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あんにん
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仁人を手放す。
そう決めた筈なのに。
具体的に何をどうもって行けば良いのかを考えあぐねた俺は、とりあえずは元の距離感に戻すことにした。
そっ、その……言ってもアレだ。
俺的には少なくとも付き合っている、と思っていた(勿論〝恋人〟という意味で)。
だからこの合計約半年間、過密なスケジュールの合間を縫っては仁人とのコミュニケーションを大切にしてきたつもりだった……のに。
……まさかの、なあ?
好きです → 俺も!( ← 極限まで簡略化した現在までの経緯)
みたいな流れでなんで付き合ってない事になっちゃってんの!?
俺がちゃんと言わなかったから !? !? !?
……いや、どっちにしろ別れることになるんだから、その辺はもうどうでも良い……っつーか。
……と、ここではた、と気付く。
いや、そもそも論として付き合ってねーんだから別れるもナンもねーんじゃねえのか、と。
思わず乾いた笑いが漏れそうなる。
じゃあ俺たちの関係は一体全体何なの!?
お互いの気持ちを告白し合っただけのただのチームメイト(またはビジネスパートナー)!?
もーこれマジで分っかんねえ!!!
訳分かんねえよ!!!
じゃあどうすりゃ良いんだよ!!! 俺はよ!!! → とりま元の距離に……(スンッ……)← みてえに、ここのところ思考回路がすっかりオシャカになっちまって、壊れたラジカセみたいに延々と同じ場所をループしております。みんなの勇ちゃんでっす! こっんにっちは~~!
玄関から廊下を経て、リビングへの扉の向こう側から人の気配がマシマシである。
玄関でこそこそ(意味無さすぎて草)スニーカーを脱いでたら、リビングの方のドアが開いた。
「あっ、おかえりー」
ドアの向こうからエプロン姿の仁人が笑顔を覗かせている。
「ん゛ん゛ん゛っ」
──本当に、なんでコイツ居るの?
俺の貴重なおうち時間。
ここのところ仁人がずーーーーっと俺の家に居る。
マジで、ずーーーーっと。
いつ帰って来ても居る、っつっても過言ではないくらいに居る(いや流石に仁人のスケジュールが入ってる時は居ねーけど(あたりまえ体操))。
そのお陰ですっかり片付いてピッカピカな我が家。
モデルルームみたい、とまでは行かなくとも、仁人との告白合戦以降はかなり綺麗な状態を保っていた。
ほんで、距離を置く、って決めたのにも関わらず、ずっと居らっしゃるものだから距離も起きようが無い(物理)。っつーか。はあ……(クソデカ溜め息)。
まだ付き合っていないのでは? っていう柔太朗からのとんでもねえ可能性を指摘された? 日から、俺は仁人とのスキンシップはなるべくしないように注意をはらっていた。
軽いボディタッチは勿論、日常生活・仕事中問わずある程度の距離も保つように心掛けている。
あっちから近付いて来る分には知らん。それは適当に受け流す。
……なんかこれじゃあまるで『来る者拒まず、去る者追わず』みたいな感じになってねえ?
あ゛ーっっっ!!! ホンッッット、馬ッ鹿馬鹿しい話である。
「あ゛~~っ!もうっ!!!」
遂に声に出ちまって、咄嗟に壁に向かって頭を打ち付けたい衝動に駆られる。
ただでさえ過密なスケジュールに、〝恋人だと思っていた人間が恋人ではなかった〟という事実は、思っていたよりも俺を打ちのめしていたらしい。
壁に両手をついたまま、リビングへのドア付近に居る仁人にぐるんっと顔だけを向けた。俺が大好きな仁人のキュルキュルな瞳と決して目を合わせないように。彼の眉間辺りに視線を集中する。
「……帰ってくんない?」
気付けば、普段の俺ならば絶対に口に出さないようなことを口走っていた。
一瞬だけしまった、と思ったけれど、本心なのは確かだかんなー。
もう自分で自分をフォローする気力もねーわ。
「ぇ……っ」
短く発した仁人が傷付く気配がする。
……なんで俺がこんな悪ィことしてるような気持ちになんなきゃなんねーんだよッ!
──そうだ。
嫌われれば良いんじゃん。
そしたらもうコイツも此処には来ないっしょ。名案じゃね??
