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あくる日、大晦日の朝、その惨劇は起きた。


床に飛び散った朝食の残骸

倒れた椅子

目を押さえて蹲る父さん

王王王と椅子を下敷きにノックアウトされた俺

テーブルに正座するエインセル

そして、細身に鬼を宿した母さん


何故こんな事が起きたのか、それは朝食開始直後に遡る。


いつも通りの朝、いつも通りじゃない珍客:王王王とエインセルを迎えた朝食は、始まった瞬間は確かに平和だった。

昨日送還し損ねた二匹の内、王王王は俺の後ろで買い置きのドッグフードを食べていて、エインセルは母さんがホテルボンクラのレシピに手を加えた小野麗尾家特製フレンチトーストを食べようとしていた。その直後に。


「ああぁぁぁ……」


エインセルが恍惚とした表情で蕩けた声を漏らした。王王王以外の小野麗尾家一同の視線がエインセルに集中する。

ヤツはトーストに掛けるシロップ用のスプーンを立てて全身で縋り付いている。え、コイツ我を忘れていないか?変身魔法が解けているぞ!おい、スプーンの先からシロップが零れて顔に掛かっているんだが!


「ああ…… これよ、私に必要なのは、蜜。嘆きや絶望を忘れるような、甘い、あまぁい……み・つ♪」


掛かってくるシロップを舐め、舐めきれず口の端から垂れるシロップがまた。


「「「 」」」

絶句する小野麗尾家一同。

シロップをたっぷりと掛けてフレンチトースト二口目を食べるエインセル。


「だ、ダメ! こんなの、こんなの耐えられなぁい! うぅぅぅぅまぁいぃぃわぁぁぁぁぁぁ!!!」


ヘブン状態になり料理対決のアニメの審査員演出の如く、ビキニが千切れ飛び窓から謎の光が差し込んだその瞬間。

母さんが立ち上がり背後のキッチン用タオルの端を右手に掴み、左に一歩分移動すると同時に鞭の様に振り、母さんの右隣に座っていた父さんの両目に叩きつけた。

叩き付けた勢いのままタオルを手放し、正面に座っていた俺に向かって右足を大きく踏み込んだ母さんは、後ろ手に回っていた右腕の回転と右足の踏み込みを流れるように連動させ、俺の顎にストレート気味のアッパーカットを叩き込んだ。動作開始からここまで、二秒未満。

なすすべもなく打ち抜かれた俺は持っていた皿を床に落とし椅子ごと後ろの王王王を下敷きにして倒れる。


かくして惨劇はここに幕を開けた。


ん? 終わりじゃないのかって?

幕開けだよ。


正座する俺と父さんとエインセル。

怒られる割合の大きさは、俺>エインセル>父さんの順である。

特に俺は昨日の出来事を執拗に問い詰められ、極めて特殊な性癖がないか自室内の査察までされた。

お宝は妖精の悪戯を警戒して昨日の内に室外に移送してあったため、机の上に証拠物件を並べられる恥ずか死刑案件は無かったものの、母親がベットの下を覗くという光景は非常に心臓に悪い。ベッドの下の引き出しの裏を調べられた時は心臓が止まるかと思った。

実に…… 実に、危ないところだった。新しいセーフハウス(意味浅)探さなきゃ。

エインセルは言い訳を駆使して誤魔化すのでは無く、素直に心境を白状する体を装う事で罪状を認め、刑罰を減免してもらう方向に動いたようだ。

纏めると「こんなに美味しいものを食べたのは生まれて初めてだったので気が動転してしまいました」と言う感じだ。

母さんは泣いた。父さんも泣いた。俺もつられて泣きそうになった。演技:A級は卑劣なジツだ…… 演技かどうか判らんのが特に。

変身魔法を解いた元の姿を改めて見た母さんは泣きながら両手でエインセルの体を包み抱きしめていた。

お説教はその場で一旦終わったが、父さんは別枠でお説教タイムだそうだ。

エインセルも母さんの手から逃れる事は出来ていない。それはそれ、これはこれという事らしい。二人の救援要請の視線を見なかったことにして、大掃除に取り掛かる。急がなければ夕方まで掛かるしなぁ。


「ワン」


王王王、手伝ってくれるのか? じゃあ後で洗ってやるからその毛皮で床のモップ磨きを……


「キャインキャイン」


逃げたか。所詮は畜生よ。

佐助と剛武を呼べば役に立つだろうが、もうmpの残高が心もとないしなぁ。

昼過ぎには開放された父さんと二人で家中の掃除を済ませる。母さんは昨日から引き続きおせち料理の準備だ。

エインセルと王王王は部屋に監禁中だ。奴等をご近所さんの目に触れさせてこれ以上騒動を起こさせるわけにはいかん。

案の定、掃除中にウチの様子を窺うのが何人かいたしな。

ていうか、もう帰すか。召喚しておく意味もないし。送還しようとしたら二匹とも駄々をこねだし、騒ぎを聞いた父さんと母さんもまぁまぁと止めに入った。年末年始ぐらい良いじゃないかという緩い発言に断固たる否定をしたかったが、スポンサー様の御威光には逆らえなかったよ……

年越しそば、新年カウントダウン等この辺りは昨年とほぼ同じ流れである。コタツに二匹丸まってるのが居る以外は。

新年のお参りは街から離れたお寺に向かうため二匹はおせち料理を食べさせた後に送還したのだがエインセルのヤツ、俺のマフラー持って行きやがった! それは報酬にした覚えはないぞ! 帰してもらうからな!

