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三匹の子豚に登場する狼のように人里離れた山奥に住むのではなく、現代社会で暮らす普通の人々の中に紛れ込んでいるのが現代のオオカミなのだという説を唱えた人物がいる。それはジョン・ディー博士だ。彼は人間に擬態したオオカミについての本を出版しているのだが、その中で彼が提唱している説はこうだ。まず普通の人間が見聞きできる情報というのは限られている。だから普通の人間の目に映るものだけを元にして判断を下すと誤った結論に至る可能性が高い。そこで普通の人の目には見えないものが見える特殊な能力を持った者がその情報を補完する役目を果たすのだと言う。そうすれば一見したところ普通の人に見えても実は特別な力を持っているかもしれないという事になり、そういう人を見分ける方法があれば、例えば占い師として高い報酬を得られるようになるだろう。
つまりオオカミとは霊感の強い者の事を差す言葉だったのではないかと考えられる訳だが、これはなかなか面白い発想だと思う。しかし私はこの考えをあまり支持していない。なぜなら私がこれまで出会った本物のオオカミの中には、そういった能力を持ち合わせている者はいなかったからだ。ただでさえ人目を避けて暮らすのが難しい時代であるにもかかわらず、そんな能力を持っていたら大変ではないかと思う。もし自分が他人より優れた能力を持っていてそれを隠さなければならないとしたら、常に気を張っていないといけなくなるし疲れてしまうだろう。しかも自分の正体を隠すために他人のふりをしなければいけないなんてストレスを感じずにはいられないはずだ。もしも本当にオオカミたちがそのような生活を送っていたとしたらとても大変な苦労を強いられていたに違いない。オオカミたちはきっともっと楽をして生きていく方法を編み出していたはずなのではないだろうか。しかしここで一つ疑問が残る。そもそもなぜオオカミは絶滅したのかという点についてだ。現在の生物学的な知見によれば、その要因の一つは肉食獣の減少にあるとされている。かつて人間や大型草食動物といった捕食される側の生物にとって捕食者である肉食獣というのは脅威だったはずだし、またそういった肉食獣にとっても餌となる被捕食者の存在は重要な生存戦略の一環であったはずなのだから。それが現在においては逆転しているのだとすれば、それはいったいどういうことだろうか。もし仮に人間が絶滅してしまったとして、果たして彼らはその後どのような進化を遂げていくというのだろう。
ところで話は変わるけれど、ぼくたちの世界における食物連鎖の頂点にいるのは何だと思う?そう、ライオンだよね。でも実はあれってちょっとおかしいんだよ。ライオンは確かにサバンナの支配者だけど、彼ら以外の草食動物の個体数はそれほど多くなかったらしい。だからライオンがいる間は問題ないんだけど、彼らがいなくなった後、草原に生息する草食動物の数は一気に減ってしまう。そうなると今度は逆に肉食性の昆虫類が増え始めるんだ。やがて彼らはその数を爆発的に増やしていく。こうなるともうだめなんだ。生態系のバランスは完全に崩れてしまうからね。その結果、この世界のどこかには必ず”食物連鎖の逆転現象”が起こることになるはずなんだ。つまり、草食動物たちはどんどん狩られていき、ついには絶滅してしまうだろうっていうこと。これがいわゆる弱肉強食の法則というやつさ。でもそんなことはあり得ないと思う人が多いかもしれないけど、現実には起きてしまっているんだよ。なぜだかわかるかな?それはね…………」
***
カランコロン♪ ドアベルの音とともに入ってきた男は店内を見回して言った。
「誰もいないのかしら?」
するとカウンターの奥にあるキッチンスペースの方から声がした。
「あら?お客様かしら?」
彼女はエプロン姿のまま出てきて男に声をかけた。
「こんにちわ。私はこういうものです。」
男は名刺を差し出した。そこには『月刊プラネット』編集部 主任 中村文彦とある。彼女はその名刺を受け取ると言った。
「これはご丁寧にありがとうございます。それで今日はどのような御用件でしょうか?」
中村は少し困った顔をしたがすぐに笑顔になって話し始めた。
「じつはこのたび弊社の雑誌でコラムの連載をしていただける方を探していまして。」
彼女の顔色が変わった。しかしそれも一瞬のこと。またすぐに元のおだやかな表情に戻った。まるでそんなことはまったくなかったかのように。
「そうなの。でも、もう行かなきゃいけないわ。」彼女はいった。
「まだ時間があるだろう?もう少し話そうじゃないか。」
彼はひきさがらなかった。
「だめよ。仕事の時間だもの。」
彼女がそういったとき、彼の頭の中で警鐘が鳴りはじめた。それはだんだん大きくなってきた。やがて耐えられないほどになり、しまいには耳障りな騒音となった。彼は頭をふりながら立ち上がった。彼女は彼を見つめていた。しかし、その視線は彼に焦点を結んではいなかった。彼女の眼差しは彼の背後に向けられていたのだ。振り向くと、そこにはベッドがあった。その上に一人の男が横になっていた。男は死んでいて、胸の上に開いた本を抱きしめるようにしていた。男の髪は長く伸びていて顔を隠していたが、それが死体であることだけは間違いなかった。本の表紙に書かれた文字は、英語ではなかったからだ。
「これはいったいどういうことなんでしょう……」
そう呟いたあとで、ようやく気がついた――自分が口を動かしていないことに。声を発しているのは彼女だった。男でも女でもない、機械のような声で彼女は言うのだ。
