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そのまちに来ていたナオトの高校時代の同級生たちはナオトを見つけることより、まちの人たちの手当てや建物の修理などに集中していた。(ちなみに彼らの担任は『アイ』である)
この日、『ビッグボード国』で起こったこの事件は後《のち》に『ビッグボード国の災難』と呼ばれることになるが、この事件を解決に導いた者の中にナオトたちの名前は入っていない。
しかし『真紅の大天使』が『ビッグボード国』の危機を救ったという伝説がこの日、誕生した。
*
ナオトたちは、巨大な亀型モンスターと合体しているアパートの二階にある部屋の前に到着すると、次々とその中に入っていった。
そして、ナオト以外のみんなは部屋の中に入るなり、畳の上に横になった。
「みんな、お疲れ様。俺のせいで今日は本来の目的を果たせそうにないが……その……ありがとな。俺のワガママに付き合ってくれて」
みんなはその時、こう思った。
赤い鎧を着ていても、ナオトはナオトだな……と。
「別にいいわよ。もう慣れたから。それより、あんたの背後に隠れてる二人組の紹介をしてくれない?」
ミノリ(吸血鬼)は女の子座りをしながら、彼の背後に隠れているリアとロストに向かって、そう言った。
「ん? ああ、そうだったな。それじゃあ、自己紹介してもらおうかな。二人とも準備はいいか?」
ナオトがそう言うと、二人はナオトの目の前に移動して、一列横隊になった。
「どうも、どうもー! 私は天使型モンスターチルドレン|製造番号《ナンバー》 零《ぜろ》の……」
リアが最後まで言い終わる前に、その場にいたリアとロスト以外のモンスターチルドレンたちは一斉にこう言った。
『ナ、|製造番号《ナンバー》 零《ぜろ》!?』
「おい、お前ら。まだ自己紹介の途中だぞ? 少し落ち着けよ」
ナオトが彼女らを落ち着かせようとすると、ミノリ(黒髪ツインテールと黒い瞳が特徴的な吸血鬼型モンスターチルドレン)がこう言った。
「だ、だって、|製造番号《ナンバー》 零《ぜろ》は育成所を追放されるくらいの問題児なのよ! 落ち着いてなんかいられないわよ!」
「そうなのか? でも、こいつらはお前らと同じモンスターチルドレンなんだろ?」
「そ、それはそうだけど……。と、とにかくその子たちはとても危険な存在よ! だから、早く……」
ミノリ(吸血鬼)が最後まで言い終わる前に、ナオトはミノリにこう言った。
「追い出せ……か。お前がそう言いたいのは分かるが、それだとこいつらの同類であるお前たちも、ここから出ていかないといけなくなるぞ?」
「そ、それは……」
「いいか? 俺はモンスターチルドレンを人間に戻せる薬の材料を探してはいるが、いつでもやめられるし、正直、薬の材料探しなんてどうでもいいんだよ。けどな……俺は困っているやつがいたら、できるだけ助ける主義なんだよ。だから、お前らが元の人間の姿に戻るまでは一緒に居てやるよ。ただし、それが終わったら、お前らとの縁《えん》は切る。それは覚えておいてくれ。あと、しばらく二人と話がしたいから、お前らはここにいろよ」
彼はそう言うと、二人の肩に手を置いた。
「あー、それと、こっちの白髪ツインテールと金色の瞳が特徴的な美幼女《こいつ》は、天使型モンスターチルドレン|製造番号《ナンバー》 零《ぜろ》の『リア』だ。そんでもって、黒髪ロングと赤い瞳が特徴的な美幼女《こいつ》は、悪魔型モンスターチルドレン|製造番号《ナンバー》 零《ぜろ》の『ロスト』だ。はい、紹介終わり。じゃあ、みんなはこの部屋でしばらく休んでてくれ。あー、まあ、その、くれぐれも覗《のぞ》くんじゃないぞ? いいな?」
ナオトはそう言うと、二人を連れて隣《となり》の部屋に行ってしまった。
「……もうー! 何なのよ! あれは! まるであたしたちが悪いみたいじゃない!」
