だが、結婚から半年経過した時だ。この頃の俺は、今ほどではないにしても、かなり疲弊していた。
まず大学中退が突然だったため、当然就職先はなく、今後を考えると取得難易度の高い資格が必要であった。また、その勉強と同時並行で無謀な就職活動に励み、週五でアルバイトもしていた。明確な休みというものはなく、毎日を未来の幸せな家庭のために消費していった。
それは数か月ぶりの何も予定のない日だった。俺としては一日中布団から出るつもりはなく、精神的な休息に励もうと考えていたのだが、時刻が十二時を回ったあたりで美蘭に起こされた。彼女曰く、久しぶりの休日なのだから外に出たほうがいいとの事だった。つまりは、デートがしたいらしい。
あまりに急な話で、応じる理由のないように感じるかもしれないが、その時の俺に必要だったのは、ただ休む時間以上に、孤独でない時間であったため、少し悩んだ後に「わかった」と応じた。
昼食(俺にとっては朝食も兼ねているが)もそこで一緒にとの事だったので、俺は普段より急いで支度を済ました。その時に飲んだプロテインからはもう味を感じなく、それを何らおかしいことと認識できなかった。
昨日も、そのまた昨日もずっと浴びていたはずの陽光が、脳を焼く勢いで眩しく思えた。今日ほどこの国のサングラスへの偏見を憎んだ日はない。仕方がないので、前を歩く美蘭の靴の動きをただひたすらに追って進む事とした。
やがて、駅のホームについた。おそらく、二〇分ほど歩いたのだと思う。俺一人であれば一五分ほどだから、そうだろう。
室内であったため、そこでは上を向くことも可能であったと思う。ただ、まだ外気の感覚が残っているようで、それはしなかった。
ここまでで特に会話はなかったが、駅の中では何度か話した。思えば面接とバイト以外で、他人と話すのはこれが半年ぶりであった。1+1を聞けば2が返ってくるようなものではあったが、それなりに楽しく、まともに生きれている感覚に陥った。
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