回らない頭で懸命に導き出した結論がこれだった。
「……あのさあ、俺、忙しいじゃん」
「……う、うん」
「いつ帰ってきてもほぼ仁ちゃんが居るからさあ……」
これってなーんかアレみてえ。
ちょー高~ェところで命綱無しに救助待ってて、絶対に下を見んなよッッ!! 的なやつ。
いろんなことが鈍く複雑に絡まり合っちまって、解けねー頭ン中をそんな例えが過ぎって口許に苦笑が浮かぶ。
まあ俺には助けに来てくれるレスキュー隊もなーんも居ねーんだけど。
壁の方へ向けていた身体をゆっくりと仁人の方へと向ける。
仁人の顔、表情は絶対に見るな。
自分に言い聞かせる。
今まで培ってきた己のスキル凡てを総動員しろ、佐野勇斗。
「……俺、溜まっちゃってんだよねー」
一応仁ちゃんも男の子でしょ? 分かるよね?? とそう続けて。
へら、と意識してなるべく軽薄そうに見えるだろう笑顔を作りながら。
「っ……!」
困惑の気配を纏わせている仁人へじりじりと近付きながら、両手を広げる。
彼はおずおずといった雰囲気でリビングの方へと後退していく。
「それともなに。仁ちゃん、処理手伝ってくれる……っての?」
逃げろ、仁人。
お前、こういうの一番苦手な筈だろ?
「勇……っ斗……っ。ごめん……全然気付かなくて……俺、こういうの、ホント鈍くて……」
しってる。
嗚呼、ヤだなあ。
俺、好きな子に加害して悦び得るタイプじゃ全くねーんだけど。
まあ逆に? 目の前のコイツは性欲をどう発散してるのか気になりすぎて夜しか眠れねーけどよ。
ズキズキと胸どころかこめかみが痛んできた気がする。
あーしんどー。
「……ね、ごめんけど。だからもう帰って貰っても良い?」
俺は仁人の顔を見ることが出来なくて、ひたすら彼から視線を逸らしながら言った。
食っちゃうフリでも出来りゃあ完璧なんだろうけども。
今日はもういろんな意味で限界だ。
心のなかでホールドアップする。
「っ……! ……勇、斗……」
真正面から視線を感じる。
「なあに?」
床に視線を落としながら答える。
「俺、どうすれば良い……?」
……は???
***
失言した。
案の定、目の前の柔太朗の顔にはこちらへと向けて〝ドン引きです〟とでかでかと書いてある。
『あれからもべつにキスはしてねえかんな』
『……キス〝は〟???』
『やべっ』
『……ウソでしょ、勇ちゃん……』
柔太朗との先程のやり取りが走馬灯のようにぐるぐると頭ン中を流れてる。
「……」
「……」
「……」
「……だから、なにがどうしてそうなるの」
「俺が聞きてえよ」
両肘を両の膝の上に置いて指を組む。
深く溜め息を吐きながら俺は項垂れた。
先程までひとり立ったままで俺を詰めていた柔太朗は、俺の対面に位置する席に着いた。
「軽く眩暈が……。しかも距離を置く、ってどういうこと? しかも、距離を置こうとしてる相手とそういうことをしてる……ってこと??」
柔太朗は柔太朗で眉間を押さえている。
「流石に最後まではヤってねーよ。男同士の戯れ合いの延長線みたいなモンなんじゃねーの? 知らんけど」
俺の性欲処理を買って出た仁人と、おままごとのようなペッティングもどきをたまーーにするようになった。
微妙に肌を重ねるようにはなったが、距離は依然として縮まっては居ない。
決して。
俺たちの間にはとんでもねー障壁が聳え立っている。
「っ……! それ本気で言ってんの!? あの仁ちゃんが好きでもない人とそんなことをするとでも……!?」
柔太朗は自身に降ってわいた問題でも無いのに、声を荒らげて珍しく怒っている。
「……好きなんは好きなんじゃねーの? 俺のこと。ただ付き合ってねーってだけで」
「っ……そんな……っ!」
「だからよう、別れ話も出来ねえんだわ。そもそも付き合ってねえんだから」
俺の言葉に、目の前の柔太朗は酷く傷付いたような表情を浮かべて絶句した。
「……そんなの、こんな関係は終わりにしよう、とかいくらでもなんとでも言えるでしょ」
あー。だからこいつのこういうトコ、ホンッッット嫌い。
〝お綺麗〟なド正論で、しかも助走付きでぶん殴って来るんじゃねえよ。
そんな簡単に割り切る事が出来るのなら……俺だって……。
「そんな関係続けてたら勇ちゃんも仁ちゃんも……」
「だから、そんなん分かってる、って言ってんじゃん」
「分かってないからこんなことになってんでしょ!? しかも、どうせ勇ちゃんのことだから、仁ちゃんときちんと向き合って、話とかもして無いんでしょ!?」
