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「お前が居なきゃ」
静かな路地裏で響いた声。その声はか細く、震えていた。
『ケイ』
目の前の震える永井の前にしゃがみ込み、諭す様にして名前を呼んだ。震える小柄な肩に手を置き、顔を覗き込む。今にも泣き出しそうな程に歪めた目、ぎゅっと硬く、への字に閉ざされた口。目の前の彼は潤んだ瞳でこちらを見ていた。
「ぼ、僕…カイが居なきゃ…ダメなんだ」
ようやくぽつりと零すことができた彼の本音。しゃがみ込んでじっとこちらを見ている海斗を今更遠ざけるなんてことは今の永井にはとても出来なかった。
『…ケイ』
堪らずその肩を抱き締めた。今にも何処かへふっと消えてしまいそうで。今ここで掴まなければ、もう二度と出会うことは出来ないと感じて。決して優しくはないコンクリートの硬さなど気にせず、短パンでその地面に膝をついた。
「カイ…」
抱き締められて思わず目を見開くも、直ぐに左隣にある海斗の金髪に触れた。ふわっとしていて、なんだか大型犬を撫でている様な感触に思わず困った様に笑い、目の前の彼へと抱きしめ返して。
『俺も同じなんだ。』
ぽつりと溢れた予想もしていなかった言葉。お互いに本音を言うことが出来ていなかったらしい。ふっと抱きしめていた手を離し、再び互いに向き合う形になる。コンクリートの石の跡がひざに付く。だがそれにはお構いなしに海斗は彼を見つめた。
「え?同じって…」
動きが止まる。同じ?同じって…僕と?などと今までの会話を思い返し同じとは?と必死に探すもその答えは見当たらず、表情は驚いたまま固まっている。
『…さっきケイが言ったやつ、俺も同じなんだよ。俺も…ケイが居なきゃダメなんだ。でも、俺はケイが思ってる程綺麗な人間じゃない。普段ケイの前では良い奴って感じ出してるけど…”俺”はそうじゃないし…。だから、そんな俺がケイの側に居て良いのか不安だったんだ。』
ぽつりぽつりと話せば止まらずその核に近づいていく内に表情が強張っていく。眉間に皺が寄り、口もへの字に曲がり、目も伏せてはいるが辛そうなことだけは読み取れる。普段の彼からは想像もつかない様な顔に思わず向こうも驚くだろう。
「そうだったんだ。…でも、僕にとってカイが綺麗な人間だって事実は変わらないよ。だって、実際にカイがそうだから。…だから、側にいてよ。」
見たことも聞いたこともない、海斗の言葉と表情。「これからは僕の知らない君も見てみたい」と永井は思った。先程こぼした言葉、”だって、実際に君がそうだから” 永井が亜人だと発覚した際、皆が遠のいていく中、彼だけは、カイだけは、友達だからという理由で側に居てくれた。それだけでも永井にとっての海斗は紛れもない、唯一裏切らないと確信した人物なのだ。
『ケイ…。ありがとな、元気出た。…良いのか?またケイに迷惑がかかるかもしれないんだぞ…。』
嬉しそうに頬を緩め、安心した笑みを見せた。”また迷惑がかかるかもしれない”その言葉には自分のせいでまた永井が周りから何か言われてしまうのではないか、そして再び自分の元を去ってしまうのではないかという海斗の不安と心配が表れていた。
「 」
『 』
海斗の唇に柔く体温のあるものが触れる。海斗が何が起きたか分からず固まったままでいると目の前に永井の顔が見え、海斗は瞬時に全てを理解した。キスしたのだ。それも、永井から。
『え』
離れた途端、顔がぼぅっと熱くなるのが分かった。恥ずかしさと嬉しさで身がたじろいでしまいそうで、思わず目を伏せるも永井の反応が気になりすぐさま顔を上げて永井の方へと視線をやった。
「…ゴメン」
自分からしたキス。顔半分を覆う様にして左手を額に当てる。顔が熱い。幾度となく見た、ありきたりな恋愛ドラマの様なベターな展開。それがこんなにも熱くなるものだなんて、と永井は身をもって思い知った。自分からキスをしたのもあってか海斗の方を中々見ることが出来ず、永井は目線を下に落としたままでいた。
『ケイ』
まだ先程の熱が引き切っていない。でもこのままじゃ終われまいと海斗は永井に向かって近づき、永井の一歩前で止まった。白く綺麗な肌。日焼けのない彫刻の様なさらっとした頬に壊れ物を包むかの様にして優しく両手を添えて、キスをした。柔く、そっと。
「んん?!?」
優しい声色で自分を呼ぶ声。全てを包みこんでくれそうで、思わずこの身一つ投げ出してしまいそうな程の包容感。恥ずかしさでそれどころではなく、海斗が近づいてきていることに気づかなかった様で目の前に海斗を捉えればびくっと驚いた様に肩を震わせた。すると唇にそっと柔いものが当たり、再び顔がぼっと赤くなる。
『これでおあいこな。』
唇をぱっと離すと照れくさそうにくしゃっと笑顔を浮かべては永井へと視線を向けた。
「…ずるい」
不貞腐れたのかムッとした顔で海斗を見た。唇をとがらせて”ずるい”と言えば、ぷいっとそっぽを向いた。だが、良く見るとまだほんのり顔が赤い。
『それはケイもだろ?』
はは、と笑えば自分の首の後ろに手を回し体温を確かめる。まだ熱い。当然と言えば当然なのかもしれない。好きな人とキスができたんだから。熱があるのではないかと疑う程の熱さだが、海斗は特に気にもせず、永井の方を見ている。
「え?カイみたいに、ずるいことなんてしてないけど…」
無自覚なのか、きょとんと目を丸くしている。先程の不意打ちのキスはズルいことに入らないらしい。そこがなんとも永井らしいが。目の前の海斗の笑うと揺れる肩。自分よりもがっちりとしているからか、すこしどきっとしてしまう。
『…俺は、ケイのそういう所が好き。』
自分でも急な告白だと思う。でも今伝えなければ、今言わなければ、あやふやなままにはしておけないとお互い分かりきっているであろう気持ちを目の前の彼に伝えた。気持ちを伝えたその目は真剣で、真っ直ぐな眼差しをしている。
「…な、なんだよそれ…!」
告白を受けて、嬉しさと恥ずかしさでぐちゃぐちゃなりはぁ、とため息をついた。すると顔を上げ、困った様に笑って言った。
「僕も好きだよ。そういう、カイの正直な所。」
伝えなければ。はっきりと、自分自身の本心で。声で、気持ちで。言わなければ、と勇気を出して海斗の目を見て言った。その目は赤く、まるで宝石みたいで、海斗自身でさえも吸い込まれる様な瞳だった。
この先もお互いを知っていかなければ。互いにそう思い、路地裏に差し込む夕日の光に向かって歩き出した。
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紅の剣士 フラン
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コメント
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みぅです🤍🥀 第1話、読ませていただきました。 永井くんが「カイがいなきゃダメ」って言った瞬間、胸がぎゅっとなったよ…。お互いに「いなきゃダメ」って思ってるのに、なかなか伝えられなくてすれ違ってる感じが切なかった。でも最後、海斗くんが素直に自分の不安を話したところ、すごく良かった。キスの使い方も自然で、2人の距離が少しずつ縮まっていくのが尊すぎる…! 亜人という設定も気になるから、続き楽しみにしてるね🌙