テラーノベル
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昼で仕事が終わってしまい、時間が余ってしまった。
余った時間をどうしようかと街をぶらりと歩いていると、赤い璃月の街の中に特徴的な深い茶色とオレンジのグラデーションを見つけた。
「しょーりせんせっ!」
「ん?ああ、公子殿か。いつもならこの時間は仕事のはずだが…」
振り向いた鍾離先生は何かを抱えていた。
「仕事が予定よりずっと早く終わったんだ。そのせいですっごく暇でね。あ、鍾離先生は?」
「ああ、俺は午後に休みをもらってな。ふむ…公子殿がいやでなければ俺の家でおやつでもどうだ?」
「え?いいの?」
「ああ。つい先ほど御婦人に珈琲豆とパン、それとマーマレードジャムをいただいてな。久しぶりに食べたくなったものを作ろうと思ってな。」
ほら、と見せてくれた紙袋の中を覗くと本当にそれらが入っていた。
「でも、珈琲を淹れる器具…いや、それ以前に珈琲豆を挽く器具が必要なんじゃ…」
「昔から何度か珈琲を淹れていてな。器具の類は一式揃っている。」
「ふぅん…じゃあ、お言葉に甘えて。」
「ああ。ついてきてくれ。」
着いた先は璃月港から少し外れたところにある庭のある、豪邸というほどではないが大きな家だった。
「ここ、鍾離先生の家だったんだ。」
「ああ、そういえばたまに公子殿の足音が聞こえていたな。」
「…え?」
「すまない。失言だったな。聞かなかったことにしておいてくれ。」
「うん。まあ、いいけど…」
怖いことを言われた気がしたが聞かなかったことにして景色に集中する。
木漏れ日が心地いい。
「公子殿。上がってくれ。」
「うん。お邪魔します。」
家の内装は落ち着いた色合いで、ほんのりいつも鍾離先生から香っている香りがする。
「じゃあ、待っていてくれ。」
「あ!俺、鍾離先生が珈琲淹れてるところ見たい!あと、手伝うよ。」
「いや、多分期待しているものとは違うと思うが…まあいいか。手伝ってくれるというのなら…パンを焼く時に見ておいてくれ。」
「わかった。」
パンが焦げないように気をつけながら珈琲を淹れる鍾離先生を見る。
とても絵になるけど…
「…少なくない?」
「いや。今回はこれで正解だ。」
「ふぅん…」
パンを見ると綺麗なきつね色になっている。
「焼けたよ。」
「ああ、ありがとう。皿にのせておいてくれ。」
「わかった。」
皿に焼けたパンをのせて、鍾離先生のほうを見る。
「ひぇッ…」
鍾離先生が砂糖を珈琲の入っている入れ物にざらざらと、いや、ザザーッと入れていた。袋から測らず直に。
そしてこれまた大量の牛乳を測らずに入れる。
食器棚からコップを出し、お盆の上に牛乳と砂糖の混合物〜隠し味は珈琲〜の入ったポットと一緒に乗せてからふ、と固まっている俺を見て不思議そうに首を傾げる。
「どうしたんだ公子殿?」
「ぇ、あ、いや。なんでもない。」
そうか。と言いマーマレードとスプーンを出しコップと同じお盆に乗せて持ち上げ振り返り言う。
「公子殿?行くぞ。パンが冷めてしまう。」
「ああ、ごめんごめん。」
お皿にのったあたたかい焼きたてのパンを持ち、鍾離先生について行った。
「さあ、公子殿。いっとう甘い珈琲牛乳をぜひ味わってくれ。」
作っているところを見てしまった今、目の前にある珈琲牛乳の入った湯呑みが怖くてたまらない。
鍾離先生を見ると平然と飲んでいる。
ええい!ままよ!
「ん!?おいしい…」
珈琲の苦味はもはや皆無と言ってもいいかもしれないが甘くておいしい。
あの量の砂糖でこれだけしか甘くならないのか…と少し恐怖する。
「ふふ。気に入ってくれただろうか?」
「あ、うん。気に入ったよ。気に入ったけど、これを女の子に勧める時は製作過程だけは見せないほうがいいと思う。」
「そうか…」
しょぼんとする鍾離先生を横目にマーマレードを塗ったパンを食べる。
さくさくとしたパンにマーマレードの酸味がおいしい。
そういえば…
「鍾離先生ってどこでこれを知ったの?こういったものをお勧めするタイプの人と関わっているのをみたことないから…」
「ああ、これは子供の頃父様が作ってくれたんだ。「いっとう甘い珈琲を召し上がれ」と言いながらな。」
「へぇ…」
このときの俺は鍾離先生とたまにおやつを食べるようになるなんて思ってもなかった。
ちなみに気に入ったので飲もうと思って作っていたところを少し覗きに来た淑女に目撃され大量の砂糖にドン引きされた。
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