遅くなったけど、今行くよーー”
過去の恋人に別れを告げ、先に逝った“現世での恋人”の下へーー。
だが確かに存在した。その証として、彼の刀――『雪一文字』を現世に遺して。
「……お前は認めないし、俺は俺だが――」
雫はエンペラーが消えた後に残った、その刀に手を伸ばす。
「お前の生き様は俺と共に在る」
そしてしっかりと刀を――エンペラーの生き様を受け継いだ。