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酔ってる涼ちゃん可愛いです(*´`) もりょきがどうなるのか楽しみです☺️
サラダ食べてはずかしくなっちゃう涼ちゃんだ! いろはさんの作品って完成度ももちろんなんですが、ミセス愛が伝わってきて本当に好きです💚
私、毎日のように、このお話や短編を更新してくださるの、とても楽しみにしています🤭💛
綾華は
「なんだ。うんいいよ」
と軽く頷く。いやいや待て、と逆に俺が制止をかける羽目になった。
「最後まで聞いてほしいんだけど」
「え、あぁ、ごめん」
「……その、俺はメジャーデビューを目指したいと思ってる」
はっと綾華が目を見開く。動揺にその瞳が揺れるのが分かった。
「綾華には夢があるだろ、学校の先生になるっていう夢が……俺と組んでほしいっていうのはその夢を捨ててでも俺についてきてほしいってことなんだ」
彼女はなるほどね、と言って俺から視線を逸らした。
「返事は今すぐじゃなくていい。でも俺は、今日の高揚感からのノリだけで言ってる訳じゃないってことは知っておいてほしい。そのうえで、俺は今日みんなで作り上げたあの場所がどうしても欲しいと思った」
彼女は真剣な表情のまま頷いた。
「私も、今日はすごい楽しかった。前に組んでたバンドじゃ得られなかった満足感と高揚感があった。だからこそすぐには返事ができない。なぜなら今の私は『冷静』じゃないから」
高野さんと涼くんにはこれから?と聞かれて、俺は頷く。そっか、と彼女は少し考えこんでから
「正直言って私は教師という仕事にそれほどこだわりがあるわけではないの。実は両親が二人とも高校の先生でね。だからなんとなく、っていうだけ。宮崎から出てきてこの大学に進学したのも、一度は都会に住んでみたいと思ったからで……でも涼くんはどうかな。彼は簡単に頷かないかもしれない。もしそうなったらこのバンドはどうなるの?」
俺は黙り込んだ。それは正直言って俺のいちばん乗り越えねばならない障壁でもあるような気がした。
「わからない」
「考えてないってこと?」
少し非難の色を含ませて彼女は俺を見遣る。
「俺、諦めが悪いんだよね」
それだけ言って、綾華の目をまっすぐに見返す。しばらく俺たちは目線を交わす。ふ、と綾華は笑みをこぼした。
「いいね、本当に、もっくんておもしろいね」
彼女はあの日と同じ言葉で、あの日と同じように笑った。
綾華と話していて、改めて自分の決断がいかに重いものかを知らされた気がした。あの『場所』が欲しい。それを実現するための手段としてメジャーデビューという考えに至ったのは自然なことだった。大学のサークル活動では限界がある。就職すればどうしたってみんなバラバラになる。皆を俺に繋ぎ止めて、あの『場所』を手に入れるにはこれしか方法がないと思った。
俺が、藤澤さんにバンドに加わってくれということは、彼の夢を諦めさせることになるのだ。それがどれだけ重いことかを分かっていないわけではない。ましてや、100%デビューできるとも、それで生活できるとも決まっているわけじゃないのに。それなのにどうして、彼に俺の夢を押し付けることができるだろう。
それは綾華に対しても、高野さんに対しても、もちろん若井に対しても同じことだ。俺は彼らに、俺の我儘の実現のために彼らの人生を引き換えにくれと頼むことになるわけなのだ。それでも、と俺は強く目を閉じて考える。諦めようにもあの感覚を知ってしまった今の俺には簡単にはいそうですか、と手放すことなんてできないのだ。
いつもにもまして混沌とした宴会の場で、俺は高野さんを探す。あの人声でかいから目立ちそうなのにな、と意外に思いつつ立ち上がって周囲を見渡すと、ちょうど藤澤さんと高野さんが同じテーブルについているのがみえた。
「高野さん、藤澤さん」
「おっ、元貴、いいところに」
高野さんが楽しげに笑う。あ、これはかなり酔ってるな。話は今度にしたほうがいいだろうか、と藤澤さんに目を遣ると、こちらもかなり出来上がっている。
「いまめちゃくちゃ涼ちゃんが面白い」
「べ、別に面白くないよ~」
「涼ちゃんが野菜食べたいっていうから余ってたサラダもらってきたんだけど、なんかフォークがうまく使えないらしくて、食べてんとこ見られんの恥ずかしんだって」
もう言葉の後半から笑い交じりになって苦しそうにお腹を抱えながら笑う高野さんに
「高野さんが揶揄うからじゃんかぁ~」
と藤澤さんが涙目になって訴える。あぁこりゃだめだ。ていうかアルコールってここまで人を愚かにするのか、めちゃくちゃ怖いな。
「ごめんね、涼ちゃん今日は珍しくすっごいテンション高くて、すごいペースで飲んでるなぁとは思ったんだけど」
藤澤さんの向かいに座っていたのは、藤澤さんの元バンドメンバーの水野さんだった。水野さんも確かどこかのバンドのサポートメンバーとして出演していたはずだったから、打ち上げにも参加しているのだろう。お疲れ様です、と頭を下げると、そちらこそ、と微笑まれる。
「お世辞抜きに本当にすごかったよ……涼ちゃんも久しぶりに楽しかったんだろうね、こんなに羽目はずしてんのほんと久しぶりに見た」
バイクで帰らなきゃいけないからとウーロン茶を飲んでいる水野さんは、どことなく嬉しそうに藤澤さんを見つめている。
「大森君!」
俺にようやく気付いた藤澤さんが、俺の名前を呼びながら勢いよく立ち上がる。
「そう、僕大森君に、」
すっかり酔っ払いな藤澤さんは立ち上がった勢いでふらついて、何か言いかけたのもそのまま、うわぁと高野さんのほうに倒れ込む。あぁ、もう、と僕と水野さんで彼を助け起こしに行く。
「もうそろそろお開きだろうし、涼ちゃんもう帰ろうか。俺送ってくから」
そう話しかける水野さんに、それなら、と声をかける。
「水野さん、バイク取りにまた戻ってくるのも大変でしょうから俺が送っていきますよ。もともと今日は打ち上げもあるから泊めてもらおうかなって思ってたとこだし」
不思議そうな顔をする水野さんに、学祭準備期間に藤澤さんの家にお世話になっていたことを離すと合点がいったように頷く。
「じゃあお願いしようかな。ごめんね、こんな頼りないのが先輩で」
苦笑する水野さんに、俺は首を振る。高野さんに
「後でライン入れとくんでみてくださいね、まじで今日ありがとうございました」
と声をかけると、機嫌のよさそうな高野さんは、おー、と手を振ってみせた。
※※※
学祭編はこのお話を含めて残り3話になります!
なかなかの長編となってきていますが、変わらずお付き合いいただいている読者の皆様に感謝です……!(ㅅ´꒳` )💕