「っ……」
喉元まで出掛けた言葉を慌てて飲み込む。
売り言葉に買い言葉で思わず出掛けた〝お前には関係ない〟だなんて……。
柔太朗が心底心配してくれているのも嫌という程分かっている。
彼を巻き込んでしまったのは他の誰でも無い、俺だ。
積年の想いを募らせた相手と、やっと心を通わせられたと思い込んで、本当に浮かれちまってたんだよな……。
「……悪ィ、柔太朗」
「謝る相手、間違ってない?」
正面から冷ややかな視線で射貫かれる。
「だってよ」
「最初から説明して。勇ちゃんの口から。この状況を打開するために俺も一緒に考えるから。あと三十分はある」
俺が言い訳を口にする前に柔太朗はそう言い切った。
「はあああああ~~……」
俺の話を一通り聞き終えると、柔太朗は見たことのないような重~~い溜め息を吐いた。
彼はパイプ椅子の上であしたの○ョーのラストシーンのような体勢をとると、鋭い視線をこちらへ寄越した。
そして。すぅ、と深呼吸すると、
「勇ちゃんアラサーにもなって脳みそ中高生なの?? ホンッッット信っっじらんないッ! 少女漫画趣味なんてあったっけ?? 『あいつの為にも俺が身を引いてやらなくちゃ……(震)』??? 的な?? えっ、アナタ何かの主人公でしたっけ?? しかも悲劇の主人公気取り!? 勘違いもはなはだしいねっ!!! ここまで来ると恥ずかしいまであるわっ! 共感性羞恥ヤバすぎて死んじゃいそうなんですけどッ!? 俺もし今ここで死んじゃったりなんかしたら『勇ちゃん』って絶対にどんな手段使ってでもダイイングメッセージ残すからねッ!? この事務所事故物件になるよっ!!! なんらかの賠償請求でもされれば良いのに! 全く! だいたい、打開も何も悪いの勇ちゃんひとりだけじゃない?? これ、完っっっ全に被害者仁ちゃん >> 越えられない壁 >> 俺 >>>> そのざきじゃん。しかも、俺が一生懸命考えた薩摩隼人攻略法を宇宙の遥か彼方遠くの方へとんでもない角度で斜め右上に解釈してくれちゃってさあ! こんなん俺がそもそもの原因みたいになってんじゃん!? 仁ちゃんに申し訳なさすぎてしばらく顔合わせたくないんですけどっ!? あーあーあーあー、俺も十二分に被害者でしたねッ! さらに初キス? 出来てない事に拗ねて身体だけ手ぇ出すとかホンッッット、ドン引きなんですけど??? サイテーすぎるわっ! 『手放してやる(震)』って思っておきながら、手ぇ出すのとか一体全体どういう神経&心境で出来るの!? 何があった!? ……って、ちょっと待って?? 俺とあのレストラン行ったのってもうすぐ半年!? そしたらこの約三ヶ月間もそんな訳の分からない状態続けてたの!? しかもそれで病んでメンヘラ化?? 陽キャのヘラ化って冗談は顔……だけは国宝級なのが輪をかけて超ムカつくんですけど──!? !? !?」
柔太朗はそこまで一気に(超絶)早口で言うと、今度はパイプ椅子の上で何やら両拳を上下に振りながらじたばたしている。
俺はと言えば、捲し立てられた事は分かったんだけど、柔太朗が何を言っているのか内容がほぼ入ってこず……。
「……」
唖然と柔太朗を見つめていた。
「その宇宙猫みたいな顔やめてくれるっ !? !? !?」
んで、バチクソキレられた。
『ちょっと木刀脳天チェストでもされて来れば? 勇ちゃんが話付けられないんだったら、もう俺が洗いざらい仁ちゃんに言うから。もしそうなったら本当にもうお仕舞いだよ。それぐらい分かるでしょーが!』
俺はとうとう柔太朗から最後通牒を突き付けられた。
***
個人仕事からの帰宅途中だった。
自宅へと向かう道すがらタクシーの中でぼんやりしていると、スマホに通知が来た。
手元に視線を落とすと『勇斗』の二文字。
相変わらず勇斗は忙しい。
最後に会えたのは三日程前だっけ……。
三日前のことを思い出そうとして、不意にベッドの上で抱き寄せられた時の彼の体温を思い出した。
途端、火が着いたように頬に熱が灯る。
げっ、げんね~……。
……いやいやいやいや。無理無理無理無理。
顔に風を送るフリをして、思い浮かんだ情景を掻き消すように手で扇ぐ。
他にも余計なあれやこれやを思い出しそうになって、タクシーの中でひとり悶絶しそうになりながら、なんとか通知を開く。
『仁ちゃん、今からそっち行っても良い?』
!!!
