テラーノベル
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例えば裏切りだとか大量殺人だとか、大犯罪と言われるものを犯してしまえばそいつは「人じゃない」と揶揄される。
なら天使はどうだ?神秘的なイメージの天使だが、血に塗れた天使は、本当に綺麗なままの天使だろうか?
痙攣するほどの痛みだった手足の感覚が、今やもう無い。記憶力も鈍くなり、先程何が起こったかを思い出すので精一杯だ。
それでもドクドクと脈打って自分から離れていく血液は感じていて、肌が冷たくなっているのもわかってしまう。
こうなると思っていなかった訳ではない。悪魔という自分と敵対しているはずの者たちと協力し、何十の天使を斬った。後悔とまではいかないが、こうなる運命だろうと天界を抜けたときから悟っていた。
五感はもう無いに近いが、不思議と成仏はしなかった。それはこれから行われる 罰 を意味しているのだろう
執行者はサスケに向けて何かを言ったが、何も聞こえずただ見つめることしかできなかった。すると呆れた顔で立ち上がった。
微かな視力で周りを見渡しても、同情の目すら伺えない。まるでこの世でおまえを好きな人はもう居ないと言われているようだ。
友達や家族もいたような気がするが、もう自分のことは好きでないだろう。
未練は無い。だが天界から離れるのは少し寂しい気もした。
フワッと床が抜け、一気に身体が重くなる
今まで生活していたはずの地は直ぐに遠ざかっていき、下へ引き寄せられるように脱力していく。
次第に小さな影が逆光に照らされ、バサバサと音を立てて必死に、それでも楽しそうに飛んでいる。
天使でも悪魔でもない、ただ純粋な生命体。
これが鳥だと認識した頃には、サスケの視界は空を飛ぶ機械や地に直立した灰色など、より多くの異様で、不可解なモノを捉えていた。
これらを見るだけでも、こんな未知な世界で生き抜かねばならないのかと孤独を感じてしまう。
そんなサスケを突き放すように、ヒュウヒュウとさらに下へと落ちていく。
重力は度々重くなり、身体も動かしやすくなった。身を守るため翼を広げようと思った瞬間、腰に衝撃が走った
不思議と痛みはなく、浮いている訳でもない。フワフワと何かに支えられているような感覚。
段々と五感が回復してきた頃、目を開くと自分に似た形の生命がこちらを覗いていた。
「わ!?動いたってば!?!?」
「てか羽!?輪っか!?手足ない!?!?」
「大丈夫か?上から落ちてきたし、それに………」
もう一度はっきりとその生命を見つめる。
目の配置や口の形、その特徴から見るに直ぐにニンゲンという生物であるとわかった。
「お前……ニンゲンか。」
ニンゲンはニンゲン界という所にいると、本で見たことがある。サスケはニンゲン界に落とされたのだろうと悟った。
「えっ???お前もそうじゃねーの!?そうだよな????」
「オレは天使……いや、もう天使と名乗るほどでもないか。」
「……???何言ってんだってば?????」
ニンゲンは天使という存在を本で見たことがないのだろうか。異物を見るような目でこちらを見るので、試しに翼をパタパタ鳴らしてみる。すると目を輝かせまじまじとこちらを見回し始めた。
「す、すげーってば!!!マジで動いてる!!これ自動?中にモーター入ってんの?」
「も、もーた、、、?なにそれ」
「それか科学の力か?!ほら、最近の科学ってスゲーらしいじゃん!」
「かが、く……??」
訳の分からないことを聞かされてる中、終いには「これどうやって取んの?」と翼を引っ張ってきたので、身の危険を感じ少しニンゲンから遠ざかった。
「な、なに訳分からないこと言ってやがる。もーたーとか かがくとか、天界にはそんなもの無いんだよ」
「ニンゲン界にはあるのか?そんなもん」
サスケは一つ思いついた。
そのもーたーやかがくとやらがニンゲン界の普通ならば、それらの調査をして天界のお偉いに提出すれば早く天界へ還れるのではないか、と。
そのためにはこのよく知っていそうなニンゲンが必要だろう。
「………ほんとに知らねーの?…マジなのかからかってるのかわかんねーってばよ!!!」