家族三人で毎年お参りしているお寺なのだが、今年も参拝客はそこそこ居るようだ。

お参りを済ませて母さん達が干支の小物のお土産を見繕っている間は適当に出店を見回りたまに買い食いして時間を潰す。

午後はゆっくり過ごして、二日と三日は訓練所で打ち合わせ、連携の確認をした。


ランクアップした残り三匹のステータスはこんな感じだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

[ランク] F

[種族] フォレストハンター

[名前] セキロー

[種族特性] 《野生の嗅覚》《狩猟者の勘》《立体機動》

[個体特性] 《罠探知:F級》《騎乗術:G級》

[種族技能] 《咆哮》《擬態:E級》《斬爪》

[個体技能] 《咬み千切り》

[契約義務]

・この個体は、主人が指定した生物・器物を乗せなければならない

・この個体の主人は、この個体が参加したダンジョン探索の終了後、この個体に最低三回以上の食事を与えなければならない

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

[ランク] F

[種族] 影鬼(雷鬼の眷属)

[名前] 佐助(さすけ)

[種族特性] 《汎用武装可能》《剛力:中》《固皮+3》

[個体特性] 《器用:小》《罠探知:F級》《騎乗術:G級》

[種族技能] 《闇魔法:F級》《影傀儡》《雷魔法:G級》

[個体技能] 《小細工》《罠解除:G級》《棍棒術:G級》

[契約義務]

・この個体の主人は、この個体が参加したダンジョン探索の終了後、この個体に最低三回以上の食事を与えなければならない

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

[ランク] F

[種族] ゴブリンソルジャー

[名前] 剛武(ごうぶ)

[種族特性] 《汎用武装可能》《繁殖力:極大》

[個体特性] 《剛力:小》《騎乗術:G級》《武技:G級》

[種族技能] 《剣術:F級》《体術:F級》《従者召喚》

[個体技能] 《小細工》《強打》《狙い打ち》《罠探知:G級》《棍棒術:F級》

[契約義務]

・この個体の主人は、この個体が参加したダンジョン探索の終了後、この個体に最低三回以上の食事を与えなければならない

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


訓練で判った限りでは、まずセキローの《擬態:E級》は体の表面の色を周囲に溶け込ませるような迷彩色に切り替えることが出来るようだ。《斬爪》は爪を起点に魔力の爪を伸ばす感じで、刃渡り五センチといった所か。切れ味は普通の刃物と同じくらいだろうか。


佐助の《影傀儡》は自分の影を実体化させて操ることが出来るという物だった。ただ、影の力はかなり弱く、物を掴む事はできても重いと持ち上げることが出来なかったりして、確認した所十~十五キロくらいの物しか動かせないことが判明。石を投げるのはできそうだが、現状ではそれ以上何かさせるのは難しそうだ。本人もまだあまり感覚を掴めておらず動かすのも苦労していたし。《雷魔法:G級》は魔法専門職のそれと動画で比べるとやはり効果が低い。補助的な役割がせいぜいだろう。それでも魔法剣:雷とか出来そうだし、夢が広がりますな!


剛武の《従者召喚》だが、これが特殊で一体十MPと引き換えで最大五体まで剛武の配下のゴブリンを召喚できるという物だ。

数が減っても追加ですぐに召喚できるので、使い勝手はかなり良さそうだ。ただ、燃費を考えると少しばかり不安がある。乱用するとMP枯渇になるかもしれないし、考えて使う必要があるな。基本的に召喚したゴブリンは簡単な武装をしているが、剛武たちと同じように、こちらで事前に武装を渡しておく事もできるらしい。戦いは数だよ、兄者。数が増えれば金も掛かるけどな、弟者。

召喚主がモンスターを呼び、呼んだモンスターがさらにモンスターを呼ぶ。これの繰り返しで数千単位のモンスターを使うミニオンデッキと呼ばれる戦法を使うサマナーが居るとは聞いているんだが、一回でどれだけのMPを使う事になるのやら。


それぞれの特徴を確認し、戦術の再構築を検討する。

子鬼とウルフの時から組み合わせを変えるのは何度もしているので、連携自体は取れるだろう。騎乗用具の準備に時間が掛かるし、今回のイベントは騎乗なしで行くか。新しい組み合わせを考えるのは胸が踊るが、今はとにかく練習だ。

佐助・剛武共にボウガンの使い方はすぐに覚えて、とりあえず指示した方向に撃たせる事はできた。

運用としては王王王とセキローの警戒反応から斉射準備、指示に合わせて一斉射撃・ボウガン収納、戦闘開始といった流れにしようと思っている。

最初の騎乗の例があるので、運用の確認と例外発生時の対処の議論はしっかりと。あんな悲劇は二度と繰り返してはならないのだ……!


二日は丸一日フルに訓練に充て、三日目は夕方頃に切り上げた。

明日はイベント予選の日だ。よく休んでおかないと。

ある高校生冒険者のAdventurer's Report 転載版

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