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「華、もういいよ」
成宮くんは目を細め、三上さんより距離を取る。それは教室の端で、俺達と、そして何より三上さんに危害がいかないようにだという配慮だと分かる。
だから、だからこそ、傍観しか出来ない俺の目頭はどんどんと熱くなっていった。
この状態で成宮くんを見捨てても、俺達には三上さんを責めることなんで出来ない。
だって、何の因果で爆発するかが分からないのだから。
「……一回目は、指輪を外さなかったからタイムアップみたいな感じで爆発して。二回目は爽太くんが紗栄子の指輪を外せたけど、紗栄子は外せなかった。音や光的には時間の余裕はあったみたいだし、タイムアップはない。紗栄子と爽太くんで違うのは……。あ!」
顔を上げた三上さんの表情が、どんどんと和らいでいく。それは真っ直ぐに成宮くんを見つめていて、目元が潤んでいくのが分かった。
三上さんの考察を聞いていて、今俺が気付いたのはおそらく同じこと。
北条くんは相手の秘密を知っていて、音霧さんは知らなかった。そこから推測出来るのは一つ。
「『相手を許しているか、許していないか』でしょう!」
三上さんは、そう宣言する。
さっき爆発したのは、音霧さんが北条くんを許さなかったからだった。あのような裏切りを知った後なら、当然だ。
そして成宮くんは、三上さんの指輪を外している。事実を既に知っていて、受け入れていたからだったと考えれば、筋は通る。
『正解です。【指輪が爆発するルール違反】の四つ目は、「過ちを許していない相手の指輪を外す」でした』
クックックと笑う声に悔しさみたいなノイズはなく、ただ嘲笑っているように聞こえた。
五つ目がまだ発覚していないからこその余裕か? それとも……。
その発想が過った時、背筋に嫌な汗が流れていくのを感じた。
いや、考え過ぎだろう。そろそろゲームクリアがないと白ける。そんな、どこまでも身勝手な理由に決まってる。
指輪を外すな、と言いかけた口を閉ざし、俺はただ見守る。最初の生存者となる二人を。
三上さんは、一歩ずつ成宮くんに近付いていく。額には汗が流れ、息遣いは速い。
「来るな」と言う成宮くんに、「次は私の番だから」と言い、震える指を伸ばしていく。
「大丈夫だから、私を信じて」
真っ直ぐに成宮くんを見つめ、強張った笑顔を向ける。その姿に、成宮くんは小さく頷いた。
「……真。もし、もし。助かったら……。このまま、付き合ってくれる?」
途切れ途切れの声に、その緊張が伝わってくる。当然だ、命をかけた戦いを三上さんは果敢に挑んでいるのだから。
「そんなことしなくても、……みんな死んだのに?」
「うん。私、今まで真のこと見ていなかった。どうしたら、みんなに話が出来るネタが作れるとか、そんなことばかり。……最低だよね? だからこれからもう一度あなたを知りたい。身勝手な願いだけど、好きになったらダメかな?」
声色はいつもの三上さんで、話し方も戻っていく。その瞳から溢れてきたのは、恐怖によるものだけではない。だって三上さんは、柔らかな微笑みを浮かべていたから。
「いつでも歓迎するよ。じゃあまずはみんなでここを出て、色々と落ち着いたら二人で出掛けよう。まずは友達として」
「うん!」
三上さんから流れる涙を、三上くんがポケットのハンカチでそっと拭う。
成宮くんはいつも、そうだった。俺のようにクラスで目立たない生徒にも分け隔てなく、いつも穏やかで優しい。
こんなことが始まり成宮くんにまで嫌な本性があったらと、案じていたがそんなもの一切なかった。友達にも彼女にも、優しい人だった。
俺はまた、人を信じて良いような気がした。
立会人の意味が分かったような気がした。見守っていた俺達は手は自然と動き、それは拍手になっていた。
この二人なら大丈夫だろう。成宮くんの想いが三上さんを包んでくれ、今度こそ本当の愛で二人は繋がって。
ピッ、ピッ、ピーー。
パァーン。
その音と共に、二人は折り重なるように絶命していた。
どうして……?
成宮くんは三上さんの秘密を受け入れていた。
互いに未来を語り、前に進もうとしていた。
なのに、どうして?
どうして、二人の未来を奪った?