「なぁニンゲン、頼みがあるんだが」
「………」
「理由は言えないがオレは今天界から追放された状況に近い。そして一刻も早く天界に帰りたいんだ。」
困惑するニンゲンを放って、どんどん説明してゆく。
「そのためにはそのもーたーやかがくについて調べれて天界に見せてみる必要がある。そうすれば元いた所へ帰れるかもしれないんだ」
「だからその調査の間匿ってほしい。きっと直ぐに終わる。」
「……はぁぁ?!嫌だってば!!!!まず天使とか置いといて他人をそんな簡単に匿うわけねーだろ!!」
「頼む。かがくのことを教えてくれればいいんだ」
「いやわかんねぇよ!!オレってば確かに学校の先生目指してっけどさ……体育教師なんだよなぁ……」
「少しの事でも助かるかもしれない。お願いだ」
「と、とにかく無理ったら無理!まぁ誰か助けてくれんじゃね?ここ日本だから平和だし。」
「とりあえず勉強残ってっから!!」
じゃ!といってそそくさと遠ざかっていくニンゲン。
ちょっと待て。調査は?家は?野宿でもしろって?いやいや悪魔でもそんな待遇しない。おかしい。
サスケは翼を広げ、途端目の前の早足のニンゲンに向かって突進した。
「いっっっっってぇ!!!!おい!何すんだよ!!!」
「お前が話を途中で切り上げるからだろ」
「だから匿うのは無理だって!勉強とかバイトもあんのに他人の世話までしろとか!」
「それに天使ならお得意の魔法とかで生活できんだろ?!」
「魔法とかは知らないが一人でかがくについて調査なんかできるわけないだろ」
「だーーーー!!!もう!!!わかったじゃあこうだ!」
「目の前でカップラーメン出してみろ!!出来たら匿ってやる!」
「かっぷらーめん………」
「カップラーメンも知らねーのかよ!!!」
地団駄を踏みながら渋々と下半身から鉄を取り出し、ポチポチと何かを叩き始めた。
「おいなんだそれ、その板」
「これはスマホ!!説明はカップラーメン出せてから!」
「ほらこんな感じのさ、中に乾いた麺が入ってて……」
そう言いながらニンゲンが持つ画面はその説明の通りの物を写していた。凄い。ニンゲン界にはこんな物が蔓延っているのだろうか。少し感心する
「で?これを出せと?」
「そ!ちゃんと食いもんにしろよ!!それが出来たら匿ってやってもいいってば!!」
先程こいつは魔法とか言ったか。魔法はしらないが、
魔力でなら協力していた悪魔の中に似たような事ができるヤツがいた気がする。
使う必要もないと思ったのであまり覚えていないが、それでも微かに魔力の出し方を教えてもらった記憶がある。
しかし手足が無い。羽も神経が通っているからできないことも無いと思うが、かなり労力を使うだろう。
こんな無愛想なニンゲンの為にそれだけの力を使う必要はあるのか。
板を見ていた目はいつの間にかニンゲンの方を向いていた。
「……なんだよ出来ねぇのか?じゃあ家は無理だね!!」
あーあと同情の目を向けながら、ニンゲンは腕を組んだ。全ての動作がわざとらしく見える。きっとサスケを面白がっているのだろう。
そんな彼に少し腹が立って、サスケは翼の先端を前にした。それから全ての意識を翼に向ける。
カップラーメンを出すことに成功して、喜びながら匿ってやると言うニンゲンをきっぱりと断ろう。彼のプライドを滅茶苦茶にしてやるんだという思いでカップラーメンを創り始めた。
力を圧縮させるのは簡単なことではなく、思わず力んで奥歯をギリギリと鳴らしてしまう。しばらくすると口の中が苦くなり、ツウと口から血が垂れた。
そんなサスケをニンゲンは黙って見ていることなどできず、サスケが食いしばるにつれて段々とまゆが歪んでいた。
「……おい、、大丈夫か?血出てるけど…」
「黙れ、集中できない」
そうニンゲンに吐き捨てた途端、今度は鼻血が出てきた。見よう見まねでやっているんだ、そうなるのは妥当だろう。
サスケの目的は最早家に匿ってもらうためではなく、ニンゲンのプライドをへし折る為になってしまっている。ニンゲンは「もうやめろ」と何度も言うが、サスケはそれを無視しカップラーメンを作ることに徹した。
数分後、サスケの中でピースが一気にハマった気がした。