ミノリ(吸血鬼)が苛立《いらだ》っていると、コユリ(銀髪ロングと金色の瞳が特徴的な天使型モンスターチルドレン)が静かにこう言った。
「まるで、ではなく。今のは確実にどう考えてもあなたが悪いです。いくら|製造番号《ナンバー》 零《ぜろ》でもマスターを殺そうとはしませんよ」
「うるさい! 銀髪天使は黙ってて!」
「……はいはい」
コユリは、それ以上、何も言わなかった。というか、今は彼女と言い争う気力がなかったのである。
*
その頃……ナオトとリアとロストは……。(三人は畳の上に向かい合って座っている)
「なあ、お前らの名前の由来って何なんだ?」
ナオトは二人にそう訊《たず》ねた。
「えーっと、たしか私は『ベリアル』で」
「私が『アスタロト』……です」
「え? そうなのか?」
「うん」
「はい、そうです」
「そうか……。まあ、お前らがそれでいいなら……」
「けど、この名前嫌いだから、別のを考えてよ」
「え?」
「そうですね。私もこの名前はあまり好きじゃないので別のをお願いします」
「ちょ、ちょっと待て。二人ともそれでいいのか?」
「うん、いいよー」
「はい、私もリアちゃんと同意見です」
「そ、そうか……。なら、二人の名前を考えようかな」
彼がそう言うと、二人は目を輝かせながら、彼に迫《せま》った。
「え? いいの! 本当にいいの!」
「それは本当ですか!」
彼は二人の額に手を置くと、こう言った。
「あ、ああ、本当だ。だから、少しの間、俺に時間をくれ」
「うん、分かった! 可愛いのをお願いね!」
「わ、私もそれでお願いします!」
「よし、分かった。じゃあ、ちょっと待ってろよ」
彼はそう言うと、腕を組んだ。
そして、二人の名前を考え始めた。
えーっと、前の名前の由来はベリアルとアスタロトだから、できるだけそういうのは避《さ》けた方がいいよな。
天使と悪魔の名前を使えないとすると、残るは神かな。
うーん、でも、神なんていくらでもいるからな。
さて、どうしてものか……。
その時、彼の頭に思い浮かんだ名前は、とても可愛らしいものだった……。
「ユヅキと……ヒサメ……」
「え?」
「はい?」
「あー、いや、今のは独り言だ……。気にしないでくれ」
「待って! 今のもう一回言って!」
リアが彼に迫《せま》る。
「な、なんでだ?」
「いいから早く!」
「わ、分かった」
彼は彼女の指示に従うことにした。
「え、えっと、ユヅキとヒサメだ」
「それって、今考えたの?」
「あ、ああ、そうだが……」
彼がそう言うと、二人は顔を見合わせた。
「え、えっと、その……今のは独り言だから……」
彼が最後まで言い終わる前に、二人は彼に抱きついた。
「お、おい、いきなりどうしたんだ?」
不思議そうに二人を見るナオト。
二人は、ナオトに満面の笑みを浮かべながら、こう言った。
「とってもいい名前ね!」
「はい! とてもいい名前です!」
「そ、そうか……。ちなみに二人は、どっちが良いんだ?」
「私、ユヅキがいい!」
「私はヒサメがいいです!」
「そうか……。じゃあ、リアは雪月《ゆづき》、ロストは陽雨《ひさめ》で良いんだな?」
彼が二人にそう訊《たず》ねると、二人は元気よく返事をした。
「うん!」
「はい!」
「よし、じゃあ、今日から二人は俺の家族だ」
「か、ぞく?」
「それって、何ですか?」
「うーん、そうだな……。一つ屋根の下で助け合って生きていく集団……いや、もっと簡単に言うなら、お前たちのことを受け入れてくれるやつらの集まり……かな?」
「じゃあ、私たちはここに居ていいの?」
「ああ、もちろんだ」
「私たちを怖《こわ》がったりしませんか?」
「怖《こわ》がる? こんなに可愛い女の子を怖《こわ》がるやつは、うちにはいないよ」
「そっか……。じゃあ、これからよろしくね! ナオト!」