勇斗がこっちに来る……!?
いや別に突然来られても部屋の中は片付けてあるので何も問題はない。
……んだけど、ここのところはずーっと勇斗の部屋で会っていたので、珍しいなー……って言うか、リスケでもあったんだろうか。
空き時間に恋人が会いに来てくれる。
俺はきっと、いま、ニヨニヨと締まりのない表情してんだろうな……。
「……は?」
現在時刻二十三時三十分を少し回ったところ。
いつぞやのように俺の部屋のリビングのソファの脇で勇斗は土下座を繰り広げていた。
俺はと言うと、両の骨盤付近に両手を掛けて勇斗の真正面に立った状態だ(※仁王立ち)。
「えー……そのー……流石にこの時間は虎○が」
なんだかモゴモゴと歯切れの悪い、床に伏せたままの勇斗の声だけが聞こえてくる。
「そのすぐに謝罪リーマン風仕草しようとすんの何な訳? お前巫山戯てんの?」
「いっ、いえっ、決してそのような事はっ!」
俺は腰に両手を当てたまま俯いて、はあああっ、と盛大な溜め息を零した。
いや本っっっ当にコレ、訳分からん状況だな。
──十分程前
「……夜遅くにごめんな」
玄関を開けるとしょげた様子の勇斗が立っていた。
「気にしないで。おかえり」
そう声を掛けながら、自分より高い位置にある勇斗の頭をぽんぽんと軽く叩くように撫でる。
「っ……! じ、んとっ」
顔を上げた勇斗が俺の名を呼びながら俺の左腕を掴んだ。
抱き寄せられる、と思ったら、勇斗は不意に俺の腕を離した。
「ご、ごめん……」
「なにが?」
俺に謎の謝罪をしながらまた俯いてしまう。
一体どうしたんだろか。
明らかに様子がおかしい。
何故だか胸が騒ついた。
まさか──
「おっ前、まさか撮られたんか!?」
「へっ!? ちっ、違うっ! なんも撮られてないしっ! そんななんちゃら砲食らう程の暇もヨユーも空きも無いの仁人も分かってんだろ……」
なんだろう……。空き、って言ってる時に右手を少し広げて、左手で俺を指さしてから自分の右脇の辺りの虚空をぐるってするあのジェスチャーに若干イラッとするのは。
……それはそれとして、即答で否定が返ってきて安堵する。
グループにとっては、この十年ちょっとで今が一番大事な時期だと言っても過言ではない。
グループエースでフロントマン。
事務所的にも文字通りの期待の星に、真偽はどうであれスキャンダルはタレントイメージの低下を招くことは避けられない。
彼がプロ意識高くこの仕事に就いてるのも知っている。
そして、何より誰より多忙なことも。
「……そしたら浮気でもしたんか……? すわベッド写真流出っ……!?」
「頼むから落ち着いて仁ちゃん……。俺、今そんなモン流出したら出所の心当たり一ヶ所しかないんだけど……」
「それもそうか」
勇斗に向かって悪戯っぽい笑みを浮かべてやる。
「端末乗っ取られたかな」
「マジっぽく言うのまじでやめて」
「……で?」
ずっと玄関で立ち話していたので、勇斗に中に入るよう促しながらリビングの方へと歩を進めようとした。
「……なあ、仁人……俺らって付き合ってんの?」
後ろからとんでもない台詞が聞こえたのである。
そして現在──
尚も額と床が仲良くしている勇斗の後頭部を、踏みつけてやりたい衝動を抑えるのに必死な俺。
あれから即コイツの襟首を掴み、リビングへと引き摺ってきた。
すると、いつぞやの様に流れるような無駄に滑らかな動きで土下座をキメてのコレ、である。
いろんなスキル無駄すぎる……っ!
