テラーノベル
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「なぁ。静遠の奴は昨日の夜、どこにいたか分かるか?」
「神官長様ですか? 昨夜は部屋から一歩も出ていないとおっしゃってましたが」
「そっか」
まぁそうだろうな、と煌は鼻で笑った。
夜這いをこっそり仕掛けに出ていたなんて、アイツが自分から言うはずがない。ただの偶然か? ……いや、どうしても胸騒ぎが消えない。
「その空白の五分間って、何時ごろの話だ?」
「……深夜、子が二つを回った頃です」
燕花の答えに、煌の心臓がどくんと嫌な跳ね方をした。
まさにその時間は、自分が朱雀の寝所に連れ込まれ、あの男の指先に翻弄されていた真っ最中だ。
(……ちょうどあの時かよ。朱雀が部屋に戻るタイミングを、外でずっと見計らってたのか?)
静遠が外をうろついているのを煌が見たのは、朱雀が桜の下で瞑想していた時だった。
あの時は、てっきり夜這いにでも出かけているんだろうと思っていた。だが、もしかして。
(あの時、アイツは朱雀の動向を確認してたのか。主が一人で瞑想して、誰の目も届かないところにいるのを……)
自分が朱雀と接触すれば、朱雀の意識はそっちに持っていかれる。警備に穴が開く。静遠は、それをずっと待っていたのか?
側近の静遠が、主である朱雀の「癖」を知らないはずがない。むしろ、それによって生まれる隙を――。
(俺を利用して、警備の穴を作ったのか……?)
そうだとすれば、昨夜のあの甘苦しい沈香の香りも、朱雀に翻弄されて頭が真っ白になっていたあの時間も、静遠にとっては「計画の一部」でしかなかったことになる。
煌の顔から、一気に血の気が引いた。
自分がアイツの言動に一喜一憂して心拍を乱していたその裏で、静遠は平然と、鳳来堂の毒を宮殿に引き込む手引きをしていた。
正直言って、静遠のことはハナから好きじゃない。でも、あの朱雀が信頼を置いている(はずの)男を、自分の予測だけで疑ってかかるのはあまりに――。
(……もし俺の勘違いだったら? アイツがただのクソ真面目な堅物で、警備にたまたま穴が開いただけだとしたら)
自分にそう言い聞かせようとしても、一度芽生えた疑念は泥濘みたいに足元にまとわりついて離れなかった。
「……童殿? 本当に大丈夫ですか? 手が震えて……」
燕花の心配そうな声が遠く聞こえた。
差し出された手を無意識に振り払うようにして、煌は勢いよく立ち上がった。
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