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柚葉ちゃんが元カレといろいろあって大変だった時に、実は俺にもある出来事が起こっていた。
逃げたくても逃げられない……
「ごめんね、お待たせ! 今日もお弁当作ってきたから食べてね。温かいよ」
「お客様……。何度もお話しした通り、こんなことされると困るんです」
「食べてくれないの? 私、一生懸命作ったんだよ?」
毎日、昼前になるとやってきて、お弁当を手渡して帰る女性。
年齢は……30歳くらいか?
俺のこと、自分の彼氏だとでも思っているのか?
ある日突然始まったお弁当攻撃に、本当に困っていた。
店長や真奈にも話し、店長からは注意してもらったけど、全くの無視。
真奈も、その客に、直接自分が彼女だと言ったことがあったけど、聞き入れてもらえなかった。
ある時、毎日通い続けるこの人のことが、なぜか気になりだした。
ただお弁当を渡して、他には何も言わずに帰っていく……
誰かに迷惑をかけるわけじゃない。
どうして俺に? と思うと、いても立ってもいられなくなって、ある時、俺は彼女に言ってみた。
「お弁当、ありがとう。美味しかったよ」と。
「本当に? 嬉しい! 明日も頑張って作らなきゃ」
嬉しそうに笑う彼女。
「どうしてお弁当作ってくれるの?」
「何言ってるの? お仕事したらお腹空くでしょ? 工事現場って、力仕事なんだから、お昼ご飯しっかり食べなきゃ」
「そうだよね。でも……ここは工事現場じゃないよ」
「え? そう……なの?」
首を傾げる彼女。
「このお弁当、誰にあげたいの?」
「誰って……あなたよ。前田君」
前田?
やっぱりこの人は、誰かと俺を重ねているんだ。
「工事現場で働く前田さん? あなたの……大切な人?」
その質問に、彼女は少しだけ黙っていた。
そして、言った。
「そう、この世の中で1番大切な人。あなたは、私の大好きな旦那さま。お仕事を一生懸命頑張ってる前田君のために、毎日お弁当作るのが楽しみで……」
「……ごめんなさい。でも、俺は前田君、あなたの旦那さんじゃないから」
「何言ってるの? だって、この顔……前田君だよ。同級生だった頃からいっつも笑ってて、その笑顔が大好きで。私から結婚を申し込んだら、いいよって、ずっと一緒にいようって言ってくれたよね」
もしかして……
「大切な旦那さんなんだね。今、その人は……?」
「……」
「……大丈夫?」
顔を見ていたら、目がだんだん赤くなり、そして……
ひとすじ、涙が流れた――
「前田君、どうして家に帰ってこないんだろう? お昼はここに来れば会えるのに、なんで家にはいないんだろう?」
気持ちが交錯して、胸の中でぐちゃぐちゃに絡まって……
この人の意識は、今、正常に機能していないんだ。
「前田君……。今日は帰ってきてね」
寂しさを浮かべた表情で帰っていく彼女のこと、やっぱりどうしようもなく気になり、俺は真奈といろいろ調べて、ある日全てを知った。