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エルフのサンフィアが感じた魔物の気配は、おれも感じることが出来ている。気配から察するに、確かに強さの度合いが違うようだ。人質を取ったつもりのフィーサ、ミルシェの二人も気付いている。炎を獣人らに見せつけていたフィーサは、すぐに炎を消して獣人らを落ち着かせ始めた。
サンフィアはシーニャとルティにかけていた幻影を解き、そのまま姿を隠す。その場から消えたわけでなく、魔物から見えないようになっただけだ。
「キサマの力を間近で見させてもらう!」
「それなら大人しく見ていることだ。魔物に気取られないようにすることだな」
「キサマに言われずとも!」
お互いに減らず口を叩くが、どうやらこの戦闘に関しては信用してくれるようだ。辺りから彼女たちの気配が消えたその時、森林ゲートの向こう側――公国の居住区がある所から強大な気配を感じ始める。
恐らくハイクラスモンスターと言われる魔物ということだろう。
強さの気配もさることながら、図体もその辺の魔物とは比べ物にならないほどでかい。閉じられていたゲートを突き破り、真っすぐこっちへ向かって来る。
「……おれを目がけて来るってわけか!」
おれの潜在的な強さにも気付いていながら突っ込んで来るそいつの姿は、どう見てもドラゴン。それも、空を飛ぶドラゴンではなく地を這って向かって来る。
全身真っ赤な姿を象徴するように、骨まで溶けそうな灼熱の炎を口から吐き出していた。
「グオォォ……グオウゥゥ――」
あちらは完全にやる気を見せていて、一気に押しつぶすつもりらしい。幻影で隠れた彼女たちを露わにするつもりは毛頭ないので、氷属性で片付けることにした。
「――せっかく出て来てくれたが、一気に倒させてもらう!」
赤いドラゴンは完全におれしか見えていない。そいつの視線の死角ともいうべき、頭上にドラゴンと同等な氷の塊を作り出した。
そして、
「……ギィェェェェ!?」
無詠唱によるフリーズをドラゴンの頭上から、勢いよく落としてやった。奴は完全に油断していたようで、上空からの氷の塊には気付くことが無かった。
もっと手ごたえを感じたかったがこの場には見えなくとも、彼女たちが近くに控えている。幻影の効き目と防御力の効果が不明、ということでおれは惜しみなく魔法を使用した。
もっともフリーズ程度なら大して魔力を消費することはほとんど無い。赤いドラゴンの強さが拍子抜けと感じてしまった為だが、単体だったことが幸いと考えるべきだろう。
◇◇
「――人間、キサマ! ドラゴン族……それも亜種のノートリアスモンスターをあっさりと片付けたというのか?」
ドラゴンの気配が感じられなくなったところで、幻影で隠れていたサンフィアが姿を現わす。シーニャとルティはもちろん無事のようだ。
「……その前に、彼女たちがぐったりしている理由を聞こうか!」
「フ、幻影の守りを受ける前の攻撃で疲労が蓄積されていた。ただそれだけのことだ」
「幻影疲れ? あぁ、そういうことか」
シーニャとルティは、幻影で作り出された大量のエルフに殴りかかっていた。その全てはもちろん偽物であり、彼女たちにとっては全く手ごたえの無いまま体力を失ってしまったといったところだろう。
「――亜種のドラゴン族。我は一度だけ見たことがある。それもここが滅亡してしばらく経ってからのことだ。アレらはノートリアスと呼ばれる名だたるモンスター……。それを何故キサマは簡単に倒せた?」
何故と言われてもという話だが。
「見たと言ったが、それはゲートの向こう側か?」
「そうだ。人間が住んでいた辺りには、アレと似たノートリアスがうじゃうじゃいた。我はアレらをどうにも出来ず、立ち向かうこともままならなかったのだ! それをキサマ、人間が……!」
「サンフィア……だったか。お前の魔法は強さを示すものでは無いってことか?」
「そうだ。我は魔力量が乏しい。たとえ真紅のローブを身に纏っていても、攻撃性のある魔法を放つことなど出来はしないのだ!」
そうなるとやはり近接攻撃が得意なエルフか。魔法を放つことが出来ていながら、槍を手にしているから変だとは思ったが。
「……それで、おれへの見直しは?」
「――フン、キサマの名を呼び我の名を呼ぶことを許してやる! キサマ、名は?」
「アック・イスティだ」
「イスティ……イデアベルクの名か。生き残りが帰還したということは、我らの道もようやく定まるか」
どうやら一匹倒して認めてくれたらしい。しかしゲートの向こう側にうじゃうじゃとか、複数の相手は骨が折れそうだ。
「サンフィアも協力する……ってことでいいんだな?」
「当然だ。イスティがすることに是非も無いこと」
「それなら一緒に付いて来い」
「いいだろう」