「お前は付き合ってもいない人間とあんな事するんか」
あ゛!? と凄むと、勇斗の身体がビクッと揺れる。
「……だ、だって……。仁人……キッ……キスさせてくんねーじゃん……」
そうやって始まった勇斗の独白は、俺の想像の遥か斜め上をぶっ飛んで行った。
「……」
「……」
いやもう何と言うか。
リビングで仁王立ちの俺、正面には床と仲良くしたままの勇斗。
シュールすぎるが。
「……それでお前は付き合ってもない男の家に俺がずーーーーっと居座ってるって思っとったんか」
「……ぅっ」
「挙げ句の果てにキスもまだなのに手ェ出しとったんか」
「うぅ……っ」
頭がいたい(※いろんな意味で)。
「……それに何より、〝手放してやんなきゃ〟……?」
言った瞬間、土下座を続けていた勇斗ががばっと上体を起こした。
「だって……っ! 仁人は俺の事、好きだって勘違っんぐッッッ!」
今の奇声は俺が瞬時に勇斗の真正面にヤンキー座りのスタイルでしゃがみ込み、コイツの両頬を押し潰すように手のひらで両側からプレスしたことによるものだ。
「お前は俺が勘違いで、男とあんな事が、出来っと思っちょっとか!?」
腹立ち過ぎてお国言葉出ちまったわ~!!!
むぎぎぎぎぎっ、とでも聞こえて来そうな勢いで勇斗の頬をプレスする手に力を籠めてやる。
「仁ちゃん、痛い痛い痛い痛いっ、ごめんっ、ごめんって!」
この状態でも意外と喋れるんだな……じゃなくて。
「信じらるっか!! まこと腹っけ!! 俺の十年を、なむっじゃねえぞ!」
感情の赴くままに怒鳴って勇斗の頬を押し潰していた手を離す。
そして、彼の着ているシャツの胸倉を掴み上げるとそのまま口唇を塞いでやった。
無論、俺の口唇で。
「!!!!!」
目を閉じるのも癪だったんだけど、流石にこの至近も至近距離じゃ勇斗の表情を拝めないのが残念だ。
「ん……っ」
固まってる勇斗の口唇に完全に重ねたあと、ちゅ、ちゅ、と角度を変えて幾度も小さなキスをする。
……んんん~~……?
でもまあ、こっからどうしたら良いのか分かんないんだけど……。
「っ……! じんとっ!」
触れるだけのキスを何度か繰り返していたら、いきなり両肩を捕まれて勇斗からべりっと引き剥がされた。
「んむっ……!」
そして、気が付くと床に押し倒され(後頭部は勇斗の掌が守ってくれたっぽい)、上から噛み付くようなキスをされていた。
「んんん……っ!?」
は、やっ、勇、斗のっしっ、舌が……!
……なんか舌入って来た~~ !? !? !?
内心パニックもパニックだが、力では到底叶わない事も十二分に知ってるし、俺は実質勇斗のなすがまま。俎板の鯉である。
床に縫い付けられ、ぴったり口唇を覆われたまま、縦横無尽に勇斗の厚めの舌が咥内で暴れまわる
上の歯を奥から順に一本ずつ確かめるかのようになぞられたかと思えば、舌を絡め取られて吸われる。
「っふ、ぅっん……んっん……!」
お互いの吐息が溶け合い、最早どちらが息を立てているのかも分からない。
口蓋に舌を突っ込まれ、噎せそうになったり、歯の裏まで勇斗の舌が行き交う。
頭の芯がぼうっとする……。
そして──
「ん゛っん゛っん゛っん゛ん゛っ!!!」
俺は声にならない声を上げた。
抑えられていた手首をなんとか振り解き、割とな勢いで勇斗の胸を叩く。
「……?」
俺の異変に気付いたらしい勇斗がやっと口唇を離した。
「っはあっはあっはあっはあっはあっ! こっ、ころす気かっ!」
胸を大きく荒く上下させ、肺いっぱいに空気を取り込む。
……窒息寸前だった。
マジで死ぬかと思った……。
自然と潤む(※生理的な涙)目で勇斗を見ると、拳で口許を押さえて何やらプルプルしている。
──ん?
