テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
18 2026.1.13 加筆有
実は同期入社でもともと仲は良かったのだが、ここ数年仕事上のパートナー
でもある妻子思いの財前隆三というのがいて、この日、弁護士代わりに
恵子と一緒に乗り込んでくれたのである。
恵子は浮気相手といつまで経っても別れようとしない夫の女遊びに
ほとほと嫌気がさしていた。
―――
財前とは、仕事で一緒に働くようになって5年目。
彼の奥さんが亡くなったのは一年半前。
その時は、病死とだけ聞いていた。
それが──
先月残業していた時に、それはどんな話がきっかけでそんな風な話を彼から
聞くことになったのか、忘れてしまったけれど──。
奥さんがずっとじゃないけど、長期入院の末に亡くなったのだという話を
聞かされた。そして、休日には、息子を連れて毎週病院に通っていたことも。
病名ははっきりとは聞いてないけれど、亡くなるまでかなり長期で入院
していたみたいだ。
最初の入院から2年半、奥さんは入退院を繰り返していたみたい。
結婚後、妻子ひとすじの真面目な男、財前隆三の妻が2年半の闘病の末に男の子と
夫である財前に心を残してこの世を去った。
奥さんが亡くなったと聞くまで、私は彼の家庭の事情はまったく知らずにいた。
いや、正確には、先月知ったのだ。
今になって彼もようやく奥さんの亡くなった経緯を話せるようになったのだろう。
1年半前、彼の妻が病死したと聞いた時には起きなかった気持ちの爆発。
財前が妻の元へ息子を連れてせっせと通ったという話を聞き、俄然何かが
恵子の中でブチ切れたのだ。
―――――
それを知った時に、8年もの間黙認してきた自分の夫の所業に対して
恵子は突如、堪忍袋の緒が切れたのだった。
何故か、ここのところで気持ちが弾けてしまったのだ。
そう、気持ちを隠し抑えて生きていく虚しさが急に増大したのだ。
財前には夫の浮気の件は、随分前にポロっと零したことがあった。
その時は、怪しい点があるのだと伝えていた。
◇ ◇ ◇ ◇
妻を亡くし、息子とふたり暮らしをしている財前が、ある日私に訊いてきた。
「まだ、旦那は女と別れてないのか?」
「たぶんね、別れるのを待ってたけどさ、待ちくたびれたわ~。
私、もうアラフォーなんて言ってられない年になっちゃったわよぉ~」
「お恵さん、別れろよ、そんなロクデナシ」
「うん、私もそろそろアイツ処分しようかなって思ってるんだ。
で、調査してたんだけど、私の知らない2人めの女もいたのよ。
健気に女と別れるのを待ってた今までの自分に馬鹿って言いたい気分よ。
別れるどころか、新しい子まで作っちゃって。アイツは私のことを何だと
思ってるのかしら。
身の回りの世話をしてくれる母親か女中だとしか思ってないんじゃない?
この際だから、きっちりと落とし前をつけるつもりよ」
「じゃあさ、落とし前付けたら俺んところに来い。
飛び込んで来いよ」
「ありがと。考えとく……」
そう遣り取りしている私たちは時間外のオフィスで椅子に座り
コーヒー片手に話をしていた。
そう返事したけど、私の返事は早くも決まっていた。
私は身近で彼の夫としての誠実さを数年間、間近で見て来た生き証人だ。
私は彼のような誠実な男性をずっと、学生の頃から待ち続けていたのだもの。
返事はYes以外に考えられなかった。
そしてこの後の話で、玄帥の会社へ乗り込む時には一緒に行くよと
彼は言ってくれたのだった。
助っ人を得た恵子の、玄帥と石田唯の勤める会社への乗り込みは
上々だった。 関係者の前で恵子は泣いて見せ、浮気をされて
打ちひしがれたか弱い妻をたっぷりと演じた。
82
8
財前はもしかすると引いたかもしれないが……自分の役者ぶりに。
そう思いながらの乗り込みからの帰り道、財前が言った。
「今日は良い日になったな。
積年の恨みを果たした日だからな。
上手いモン、食いに行こう」
そう労われて、恵子はますます財前のことを惚れ直すのだった。
もちろん、四の五のウダウダ離婚届に判を押そうとしない玄帥とは
その後一度も会うことなく、弁護士に丸投げして恵子は離婚した。
そして結局キャパ嬢の京子には甘いかもしれないが、慰謝料請求したのみで
放流することにした。
幸せを掴んだ恵子には、一度たっぷりと留飲を下げることができたことも
あり、満足できたからだ。
そう、未来の夫となるべく男性の前でこれ以上、らしくない
自分を出すことに躊躇いが出てきたということもあった。
そして早く幸せな未来を財前とその息子と3人で紡いでいきたいという
気持ちが勝っているということもあったため。
離婚後、しばらくは結婚できないが、恵子と財前はすぐに一緒に
暮らし始め、幸せの第一歩を歩き出したのだった。