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虚 無 天 .
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薬 チャン ❕ 💭
80
夜、薄暗いリビング。なつはいつものように、いるまの腕の中でテレビを眺めていた。画面の中では誰かが笑っているけれど、なつの瞳には何も映っていない。
(……あ、もう、無理かも)
不意に、心の奥で小さな音がした。
「大好きだよ」という嘘を積み上げすぎて、自分の本当の声がどこにあるのか分からなくなった瞬間。なつの指先から力が抜け、持っていたリモコンが床に滑り落ちた。
「……なつ?」
隣でなつの髪を愛おしそうに梳いていたいるまの手が、ぴたりと止まる。
なつは慌てて「あ、ごめん。手が滑っただけ」と、いつもの完璧な笑顔を作ろうとした。
けれど。
「……なつ、今、どんな気持ち?」
いるまの声が、低く、冷たく響く。
彼はなつの顎を強引に上向かせ、その瞳の奥をじっと覗き込んだ。ヤンデレ特有の、相手の僅かな呼吸の乱れさえも見逃さない、恐ろしいほどの直感。
「……え? どんなって……幸せだよ。いるまと一緒で……」
「嘘だ」
いるまの瞳が、暗い歓喜と怒りで濁る。
「お前のその笑顔、中身が空っぽだ。……なつ、お前、今どこにいるの? 俺の腕の中にいるのに、心だけ、どこか遠いところへ逃げようとしてるだろ」
「……っ、そんなこと……!」
「隠したって無駄だよ。お前の皮膚の震えも、脈拍も、全部俺には分かるんだ。……なつ、俺に嘘をつくなんて、一番いけないことだよ……?」
いるまの腕が、なつの体を折れそうなほど強く締め上げる。
なつはついに耐えきれず、瞳からぽろぽろと涙を溢れさせた。それは悲しみではなく、心が限界を迎えた証の、無機質な涙。
「……だったら、どうすればいいんだよ……っ! お前を傷つけないように、必死で笑って……自分の気持ちなんて全部捨てて……! もう、これ以上どうしろって言うんだよ、いるま……!!」
なつの心が、ついに悲鳴を上げた。
本音をぶちまけて、崩れ落ちるなつ。けれど、いるまはそんななつを見て、ゾッとするほど美しい笑顔を浮かべた。
「……あぁ、やっと見せてくれた。その絶望した顔……。嘘の笑顔なんかより、ずっと愛おしいよ」
いるまは、泣きじゃくるなつの涙を舌で掬い取るようにして、耳元で甘く囁いた。
「心が壊れたなら、俺が新しい心を作ってあげる。……なつ、もう何も考えなくていい。お前の苦しみも、絶望も、全部俺が食べてあげるから……」
逃げようとした心が、より深い暗闇に捕らえられる。
なつは、自分を壊していくはずのその抱擁に、抗う力さえ失い、静かに目を閉じた。
コメント
1件
うわあ……第7話、すごかったですね……。いるまの「嘘だ」の一言が、もう全てを引き裂くようでゾッとしました。なつが作り笑顔を保てなくなって、ついに本音が溢れ出すシーン、胸が締め付けられるようでした。そして、そんななつの絶望を「愛おしい」と笑ういるまの恐ろしさ……。逃げ場のない闇に飲み込まれていく感覚が、ひしひしと伝わってきました。続きが気になります。