「何がおかしちょっとかっ!?」
コッイツ、笑っていやがる!
「っ……仁ちゃん、今みたいなキスの時は鼻呼吸してね」
「……!」
子供を諭すように言われ、カッと頭に血が上る。
腹立つ悔しい恥ずかしい、いろんな感情が綯い交ぜに押し寄せてきて、俺は顔を背けた。
「……ごめん。ごめんて……あんまり仁ちゃんが可愛いものだからさあ」
許して~~とか言いながら、更に俺に伸し掛かり頬擦りをしてくる。
大きくしなやかで無駄な肉の一切付いていない肢体は、大型の猫科動物を彷彿とさせる勇斗。
でも仕草だけ見てれば人懐こい大型犬のそれである。
「……なあ、仁ちゃん。なんでキスさせてくんなかったの?」
……。
……。
……?
「は……?」
「えっ?」
ふたりで『?』マークを頭上に浮かべながら顔を見合わせる。
途端、蘇ってくるここ三ヶ月間の爛れた記憶……。
「おっ、お前が、せんかったっちゃが!!!」
「えぇっ!? !? !?」
コイツ……マジで言ってる???
信じられない、と思いつつ、勇斗の顔をじいっと見つめる。
「……いやだって……最初にすんげー拒否されてたから……仁人、俺とキスとかすんの嫌なんかな~って……」
もっと凄いコトとっくにしとるが?
俺はと言えばこの三ヶ月、キスとかもうそんな事よりもいろんな意味でいっぱいいっぱいだったわ!!!(※1 同衾的な意味合で)(※2 勇斗経由の柔太朗情報によると、年下組は年下組で何やら勘繰ってたみたい(※舜太を除く)だが、バカ浮かれムーブを勇斗だけがかましていただけだ。断じて俺は平常運転だった……と思う)
し・か・も……。
「俺が自分から出来っち、本気で思っちょっとか!?」
すると、勇斗はぽかんと一瞬口を開いてすぐに閉じた。
そして、瞳がスーッと俺から逸らされる。
「そそそういいいやそそそうだよな……」
一頻りどもった後、俺もすっかり馬鹿になっちまってたみてぇ……と肩を落とし、自嘲気味に笑う勇斗。
「……で?」
彼に問い掛ける。
お前なら俺が何を求めているのか解るだろう?
俺達の十年(+α )は伊達じゃないだろう?
ずーーっと背中を預かって(預けて)来たんだから。
「仁ちゃん」
優しく名を呼ばれ、頬に手をあてられて勇斗と目と目を合わせる。
「……俺のせいですっかり遠回りになっちゃったけど……。俺は仁人が好きだ。……俺と付き合って貰えますか?」
「……ふつうに嫌じゃが」
「えっ!?」
「俺の十年をなむっなち言うたろ。そんな簡単な一言で、はいそうですかって言うっと思っちょっとか!」
ペッ、と吐き捨てるように言ってやると、正面から「ウソだろ~~ッ!?」とか聞こえてくる。
「俺ば、落とてみせろよ」
「いやもう落ちてる! 超落ちてるからッ! なんなら俺んちの前に落ちてたのを俺が拾ったんだからッ! この子っ、俺のだから~~ッッッ!!!」
そんなことを言いながら、俺の頭を胸に抱きかかえて子供がイヤイヤするように叫ぶ勇斗。
「やかましかっ!」
は~~……疲れる。
あとで柔太朗には何か癒されるようなものを贈らねば……。
そんな事を考えつつ、尚も俺の上でぎゃあぎゃあと煩い勇斗の胸ぐらを掴んで引き寄せ、ちゅ、と啄むようなキスをお見舞いしてやった。
「俺からのほぼ実質ファーストキスじゃったが?」
「──仁ちゃんっ!? !? !?」
↓あとがき?
・うちのsn氏じゃ話全く進まないので最後鬼嫁さんにご登板頂く運びになりました事を深くお詫び申し上げます┏○
・序盤~(?)ラブコメが行方不明になりましたが、捜索願を出した甲斐もあり無事に戻ってきてくれて良かったです(?)
・J様歴代最長 長台詞お疲れ様でした🙏(MVP)※原稿用紙約2枚分www
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