テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ただ、創の様子は……やはり変だ。
息苦しい車内で、少しでも光を探している。
「玲那には恋人がいるよ。心配しなくても、ちゃんと知ってる。それは別にいいんだ」
創は腕を組んで、至極落ち着いて返した。
「玲那は何て言ってた?」
「あ……お前のことは、好きだって言ってたけど」
ただ、それは“友達”として。
「そうか。俺もあいつが好きだよ」
窓の外の夜景を眺め、創は自嘲気味に笑った。
「そもそも嫌いになる要素がないんだよな。玲那に限らず、みんな俺に媚売ってくるから。このままいけば出世街道まっしぐらだし」
「……創、お前」
「怒んなよ。お前も同じだろ、准。……腹の底ではさ」
違うと言いたかった。けど今の彼を窺うと言葉を選んでしまう。
考えてるうちに前が動き出した為、運転に集中した。
「ゆくゆくはこの会社を担ってくんだ。期待されて当然だよな。でも玲那は違う。あいつは俺がどんな人間でも一緒になってくれる。結婚自体に興味がないから。だから、俺はあいつを選んだ」
……え?
「何? 何の話かさっぱり分からないんだけど」
「はは、准には分かんないよな。俺のことも、玲那のことも……分かんないから、平気で口出ししちゃうんだって」
それは挑発ともとれる台詞だったが、准は首を横に振って打ち明けた。
「そうだな。その通り、全然わかってない。だから教えろよ」
「断る」
「創……!」
だが、これでは一向に話が進まない。できる限り冷静を保ちたいが、彼の一辺倒な態度は准の気を逆撫でした。
「話してくれないと分かんないだろ。どうして話してくれないんだよ」
涼の存在が頭をよぎる。どうして皆、自分の苦しみを隠そうとするんだ。
「俺はお前が悩んでることにちっとも気付けなかった。悩みがあっても、必ず相談してくれるって自惚れてたから」
段々と声が小さくなる。
信じていたのは自分だけだったのかって思うと自然と。
「話せない事情があるならそうだと言ってくれ」
だけどもし、そういう訳じゃなかったとしたら。
創、お前は……、
「俺のこと……そんなに信じられなかった?」
「……!」
出来ればもっと早くに頼って欲しかった。
従兄弟として、友人として、それこそ兄として。
「准」
どんな事情があっても、彼の味方でいたのに。
「勘違いすんなよ。信じる、信じないっていうより……」
静まり返った車内で嫌に声が響く。
「准が大事だからさ」
ただただ、鼓膜と心に突き刺さる。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!