人間を嫌っていたサンフィアだったが、力を見せただけで態度を軟化。獣人の子たちを封じていたフィーサたちは手を止め、おれの所に駆け寄って来る。ルティとシーニャは幻影の影響からか、寝起きのような状態になったままだ。
「気にするな。我の幻影には後遺症など残らぬ。アレらは幻影に力を放っていた。疲れが出たのだろう」
――などとサンフィアが穏やかな表情で言うので、二人は少し休ませることにした。
「……それで、アックさま。エルフとどうされるおつもりが? 獣人の子も決して少なくありませんわよ?」
「連れて行く。サンフィアは戦力になるし、後々の国づくりには必要だからな」
「ええ!? で、ですけれど……」
「それにミルシェにとってもいい話だろ?」
「モ、モフモフのことを言っているなら、口外して欲しくありませんわね」
「分かってる」
水棲怪物だった時の彼女は胴まわりに狼を従えていた。しかし人間に成り代わったミルシェは力を失い、今は獣を従わせることが出来ない。
そこにきての獣人の子たちとの出会い。時には癒しも必要だろう。
「イスティ、話はまとまったか?」
フィーサにも話を――と思っていたら、腕組みをしたサンフィアが後ろに立っていた。
「何だ、急かす話か? サンフィア」
「我のことはフィアと呼ぶがいい! イスティならば夫たるに相応しい相手だからな!」
愛称のようなものだろうか。
しかしそれよりも、
「今なんと?」
「フィアと呼べ」
「いや、その後の……」
「我の夫に、だ!」
聞き間違いじゃなかった。急展開すぎる。サンフィア以外にもエルフがいて、若い男も見えているというのに。
『はっ? はあああああ!?』
ミルシェはもちろん、他の獣人たちも驚きの声を上げている。
「フィアさま、今の言葉は本当なのにゃ?」
「おい、フィア! 俺との約束は!?」
――途端におれたちの回りに人だかりが出来た。今の時点でルティたちが寝惚けているのが幸いか。
「不思議なことはなかろう。キサマたちにも分かったはずだ。イスティの強さの程をな!」
「一応聞くけど、フィアは人間にして何歳に?」
「……何だ、キサマも細かいことを気にする奴か? 我は確か20を越えている。エルフでは若い方だぞ」
年齢はいいとして、こんな簡単に決めていいのか?
「し、しかし、他のエルフとの約束があるんじゃ?」
「我はキサマがいいと決めたのだ! つべこべ言わず、誓約を結ぶぞ!」
「誓約?」
「そうだ。イスティ。キサマ、我の傍に来い!」
よく分からないまま、サンフィアの傍に寄ることに。すると、サンフィアは少し屈んでおれに跪き、そして。
「……ん?」
「我、サンフィア・エイシェンは、アック・イスティの生涯の妻として生きることを誓う」
「……うぅ」
「イスティ、我に触れろ!」
「あ、あぁ」
言われた通り、サンフィアの肩に触れようとする――が、
「違う! 我の耳だ!」
「こ、こうか」
「よ、よし、いいぞ……」
何かイケないことをしている気がしてならないし、ミルシェたちは怒りを我慢しているようにも見えている。
「イスティ、次はキサマだ! そのまま動くな!」
「……う? んむっ!? んむむむ――!?」
「――ハァッ、フフ……これで成った」
「誓約ってつまり?」
「契りだ」
何とも強引なことをされてしまった。
「そ、そうか。とにかく、イデアベルクの為によろしく頼む」
「当然だ! イスティの為にも共存共栄を誓うぞ!」
パーティーに加わる訳ではなくイデアベルクの住人ということになるが、どう考えてもルティやシーニャと揉めることになりそうだな。
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