テラーノベル
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昼の光は、城にはほとんど届かない。
それでも、どこか空気が重い。
「……」
ノスフェラトゥは壁にもたれている。
動きが、いつもより鈍い。
呼吸はある。だが――整っていない。
「……おい」
pizza guyがそれに気づく。
「なんか顔色悪くねぇか」
「……問題ない」
即答。
だが、少し遅い。
「嘘つけ」
肩をすくめる。
「ずっと血、吸ってねぇんだろ」
「……」
沈黙。
否定しない。
できない。
「……別にいいけどよ」
少しだけ、視線を逸らす。
「俺のピザ担当が死ぬのは困る」
軽口。
だが、本音でもある。
「……」
ノスフェラトゥの瞳が、わずかに動く。
「……必要ない」
「それがもう無理だって言ってんだよ」
あっさり返す。
「体調管理くらいしろ」
「……」
数秒。
空気が止まる。
そして――
「……お前は」
低く。
「危険性を理解しているのか」
「理解してるに決まってんだろ」
即答。
「でもさ」
一歩、近づく。
「それでも今のままだと、お前が先に倒れる」
「……」
その言葉に、ノスフェラトゥの指がわずかに動く。
「……それは困る」
「だろ」
軽く笑う。
「だからさ」
一瞬、間。
そして――
自分の腕を、差し出す。
「少しならいい」
「……」
ノスフェラトゥの目が、止まる。
明らかに“予想外”。
「何をしている」
「血」
あっさり。
「ちょっとだけな」
「……」
沈黙。
空気が一段重くなる。
「……正気か」
「正気」
即答。
「ただの条件付きだ」
「条件」
「死ぬな」
短く言う。
「それと」
視線を真っ直ぐ向ける。
「俺のピザを作れなくなるのは困る」
冗談みたいに聞こえるのに。
それだけじゃないのが分かる。
「……」
ノスフェラトゥは、腕を見ている。
そのまま数秒。
そして――
ゆっくりと手を伸ばす。
「……後悔するな」
低く言う。
「しねぇよ」
肩をすくめる。
「その代わり、ちゃんと加減しろ」
「……」
一瞬の沈黙。
そして。
ノスフェラトゥは――
ほんのわずかに、距離を詰める。
「……」
静かに。
牙が触れる寸前で止まる。
「……」
息が、止まる。
痛みより先に来るのは――緊張。
「……」
そして。
小さく。
ほんの少しだけ。
血が流れる。
ノスフェラトゥの喉が、鳴る。
「……っ」
顔をしかめる。
だが、耐える。
「……やっぱり」
小さく呟く。
「人間は……厄介だ」
「今さら気づくな」
苦笑する。
腕はまだそこにある。
離さない。
「……」
ノスフェラトゥは、しばらくしてから離れる。
必要最低限。
理性で抑えた跡が見える。
「……これでいい」
低く言う。
「……おう」
腕を押さえる。
「ちゃんと生き返ったか?」
「……」
少しだけ間。
「……悪くない」
それだけ。
城の空気が、わずかに変わる。
危うさは残ったまま。
でも――
ひとつだけ確実に変わった。
「共存」という形が、初めて成立した。
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