このままやれば、本当にカップラーメンが出来るかもしれない。そしてニンゲンの度肝を抜いた顔を見られる。
目を細め、更に力んだ。ストレスからか羽は何枚か抜け落ち、口や鼻から出た血はついに地面にまで滴り始めている。
最後の一ピース。気が狂いそうだったが、自らのプライドのために追い込んだ。
あっけなくその最後は訪れる。全身の強い衝撃と共に羽先の空間が少し歪み、瞬きをした頃にはカランと円柱状の物が落ちていた。
それを捉えたサスケは、呼吸混じりに笑みを零す。
「………ッフン、、ほら、出してやった」
羽が動いただけで目を輝かせるんだ、こんなのすげえすげえと飛び跳ねるだろう、と思った。
だが数秒間、2人の間にそのような歓声は少しもなかった
不思議に思いニンゲンを見ると、眉がすっかり垂れ下がり、まるで死にかけの小さな生命を眺めているかのようにサスケを見ている。
先程まで自分を面白がっていたような奴が、ただ血を吐いただけでここまで脱力するのか。
あんな目をされたのは十数年ぶりだったので、サスケは大いに困惑してしまった。
違う、こんなはずじゃなかった。こんな顔をさせたかったんじゃない。
ゼンマイが壊れ歯止めが効かなくなった人形のように、もう一度翼を前に出した。
翼が震え、気づけば呼吸も荒い。もう力はほとんど残ってない……でも止まるわけにはいかなかった。
目を瞑り、力を込めた………いや、力の止め方がもうわからない。
その瞬間、額にベチッと短い衝撃音が鳴った。
「痛っ」
とサスケは咄嗟に音を上げ、同時に翼の動きが止まる。
ガクっと糸が切れたように崩れ落ち、顔から落ちるサスケをニンゲンは腕で支えた。
「………もう、もういいってばよ。」
瞼が重くなる中、ニンゲンの掠れた声は確かに聞こえた。
意識を取り戻すように目が覚めた。先程まで何があったのか、よく覚えていない。
記憶をぐるぐる掻き回し、あぁ確か、天界に早く戻る為の話をニンゲンとしていたんだっけと先程の事を思い出す。あの後どうなったのだろうか。
そういえば、視界は白く空気が淡い。一瞬、天界に帰ることができたのかと思った。
………だが、どこか違う。
すっかり動くようになった羽で身を起こし、辺りを観察した。
よくわからない白い空間だった。木材の加工物が点々と置いてあり、その中に雲のような触感の物がひとつ。サスケはそこで寝ていたようだ。
時々ピーピーといった機械音も鳴っており、少し身の危険を感じるほどの違和感を覚える。
(なんなんだここは。あのニンゲンが嵌めやがったのか?)
とにかくここを出なくてはと動き出そうとした時、
ガチャとなにかを引っ張る金属音がなった。
「あ、起きたんだな」
金属音と共に現れたのは先程のニンゲンだった。
「お、お前!!何しやがった!?ここは何処だ!」
「はっ?!いやオレの家だけど!!!」
「えっ………」
ここはニンゲンの住処だったという。あんなに拒絶していたのに当然のようにサスケを招き入れ、終いには食いものを与えようとしているものだからびっくりする。
「い、言っとくけど!!お前がちゃんとカップラーメン出せたからってだけだってばよ!!!!!!!」
「……あと!!あんなとこでお前置いてって人殺しだと思われんの嫌だし!!!」
「もう大丈夫なのか?ほら、、、血吐いてただろ?」
「……あんなものお前に心配されるほどでも無い。」
あれだけ吐いた血より、サスケには気を失う寸前の額の衝撃だけが身体に残っている。
安心したのか表情が柔らかくなるニンゲンを見ていると、何故だか分からないが懐かしい気がした。
「家に入れたということは、オレを匿ってくれると言う事でいいんだな?」
「え、ま、まぁ!しゃーなしだってばよ!!!カップラーメン出したら匿うって約束したしな!男に二言はねーんだってば!!!」
「あぁ、かっぷらーめんならいくらでも出してやる」
「いやもういい!!!!あれ心臓にわりぃんだよ!!!!」
そう言うな。まだお前の間抜け面を見れてない。
人間界は大変そうだが、とりあえずコイツのおかげで困りはしなさそうだ。
………それも、悪くないかもしれない。
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