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K-Takasaka
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#人狼
#思わず笑ってしまうお話
K-Takasaka
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スクラッチャーズの公式SNSには、毎日のように新しい写真や動画が投稿されていた。
練習風景。
楽屋での雑談。
移動中に買った飲み物。
ライブ告知。
機材の紹介。
メバルがアコースティックギターを抱えて歌い、カキがエレキギターを乱暴に鳴らし、マサカゲがベースの弦を確かめる。ミステーは意味の分からない発言をし、アオノは端末を片手に機材の状態を説明していた。
そして、どの動画にもドラムの音がある。
力強く、正確で、五人の演奏を決して置き去りにしない音。
しかし、公式SNSに掲載される写真には、いつも五人しか写っていなかった。
メバル。
カキ。
マサカゲ。
ミステー。
アオノ。
ドラムセットの前に座る人物の顔には、黒い手書きの線が何重にも重なっている。
目も、鼻も、口も分からない。
もじゃもじゃの線だけが、顔の輪郭を覆い尽くしていた。
「Kさん、今回のもじゃもじゃ、いつもより濃くない?」
メバルがスマートフォンを覗き込みながら言った。
画面の中で、K-Tの顔は黒い毛玉のようになっていた。
「問題ない」
K-Tは短く答えた。
「顔バレ防止としては問題ないけど、初めて見た人はドラマーじゃなくて、黒い毛玉がドラムを叩いてると思うよ」
「顔が分からなければいい」
「徹底してるねえ」
カキがメバルの肩越しに画面を覗く。
「Kさん、顔を隠すなら鉱石のイラストにしようぜ。オレが描く!」
「カキちゃんが描いたら、顔より危険なものになるからやめて」
メバルが即座に突っ込んだ。
「危険ってなんだよ。芸術的って意味だろ?」
「前に描いた岩の絵、歯が生えてたじゃん」
「鉱石にも個性が必要なんだよ」
「鉱石に口を描く必要はないよ!」
マサカゲは投稿予定の写真を確認していた。
「この写真は問題ない。撮影場所が特定できる背景は切り取られている。位置情報も削除済みだ」
アオノが端末を操作する。
「画像内の反射も確認した。窓、鏡、金属面に顔が映り込んでいない」
「そこまで確認するの?」
メバルが目を丸くした。
「必要な処理だ」
ミステーは、画面の中で黒く塗りつぶされたK-Tの顔を見つめていた。
「これは顔を隠しているのではない」
「じゃあ、何?」
「顔の墓場だ」
「怖い言い方をしないで!」
メバルが叫んだ。
K-Tは壁際に立ち、古い黒いガラケーを開いていた。
アンテナを伸ばせば警棒のように使える、硬く重い携帯電話だった。
彼は投稿前の写真を確認すると、静かに端末を閉じた。
K-Tが顔を隠すようになったのは、スクラッチャーズがSNSを始めたころからだった。
本人の意思だった。
素顔を知られたくない。
身元を知られたくない。
生活している場所も、過去も、誰にも知られたくない。
だから、日常の写真にK-Tが写るときは、必ず本人が画像を編集した。
黒いペンで線を引く。
一本。
二本。
三本。
顔の上へ、何重にも線を重ねる。
それがK-Tの日常だった。
だが、その日の午後、アオノが過去の動画を確認していたとき、奇妙なことに気づいた。
「過去の投稿を確認する」
アオノは公式SNSの古い動画を開いた。
画面には、数か月前のライブ映像が映っている。
メバルが歌い、カキがギターを弾き、マサカゲがベースを鳴らし、ミステーがステージの端で妙な動きをし、アオノがキーボードを操作している。
そして、奥にはドラムセットがある。
ドラムを叩いている人物の顔には、手書きのもじゃもじゃが描かれていた。
「またKさんの顔に線があるね」
メバルが言った。
「本人が編集したものだ」
「うん。いつものことだよね」
アオノは動画の説明欄を確認した。
「しかし、メンバーの名前が五人分しかない」
「編集ミスじゃない?」
カキが言った。
「この動画だけじゃない」
アオノは別の動画を開いた。
練習風景。
移動中の短い映像。
ライブ後の楽屋。
すべての映像にドラムの音が入っている。
しかし、説明欄に記載されている名前は五人分だけだった。
「昔の投稿も確認した」
マサカゲが画面を切り替える。
「どの投稿にもK-Tの名前がない」
「そんなはずないよ」
メバルの声が小さくなった。
「Kさんは、ずっと一緒にいたよね?」
K-Tは答えなかった。
画面の中では、五人が演奏している。
いや、正確には六人だった。
見えないわけではない。
ドラムセットも、動くスティックも、演奏する身体も映っている。
ただ、誰もその人物の名前を書いていない。
まるで、最初から存在しなかったかのように。
「Kさんの登録情報を確認する」
アオノが端末を操作した。
数秒後、アオノは首をかしげた。
「K-Tという人物の登録情報は存在しない」
「え?」
「公式メンバー登録、過去のイベント記録、スタジオの利用履歴。すべて五人分しかない」
「そんなわけないよ!」
メバルが叫んだ。
「Kさんはずっと一緒にいた! 練習も、ライブも、危険な場所も、全部!」
「俺たちは五人で活動している」
マサカゲが静かに言った。
カキも困惑した表情でK-Tを見る。
「オレ、Kさんと話したこと……あるよな?」
「分からない」
「分からないってなんだよ!」
ミステーはK-Tの姿をじっと見ていた。
「六人目は、最初から数に入っていなかった」
「何それ……」
メバルがK-Tの隣に立つ。
「Kさんはいるよ。ここにいる」
K-Tは五人を見た。
誰もが自分を見ている。
それなのに、誰も自分を覚えていない。
「俺は、最初からこうだった」
「どういう意味?」
「誰も、俺を覚えていない」
その夜、公式SNSに新しい動画が投稿された。
タイトルは、
《スクラッチャーズ、五人で新曲練習!》
だった。
動画の中では、五人が新曲の演奏について話している。
メバルが歌詞を確認し、カキがギターの音を調整し、マサカゲがベースラインを提案する。ミステーが曲とは関係のない話をし、アオノが機材の数値を読み上げる。
そこに、確かにドラムの音が重なっていた。
動画の最後。
演奏が終わる直前に、ドラムの音が一度だけ途切れる。
画面が一瞬、暗くなる。
そして画面の隅に、誰かが手書きしたような文字が浮かんだ。
《六人目は、どこにいる?》
コメント
1件
うわあ、すごく不気味で惹き込まれました……! バンドのSNSに写る“五人”と、確かに存在するのに記録から消えた六人目のK-T。誰も彼を覚えていないままドラムの音だけが鳴り続けるラストの余韻が、じわじわ効いてきます。最後の手書きの文字に背筋が冷えました。続きがすごく気になります!