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麗太
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「ヴァイオレット、少しいいかな?」
窓拭きをするヴァイオレットに声をかけてきたのは、メガネをかけた初老の紳士だ。
「じぃや様、なんでしょうか?」
この『じぃや様』と呼ばれるこの紳士は、この屋敷の執事長だ。『ばぁや様』と同じく、何故か本名を知る者はいないので、ヴァイオレットも『ばぁや様』と同じく『じぃや様』と呼んでいる。
「お前に来客だよ」
「『来客』ですか? 一体誰が……」
ヴァイオレットが不思議そうに考えるのも束の間、廊下の奥から声が聞こえた。
「ヴァイオレット!」
「げっ……」
声の主に思わずそんな声を出してしまい、ヴァイオレットは慌てて口を塞ぐ。じぃや様はばぁや様とはまた違った意味で怒らせてはいけない人物だ。そして何より、礼儀にとても厳しい。
チラッと横目でじぃや様を見れば、いつも通り笑顔ではあるがそれがまた逆に恐ろしい。
ズカズカと近づいてくる人物に、ヴァイオレットは慌ててお辞儀をする。
「俺とお前の仲ではないか、そうかしこまるな」
「いえ、そうはいきません。リディアム様」
何故ならば今隣には、この屋敷でいちばん礼儀に厳しい執事長がいるから。
「じぃや、ヴァイオレットを少し借りても?」
「大変申し訳ございませんが、ヴァイオレットは只今仕事中でして……」
じぃや様の言葉に、ヴァイオレットは心の中で「ナイスです、じぃや様!」と小さくガッツポーズをする。
「ふむ……ならば休憩はいつ頃だろうか? ヴァイオレットと共に、茶をしたいのだ」
ヴァイオレットは心底嫌そうな表情を必死に隠しながらも、どこか勝ち誇ったように小さく笑みを浮かべる。それは何故か。ヴァイオレットは先程、ばぁや様と共に休憩を済ませていたからだ。
(礼儀と仕事に厳しい、じぃや様とばぁや様だ……私が先程既に休憩を済ませていることは、勿論把握済みのはず!)
ヴァイオレットはこの時「この男と共に、茶を囲うことはない!」と。そう確信していたのだ。
……しかし、現実とは非常であった。
「それでしたら、少しお待ちください。ヴァイオレットももう少しで休憩ですので」
「じぃや様!?」
思わず声をあげるヴァイオレット。そんなヴァイオレットの気持ちを知ってか知らずか、じぃや様はリディアムに気づかれない様に親指をグッと立てる。
「ヴァイオレット、話はお嬢様から聞いてます。仕事に支障が出ないよう、上手くやるのですよ」
そう小声で言って去っていくじぃや様は、リディアムを応接室へと案内する。
残されたヴァイオレットはと言うと、ワナワナと小さく身体を小刻みに震わす。
「あの野郎……!」
「絶対に殺す」そう、新たに誓うヴァイオレットだった。