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「……お母さんが求めていたのは、文の幸せ……だった。文には、人並みに幸せになって欲しかったの……」
お母さんが俯くと、膝元が擦り切れてボロっちいグレーのズボンが色濃く染まっていく。
「文は赤ちゃんの頃からゆっくりさんで、周りの子たちが立って歩き始める頃でも一人ハイハイしてて、周りの子たちがお喋りを始める頃でも一人喃語を話してて、周りの子たちが友達作って遊んでいる頃でも、一人本を読んでいたからねぇ……」
小さい頃のことは僅かに覚えてる。
あの頃は別に本が好きだったわけじゃないし、ホントはみんなと遊びたかったし友達も欲しかった。
だけどどうしても「あそぼ」の一言が言えなくて、「友達になって」と言えなくて、私は一人で本を読むフリをしていた。
お母さんに思い切って声を掛けてみなさいって何度教えてもらっても、分かってても声が出なくて、なんで私はみんなが普通にやっていることが出来ないんだろうって悩んで、それをお母さんに聞いてもらっていて……。
って、普通にこだわっていたのは私の方だったんだ。
「お母さんはね、いつも育児書と文を比べてた。一歳になったら立てる、二歳になったらお喋り出来る、三歳になったら友達が出来る。それが平均だと、つまりそれが普通だと思っていて、それを文にただ押し付けていただけだった」
何それって思ったけど、私でいうテストの平均点みたいな感じかな?
とりあえず平均までいってたらまあまあというか、安心というか。それを満たさないと、途端に不安が襲ってくるんだよね。
私は、普通以下なのかなって。
「お母さんも中学生のころ、友達いなかったの。口下手で引っ込み思案で、いつも一人で。周りの子たちがオシャレして、楽しそうに笑ってキラキラしている中で、どうしてそうなれないのかなっていつも悩んで。大人になって無理に友達は作らなくて良いのだと自分なりの答えを見つけたはずだったのに、文が生まれて、お母さんと同じ道を辿ってて。周りの子たちを遠い目で見てて、自分が子どもの頃とか思い出したりとかして。文が中学生の時に経験した嫌なことは、お母さんも似たような経験があったから、余計に苦しくて……。文には、お母さんみたいになってほしくなくて。だから友達、友達って散々言って、文に理想の娘を押し付けて。ごめんね、文。お母さん、自分勝手だった。一番の味方でいないといけないお母さんが、一番追い詰めていたなんて……。ごめんね」
お母さんの本音に、ズンと重たいものがのしかかってくる。
お母さんも友達いなかったんだ。私みたいに生きづらさとか感じてたんだ。お母さんは、私を一番に思ってくれている人だったんだ。
「……お母さん。私、私ね!」
それから私は幼稚園児のように、今までどれほど辛かったのかお母さんに話した。
もうお母さんは否定しない。
「辛かったね」、「気付かなくてごめん」、「もう頑張らなくていい」と返してくれた。