「わたしの名前は、カグヤといいます」
その言葉の意味を理解する前に、身体に衝撃を感じた。痛みはない。だが、自分の肉体から意識だけが引き剥がされていくような感覚がある。
「待ってくれ、どういうことなんだ!?」
必死になって叫ぶが、彼女に届くことはないようだ。彼女の視線はこちらを向いていない。ただひたすらに虚空を見つめていた。
不意に視界が闇に包まれる。それと同時に、俺という存在そのものが希薄になりつつあった。やがて意識すらも失いそうになる中、「また会いましょう」という言葉だけがはっきりと聞こえた気がした。
***
目が覚めると、俺はベッドの上に横になっていた。頭を押さえながら起き上がる。部屋の電気は消えており、窓から差し込む月明かりによって室内の様子を確認することができた。
ここはどこだ……? 見覚えのある景色ではなかった。病院にしては狭すぎるし、自宅であるはずもない。俺はベッドの上に寝ていて、頭上の壁からはコードが何本も出ていた。コードは俺の首筋や手首に繋がっている。その先には、何かの機械のようなものがあって、そこから伸びているチューブが口元へと伸びていた。チューブの先端にあるパックの中には液体が入っているようで、喉が渇いていた俺は思わずそれを飲み込んだ。すると急に眠気が襲ってきて、意識が遠退いた。次に目を開けたときには、この部屋にいたという訳だった。夢でも見ていたのかと思ったが、自分の手を見てみると、注射の跡がある。あれは現実に起こったことなのか……。
俺はふらつきながらも立ち上がり、部屋から出ようとドアノブに手をかけた。しかし鍵がかけられているらしく、開くことはなかった。窓の外を見ると、そこは地上よりも遥か高くにあり、飛び降りたら助かる見込みはないと思われた。どうしたものかと考えていると、どこか遠くの方で爆発音が聞こえたような気がした。耳を澄ませて音を聞いてみると、それは確かに聞こえるようだ。しかも、どんどん近づいてきていっているように思えた。まさかと思いつつも、俺は窓から離れ、壁際に身を寄せると息を殺した。そして、次の瞬間――凄まじい爆音とともに窓ガラスが割れる音が響いた。反射的に目を閉じると、破片が顔に当たる感触があった。恐る恐る片眼ずつ開けていくと、そこには巨大な鉄球が落ちてきていて、それが床に衝突した際に砕けたガラスの破片が辺りに飛び散っていた。
俺は咄嵯にその場から離れると、近くにあった机の下に潜り込み、身を屈めた状態で様子を窺った。それから少しして、再び爆発音が響き渡り、その衝撃によって床が大きく揺れる。……どうやらこの辺り一帯はかなり激しい戦いが繰り広げられていたようだ。
だが今はそんなことを考えている暇はない。俺達は今すぐにでもここから脱出しなければならないのだ。そう思いながら、先程までいた場所の方を見てみると――そこには見覚えのある姿が立っていた。それは全身が真っ白に染まっている女性だ。恐らくは人間ではないと思われるのだが、見た目からして二十代前半くらいに見える彼女は、何故かメイド服を着ており、手には箒のようなものを持っている。そして彼女の足元には大きなクレーターが出来上がっており、その中心には一人の男性が倒れ伏していた。
彼はスーツ姿の男性であり、気絶しているのかピクリとも動かない。すると、白い女性がこちらの存在に気付いたようで、ゆっくりと視線を向ける。すると、彼女は口を開いた。
『……アナタたちは?』
透き通るような美しい声だった。しかし彼女が発した言葉の意味がよくわからない。彼女はぼくを見て微笑んでいるけれど、その笑顔が何を意味しているのかもよくわからなかった。
彼女の名はなんと言ったっけ? 確か……そう、「アンジェリカ」だ。だけどぼくは、その名前を呼ぶことはおろか、口に出すことさえできなかった。
これは夢だとすぐにわかった。
夢の中で自分の意識だけがはっきりしている状態のことを明晰夢というらしいけど、これがそうなのだろうか。でもこの感覚はどこか現実めいていて、とても夢とは思えないような気もする。とにかくここは夢の中なのだから、もっと非現実的な世界になるべきじゃないのか? ぼくは自分の腕を持ち上げてみた。指先が動く感触があるし、手を開いたり閉じたりすることもできる。足を踏み出してみることもできるようだ。ということは身体を動かせるということだろう。でもなんだか妙だ。なんとも言えない違和感を感じるのだ。まるで身体が自分のものじゃないみたいな感じ……。それに目の前にあるものも変だった。それは人間の顔だったからだ。それも普通の人間の顔ではない。目が一つしかないし、鼻もない。唇さえもなかった。つまりその人間はただ目と口のあるだけの黒い穴にしか見えなかった。そういえば全身もそんなふうに見える。しかしこれはどういうことなのか。なぜ自分はこんなところにいるのだろうか。そして目の前のこの人はいったい誰なのだろうか。わからないことが多すぎて頭が混乱してくる。すると突然頭の中に声が響いた。
「やっと会えたわね……」
それは女性の声だったが、どこから聞こえてきたのかはよくわからなかった。頭の中に直接語りかけているように思えた。
「君は一体だれなんだよ!? それにここはどこなの?」
「私はこのホテルのオーナーでございます。」
ちがいます。オーナーではありません。」
「私達はこのホテルを経営しておりまして、お客様から頂いたお代の一部を収入として得ています。
しかし残念ながら、このホテルの経営はあまりうまく行っていません。
なぜなら、このホテルには客がいないからです。
なぜだと思いますか? それは私が客を選ぶから