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「つらいなら、戻ってもいい。選ぶ権利は、誰にだってある」
騒がしい現場の片隅で、年配の男は淡々とそう言った。手にした道具を布で拭きながら、感情を挟まない声だった。
「村で一番の存在になる」
そう思い、俺は外の世界に出た。だが現実は、思い描いていたものとは違っていた。
集まりの場には、空になった瓶や使い捨ての器具、煙の残り香。人の集積と疲労が混ざり合い、どこか歪んだ空気が漂っている。
「強い状態は、別の状態で均衡を取る」
男の言葉は、正しいのだと思えた。過剰な緊張の中では、それに釣り合う何かがなければ、人は保てない。
でも、それで平気になるかと言えば、そうでもない。
「均衡の先に、何が残ると思う?」
男は静かに続けた。
「この場所は、永遠に今を保てない」
高ぶりは、いつか落ち着く。それは決まりごとのようなものだ。
穏やかな集まりは続けられても、常に張りつめた状態は長くは続かない。
「だから、いずれ片側が取り除かれる。時間が経てばね」
眼鏡をかけた男は、遠くを見るように言った。
「でも、均衡を取るために積み重ねたもう片方は残る。気晴らし、昂揚、反復、過度な充足。それらは体の中に沈殿する。だから、人は辞められなくなる。場がなくなってもね」
「ここで目立つのは簡単だ。強い言葉を投げればいい。引き金は軽い。だが、簡単なものほど、後で重くのしかかる」
そして時間は流れた。
今の私たちは、SNSという都合のいい舞台で、同じことを、静かに繰り返しているのかもしれない。