テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
月曜日。
文化祭が終わった翌朝。
教室はいつもより静かだった。
「おはよう、玲くん」
「おはよう」
星羅はいつも通り笑っている。
けれど。
玲は少し違和感を覚えた。
「……どうした?」
「何が?」
「昨日からずっと機嫌いいな」
「だって……」
星羅は少し恥ずかしそうに笑う。
「昨日、ずっと玲くんと一緒だったから」
「……」
玲は視線を逸らす。
「そうか」
「うん♪」
星羅は席につく。
そして。
昨日もらったぬいぐるみを鞄から出す。
「……まだ持ってるのか」
「もちろん」
「学校まで?」
「だって大切だから」
「そうか」
「玲くんからもらったんだよ?」
「分かってる」
「じゃあ、ずっと大切にする」
星羅はぬいぐるみを抱きしめる。
昼休み。
二人で屋上へ向かう。
「ねえ、玲くん」
「ん?」
「昨日のこと覚えてる?」
「文化祭?」
「うん」
「覚えてる」
「……私が他の男子に話しかけられたとき」
「ああ」
「玲くん、ちょっと嫌そうな顔してた」
「……してない」
「してたよ」
「気のせい」
星羅は笑う。
「じゃあ、私も同じだったのかも」
「何が?」
「玲くんが他の女の子と話してたら……」
少し黙る。
「私、嫌だった」
「……」
「すごく」
星羅の声が少し低くなる。
「玲くんが誰かと楽しそうにしてるだけで、胸が苦しくなる」
「星羅……」
「だからね」
星羅は玲を見る。
「私、玲くんの隣は私だけがいい」
玲は黙る。
「……重いだろ」
「うん」
星羅は笑う。
「重いよ」
「自覚あるのか」
「ある」
少しだけ寂しそうに。
「でも、好きだから」
玲は何も言えない。
星羅はそんな玲の手を握る。
「嫌?」
「……嫌じゃない」
「本当に?」
「ああ」
星羅は嬉しそうに笑う。
「じゃあ、よかった」
その日の放課後。
玲が教室で帰り支度をしていると。
「黒瀬くん!」
女子生徒が声をかけてきた。
「ちょっと相談したいことがあるんだけど……」
「ああ。何?」
女子生徒が玲の机の前に立つ。
星羅は少し離れた場所から見ていた。
「……」
笑顔。
いつもの笑顔。
けれど。
手に持ったペンが、少しだけ強く握られている。
「……」
玲が女子生徒と話している。
星羅はじっと見つめる。
数分後。
「じゃあ、また明日」
女子生徒が帰る。
「玲くん」
「ん?」
「何話してたの?」
「委員会のこと」
「……そう」
星羅は笑う。
「ならよかった」
「……?」
玲は星羅を見る。
「どうした?」
「ううん」
星羅は笑う。
「玲くんが誰かに取られちゃったらどうしようって思ってただけ」
「取られないって」
「……うん」
星羅は玲の腕を掴む。
「でも」
「?」
「念のため」
ぎゅっ。
少し強く抱きつく。
「私が一番近くにいるから」
「……」
「ずっとね」
玲は少し驚いた。
いつもの星羅とは違う。
笑顔なのに。
目だけは真剣だった。
「……星羅」
「ん?」
「ちょっと怖いぞ」
その瞬間。
星羅の表情が止まった。
「……怖い?」
「ああ」
星羅はゆっくり手を離す。
「……ごめん」
「……」
「嫌われた?」
「そういう意味じゃない」
「……本当に?」
「ああ」
星羅は俯く。
「よかった……」
そして。
小さく笑った。
「ごめんね」
「別に」
「私、玲くんのことになると……」
言葉が止まる。
「自分でも、どうしたらいいか分からなくなるの」
「……」
「好きすぎて」
星羅は胸元を押さえる。
「頭の中、玲くんでいっぱいになる」
玲は何も言えなかった。
星羅はそんな玲を見て。
「……それでも」
優しく笑う。
「嫌いにならないでね」
帰り道。
二人はいつものように並んで歩く。
少しの沈黙。
そして。
「玲くん」
「ん?」
「手、繋いでいい?」
「ああ」
星羅が手を握る。
今度は。
さっきほど強くない。
ただ。
離れないように。
そっと。
夜。
星羅は自室で、今日のことを思い返していた。
「……怖い、か」
鏡を見る。
そこに映っているのは。
人気VTuber、星乃セラ。
そして。
一人の男子高校生を好きになりすぎた少女。
「……私」
笑う。
「そんなに怖いかな?」
答えはない。
星羅はベッドの上に置かれた玲からのぬいぐるみを抱きしめる。
「でも……」
「玲くんの隣は、私がいい」
誰かに譲るつもりなんて。
最初からない。
「だって」
ぬいぐるみに顔を埋める。
「私が一番、玲くんを好きだから」
そして。
静かな部屋で。
「……絶対に離さない」
その言葉だけが。
誰にも聞かれることなく。
響いた。
#青春恋愛
める
48
夏希(なつき)
166
奇蹟あい
1,760
コメント
1件
第23話、読み終わりました。文化祭の余韻がまだ残る中で、星羅さんの「玲くんの隣は私だけがいい」という言葉がすごく刺さりました。笑顔の裏でペンを強く握る描写や、「怖い?」と聞き返すところの寂しげな表情――執着と不安が同時に伝わってきて、胸が苦しくなりました。最後の「絶対に離さない」の独白も、星羅さんの内面の強さがにじんでいてずしりと来ます。二人の関係がどう転んでいくのか、目が離せません。