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朝からあんなエッチなキスをされて……影響されずに過ごせたわけないじゃないですかっ。
美味しいお寿司や、それを食べ過ぎた苦しさや、超絶眼福なストリップショーで失念しかけていたけれど、今日は私、何かの拍子に朝のことを思い出しては、夜に訪れるはずの続きに思考が引き摺られて大変だったの!
宗親さんから残業しちゃダメって言われていたから、いつも以上にミスしちゃいけないって思うのに。
気が付いたらぼんやりしちゃってて……本当苦労したんだから!
(あれ、やっぱりわざとだったんだ!)
そう思ったら悔しくなった。
「あ、あ、あ、あんなキスされて平気なわけないじゃないですかっ。むっ、宗親さんの意地悪っ」
キュッと唇を突き出してそう言ったら、宗親さんがニコッと笑って。
「それは良かった。僕も自分の欲望をフルスロットルで制御した甲斐がありました」
とか。
ああ、安定の腹黒スマイル!
しかも半裸だからパンチ力半端ないです!
私、もう瀕死なんですけど。
鼻血とか出てないですかっ?
「――そんなわけで」
言って、宗親さんが私の上に覆いかぶさってくるから、私の心臓はバクバクで、脳内はパニックもいいところ。
ひぃーっ。
やめてやめて、眼福すぎて死んじゃう!!
なんて思っているけれど、辛うじて声には出さなかった。
だって悔しいもん。
私だってただ服を脱いだだけで宗親さんをこんな風に惑わせてみたいっ。
でも私の上半身って……例え脱いだとしても元彼に幻滅された陥没乳首に、考えなく食べすぎてぽっこり出ちゃった恥ずかしいお腹。
何の切り札もないことに今更ながら愕然としてしまった。
「宗親さん……」
私を間近で見下ろす彼に、私は涙目で訴える。
「ごめ、なさ……ぃ。私、宗親さんに全然釣り合ってないです……。何も貴方に差し出せるものがないです……」
本当はね、私だって宗親さんをナイスバディーで魅了したいの。
春凪は綺麗だねって思われたい。
春凪を抱ける僕は幸せだって心の底から思って欲しい。
なのに――。
何でこんな日に食べすぎちゃったの、私。
「ね、春凪。何故泣くの? 釣り合ってないってどういうことですか?」
「そんなの決まってます。無計画過ぎる自分が嫌になって、自己嫌悪に陥っているところです……」
百歩譲って陥没乳首は仕方ない。
生まれつきのものだもの。
でも。お腹の膨らみぐらいはもっと上手くコントロール出来たはずなのに。
「宗親さんとデートって思ったら……私、すごく……すごく嬉しかったんです。それで……」
ついタガが外れてしまいました。
お酒なんて一滴も飲んでいなかったのに、宗親さんとの初デートというシチュエーションに、一人勝手に気持ちが浮き足立ったんです。
まるで愛の告白みたいな本音をつぶやいてメソメソする私を、
「春凪。もういいから黙って?」
宗親さんは何故か嬉しそうに優しくそっと抱きしめてくださって。
多分、馬鹿な告白をしてしまった私を憐れんで下さったんだろうな。
「ね、春凪。僕に春凪の全部を託してみませんか? 僕は春凪の全てを受け入れて愛せる自信があります」
宗親さんに耳元でゆっくりとそう囁かれて、私はドキッとしてしまう。
「だってほら、――僕はキミの夫だから。 きっかけはどうあれ自分の妻を愛せない夫はいないでしょう? 少なくとも僕は覚悟を決めて春凪と向き合っているつもりです。――僕のこと、信じてみませんか?」
でも、流れるようにそう続けられた瞬間、宗親さんは偽装の夫としての責務を果たそうとして下さっているのかな?って思いが浮上して、高鳴りかけた想いが一気にシュンと縮こまる。
「無理は……なさらないでください。過去に一人の男性を萎えさせたことがある身体です」
おまけに今日はお腹が出てるの。
こんな私に需要があるとは思えないよ。
「エッチするの、下だけ脱げば事足りますよね? ビジュアル的にダメな分、私、宗親さんが気持ち良くなれるよう、頑張ってご奉仕しますので」
宗親さんが偽装の旦那様ならば、私は彼の偽装の妻だ。
ちゃんと役割は果たします。
そんな思いを込めてニコッと無理に微笑んだら、宗親さんにムギュッとほっぺをつねられた。
「春凪は僕のことを買い被りすぎです」
ん?