ユヅキはそう言うと、彼の右腕にしがみついた。
「あっ! ずるい! 私もする!」
ヒサメはそう言うと、彼の左腕にしがみついた。
「お、おいおい、二人とも……そんなことしなくても俺はどこにも行かないぞ?」
ナオトはそう言いながら、二人の頭を撫で始めた。
「うわー、これ気持ちいいなー。もっとしてー!」
「はいはい」
「わ、私ももっとしてほしいです!」
「はいよ」
そんなやり取りがしばらく続いた。
まあ、その様子を襖《ふすま》の隙間《すきま》から見ていたミノリ(吸血鬼)にとっては、気分が悪くなるだけだったのだが。
*
その日の昼食後……。アパートの二階の廊下……。
ミノリ(吸血鬼)は、ナオトを連れ出した。
「おい、ミノリ。俺に何か用か?」
「……私の前に来て」
「え?」
「い、いいから私の前に来なさい!」
「あ、ああ、分かった」
彼がミノリ(吸血鬼)の前に来ると、ミノリは彼を抱きしめた。
「おい、どうしたんだ? 何か嫌なことでもあったのか?」
「……はぁ……あのね、あんたが他人思いなのは知ってるけど、少しは自分のことも考えなさいよ。今回、あんたが助かったのは、あんたの中にいるミカンのおかげなのよ?」
「ああ、そういうことか……。てっきり雪月《ゆづき》と陽雨《ひさめ》のことで怒ってるのかと思ったよ」
「まあ、それはいつものことだからいいけど、あの二人……多分『大罪持ち』よ。だからその……気をつけなさいよ」
「多分って……曖昧《あいまい》だな」
「う、うるさい! あの二人のオーラは普通の『大罪持ち』のそれとは違うんだから、しょうがないでしょ!」
「そうか……。なら、仕方ないな」
しばらくの間、沈黙《ちんもく》が続いた。
「……ね、ねえ、ナオト」
「ん? なんだ?」
「その……鎧が外れるようになったら……」
「ん? あー、えっと、たしか……お前にキスするんだよな? うーんと、たしか場所は……」
「ここよ」
ミノリ(吸血鬼)は自分の頬《ほほ》を指差した。
「ああ、そうだな。ほっぺただったな。ずっと戦ってたから忘れてたよ」
「もうー、あんたはそういうところを直さないといつまでも結婚できないわよ?」
「はははは、そうだな。今度から気をつけるよ」
「もう、笑い事じゃないわよ」
ナオトはその直後、ミノリ(吸血鬼)をギュッと抱きしめた。
「な、何よ。急に……」
「いや……なんかこうしたくなっただけだ」
「へ、へえー、そうなんだ。でも、私じゃなくても、他にもたくさん……」
ミノリ(吸血鬼)が最後まで言い終わる前に、彼は彼女の耳元でこう囁《ささや》いた。
「これは……お前だから……やってるんだよ……」
その直後、ミノリ(吸血鬼)の顔が真っ赤に染まった。
「な、ななななな、何言ってるのよ!? あんたらしくないわよ!」
「そうかな? まあ、ずっと戦ってたから、精神的に疲れてるのかもしれないな……」
「いや、それはきっと肉体的疲労のせい……って、今のあんたはどこかの人造人間みたいに疲れないのよね?」
「まあ、そうだな。けど、もう少しだけ、このまま抱きしめていて欲しいなー」
彼がそう言うと、ミノリ(吸血鬼)は彼の頭を撫で始めた。
「ええ、いいわよ。たくさん頑張ったから、今回はサービスしてあげるわ」
「はははは、それはいいな。ぜひ頼むよ」
「分かったわ。それじゃあ、あんたのお望み通り、しばらくこうしててあげるわ……」
しばらくの間、二人は抱き合って……じゃなくて、抱きしめ合っていたそうだ。
*
その後……ナオトの部屋……。
「さてと、それじゃあ、これから本来の目的を果たしに行くが、みんな準備はいいか?」
彼がそう言うと、その場にいる全員が親指をビシッと立てた。
「そうか……。じゃあ、俺の鎧が外れるかもしれない温泉を探しに『ビッグボード国』に行くぞー!」
『おおー!!』
こうして、ナオトたちは本来の目的を果たしに行くことになったのである……。