聞こえてきた声のする所に向かうと、そこにはとてつもなく大きな穴が出来ていた。泉があった形跡も無く、ただただ黒茶色の地面が強い衝撃で抉れているだけだった。
そして彼女の悲痛な叫び声は穴の下から聞こえている。
「フィーサの姿も見えないのだ」
「一緒に落ちて行ったか?」
「アック、どうするのだ?」
地下に落ちてしまったルティは、おそらく自力では上がって来られない。フィーサだけであればどこにいても問題は無いのだが……。
「ルティシア!! フィーサ! 聞こえるか?」
「あぁぁっ! アック様ぁぁぁ! ルティはここにいますです~」
「イスティさま、わらわもここにいるなの!」
「分かった。いま助けるから、大人しくしてろよ」
――とはいうものの、風を起こして浮かせるにしても彼女たちがどこに立っているのか。それとも、おれが地下に降りて行って抱きかかえるか、あるいは。
「ウニャッ! シーニャ、試してみたいのだ。やってもいいのだ?」
「……ん? 何を試したいって?」
「これなのだ」
そういうと、シーニャは手元から木の根のようなものを顕現させ、地中に向かってそれを伸ばし始めた。
「――魔法か!」
木の根が魔法のたぐいなのか分からなかったが、彼女が着ているエレーヴクロークにある宝珠が魔法発動と同時に光っていることに気付いた。
魔石ガチャで引いた装備が性能を発揮しているということは、木属性攻撃を受けたからということを意味する。
そして、
「ゼ~ゼ~ハァァ~……あ、ありがとうございますです~」
「ウニャ。ドワーフを助けることが出来て良かったのだ!」
どうやらおれが地下に落ちている間にシーニャは木属性魔法を使えるようになったようだ。そして派手な男のことも気になるが、樹人族リアンがもたらした魔法はシーニャを成長させてくれたらしい。
「……それで、どうしてフィーサも一緒に落ちていたんだ?」
「ドワーフ小娘が泣きついたから、一緒にいてやるしかなかったなの。わらわはそこまでひどくないなの」
「そっか、ありがとうなフィーサ!」
「と、当然なの」
神剣フィーサブロスは人化に限らず自在に動くことが出来る。空に浮くことも可能だし、今みたいに地下に落ちても自力で戻ることが可能だ。そういう意味ではルティと一緒にいてくれて良かったと言える。
◇◇
「地面を殴って自分が落ちるなんて、自業自得というやつなのだ」
「はうぅ~……シーニャを助けようとしたのに~」
「でもこれでおあいこなのだ! 気にするな、なのだ。ウニャッ!」
「うんうん!」
ケンカすることも多いが、シーニャのおかげでルティも落ち着きを取り戻した。ルティが落ち着いたことでおれたちはこの場を離れ、ようやくグライスエンドの町に足を進める。
しばらく何の変哲もない地面が続き、建物も見当たらなかった。しかし小屋がいくつか見えるようになった辺りから、人の姿がちらほら見えるようになってきた。
おれたちを見て驚いた様子を見せているが、特に睨んでくるといった感じには見えていない。シーニャとルティの姿を見ても驚きはないようで、どちらかといえばおれだけに注意を払っているように思える。
まだ町の中心ではなく町の人間もまばらだが、ようやく石で敷き詰められた道に変わった。その辺りでようやく宿や雑貨屋といった建物が見えてきた。
年季の入った木造の建物の窓には木板が張り付けられていて何の店なのかすら分からないが、出入りしている様子は無さそうだ。そもそも末裔が多く住むグライスエンドは、長らく外との交流を避けてきている。
イデアベルクを再建しなければ来られなかった場所になるわけだが、ギルドらしき建物が無いところを見ればひっそりと暮らしていただけのようにも見える。
「退屈なのだ。アック、攻撃はまだなのだ?」
「ここはそういう場所じゃないな。もっと奥に進めばいずれ向こうからやって来るはずだ」
「シーニャ、頑張るのだ!」
「その意気だぞ」
新しい魔法を使えるようになったからなのか、シーニャは張り切った様子を見せている。だからといってむやみやたらに攻撃が展開されても困るが。
ここが危険な町ということはよく分かったが、末裔の連中の狙いが分からない。それだけにこちらから積極的に攻撃を仕掛けるというのは避けるつもりだ。
「イスティさま。わらわ、この液体をいつ使えばいいなの?」
「ん~……」
「アック様っ、アック様! あそこに料理屋さんがありますよ~!」
「そういや、腹が空いたかな」
「行きましょ、行きましょう~! さぁさぁさぁ!」
自分で作るだけじゃなく、ルティは食べることも好きみたいで興奮気味だ。
「……そうするか」
「むぅぅ……し、仕方ないなの。ルティについて行ってあげるなの」
見るからに人も増えて来た所でそれらしき建物が目につく。この町の全てが危険と決めつけられないので、ここはルティに任せることにする。
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