どういう意味ですか?
「か、買い被り過ぎも何も……元々私に宗親しゃんは勿体なしゃしゅぎるというきゃっ」
頬を掴まれたままでうまく喋れない私は、それでも一生懸命そう言って宗親さんを見上げる。
「勿体ない? 僕が春凪に?」
私の言葉に、宗親さんがあからさまに 不機嫌そうな顔をする。
「それは逆でしょう」
そうしてとっても意外な一言をおっしゃると、小さく吐息を落とされた。
「アレコレ自分に都合の良いように丸め込んで、八つも年下の可愛い女の子を妻にしたんですよ? 羨ましがられたり妬まれたりすることはあっても、逆はないでしょう!」
スパーン!と言い切られて、私は瞳を見開いた。
ちょっ、宗親さんっ!
どこをどうこねくり回したらそんな思考回路になっちゃうのですかぁ〜っ!
「わっ、若い女の子なら私じゃなくても他にいくらでも――」
慌てて言い募ろうとしたら「聞いてませんでしたか? 僕は〝可愛い女の子〟とも言ったはずです」ってめちゃくちゃ怖い顔で睨んでいらっしゃるとか。
嘘でしょ、嘘でしょ、嘘でしょー!?
いくら仮初の夫婦だからってリップサービスが過剰ですよ、宗親さんっ!
突然の誉め殺しに、社交辞令とは分かっていても、照れて真っ赤になってしまう。
「あ、有難うございます?」
一応ここは偽装妻として旦那様のお気遣いにお礼を申し上げなくては。
しどろもどろ、語尾が疑問系みたいに持ち上がった言い方をしたのに、宗親さんは
「どういたしまして」
と穏やかに微笑み返してくださって。
その笑顔がいつもの腹黒スマイルとは違ったから私、ドキン!と心臓が大きく飛び跳ねてしまった。
さすがにそんな宗親さんを直視出来なくてソワソワと瞳を逸らしたら、いきなり額の髪の毛をかき上げられておでこにキスを落とされる。
「ひゃっ」
そんなっ。
甘々な恋人みたいなキス。
エッチなディープキスより逆に恥ずかしいではないですかっ。
予期せぬ出来事に、血液がザザァーッと全身を駆け巡ったみたいに身体中が熱くなってしまった。
「そんな春凪に、僕からささやかなお願い事があります」
と、いきなり声のトーンを落とした宗親さんに、私は思わず彼の方を見てしまう。
「さっき春凪は〝一人の男性を萎えさせた〟って言いましたよね?」
ええ、確かに言いました。
だって事実だし、と思って私がコクッと頷いたら、宗親さんが小さく吐息を落として。
「以前Misokaでも元カレに酷いことを言われたって愚痴ってましたよね?」
はい。その通りです。あの話を聞かれて「下しか脱がない宣言」も宗親さんに聞かれてしまったの、よぉ〜く覚えています!
聞かれてしまった時はすっごくすっごく恥ずかしかったですけど、今は要らない説明をしなくてもいいと言うの、とっても有難いなって感じています。
もちろん今日もその戦法でいこうと思っているんですが、事情をご存知ですもの。問題ないですよね?
「実はね、僕はそれがとても気に入らないんです。春凪は僕の妻ですよね? なのに他の男はキミの裸を見て、僕はまだまともに見たことがないとかおかしいと思いませんか?」
吐息混じりに問いかけられて、私は宗親さんが何をおっしゃっているのか一瞬分からなかった。
でもそこでハッとして。
「むっ、宗親さんも私の裸、ごっ、ご覧になられたことありま、す、よ?」
エッチ自体は最後まで至らなかったけれど、……その、む、胸だって見られたこと……あるっ。
不意にその時のことを思い出した私は、物凄く恥ずかしくなった。
そう、この人は不感症だと思い込んでいた私を、いとも簡単に快感に導いてくれた人。
結果、私の胸は生まれて初めて(束の間だったけれど!)普通の見た目になったの。
元カレがどんなに触っても決して顔を出さなかった胸の頂が、ツンと天を向いて誇らしげに存在を主張していた様を、私、覚えてる。
だってすっごくすっごく嬉しかったから。