テラーノベル
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むにさんからのリクエスト、韓日です。
冒頭は森見登美彦さんの「四畳半神話体系」からの引用です。
成就した恋ほど、語るに値しないものはない。
そう、人は言う。
成就していない恋は語られるべきだ、というのだろうか。
そんなの、あまりにも酷い。
特に、片思いを拗らせた身としては。
「ねーぇ、聞いてんの?」
大きな瞳に不満を写して、韓国さんは僕を覗き込んだ。
ぼーっとそんなことを考えていた僕が悪いが、パーカーの紐がパフェにつかないか心配だ。
「聞いてますよ。」
ほんとかなぁ、と口を尖らせる動作に、とくん、と心臓が跳ねる。
「これでもご長寿国家ですからね、恋愛相談くらいチョチョイのちょいですよ!」
その音を誤魔化すように、手のひらで胸を叩いた。
「ジジイの間違いでしょ。」
「帰ろかな……」
「逃しませんが??」
憂鬱な気持ちを肺に集めて、息を吐き出す。
見た目はともかく心根すらきらきらした韓国さんに似合わない自分が嫌になる。
「それで?その…す、好きな人…がどうしたんですか。」
「…絶対気付いてないんだよね、僕のアピール。」
鈍感な方なんですねぇ、と言うと、韓国さんはまぁそこがかわいくもあるんだけどさ、と頬を緩ませた。
イチゴをつつくと、クリームの中に沈んだ。今の僕のような不恰好さに、小さく息を吐く。
「でさ、日本ならどうされたい?」
告白、と形の良い唇が動く。
イタズラを仕掛けようとする子供のような無邪気な瞳が眩しい。
「……好き、って、言えばいいんじゃないですか?…私なら、それだけでじゅうぶん嬉しいですけど。」
「絶対ヘタレじゃん。」
ぷくりと膨らませた頬をつつかれた。
「じゃあ私に聞かないでください。」
「ごめんごめん。」
絶対失敗したくなくてさ、と言いながら、韓国さんはスプーンを手に取った。
綺麗に整えられた爪。しなやかな指がハンドクリームでしっかり保湿されていることを、デスクの近い僕は知っている。
やはり、恋する人は美しい。
それが想い人であるのなら、尚更。
***
パソコンを閉じた時、『目が合ったから』と、韓国さんに誘われて、なぜかしりとりをしながら歩いている。
「リス」
「スイカ」
「カモメ」
「明太子」
「こま」
「…ま…ま……ま………。…あっ、マリカしない?」
しりとりは、と言うと、まぁいいじゃん、と返された。
「Wiiでやりたいなー、久々にー。」
チラチラと目線を投げかけてくるものだから、本当に憎めない。
「…僕ん家来ますか。」
やったーとわざとらしいくらいの勢いで韓国さんが喜ぶ。
「確か韓国さんって結構いじわるなプレイしますよね。」
「……だって、日本がいい反応するから。」
そんな話をしていると、家に着いた。
カチャカチャ鍵を回し、ドアを開ける。
「社畜のくせして綺麗な部屋だねー。」
「まぁ、綺麗好きな方なので。」
「偉〜。一緒に住まない?」
「はいはい、手洗ってくださいね。」
シンクに向かった韓国さんを横目に、ゲームを起こす。
「よし。負けませんよ。」
「いつまで強気でいれるかな?」
***
「…やっぱりいじわる……。」
「そんなことないって。」
結果は21対38。かなりのボロ負けだ。
「何本走りました?」
「計算しなよ。数学得意なんでしょ、日本人。」
「アジア人はみんな理系らしいですよ。」
そんな風に軽口を叩き合っていると、韓国さんがテレビに表示された数字を見て、大声を上げた。
「あぁっ、終電逃した!!」
***
「…ねぇ、日本ってさぁ…アホなの?賢いの?」
「うるさいです!」
やらかした。
泊まってけばいいですよ、と言った。
着替えを貸した。
お風呂も終わった。
ここまでは良かった。
ここまでは。
一緒に暮らしていたにゃぽんが仕事の都合で越して行って、今、家には一つしかベッドがないのだ。
「…まぁ、いっか…」
ぼすん、と音を立てて、韓国さんがベットに倒れ込んだ。
「じゃあ、おやすみなさい。」
「待て待て待て。」
どこ行くの、と手首を掴まれた。
「え?ソファで寝ようと…」
「だーめ。」
日本は今から僕とお話しするの、と腕を引き寄せられた。
すっぽりと腕の中に体を収められる。
「ちょっ、韓国さんっ!?」
「好きだよ、日本。」
耳元で、甘い甘い声がした。
「…え、話と違うんだけど……。」
戸惑ったような声。混乱しているのはこっちの方だ。
「だから。好きだよ、って。」
バックハグの体制で、肩に顔を乗せたまま、至近距離で繰り返される。
「…好きな人、いるんじゃ……。」
「だから聞いたじゃん」
されたい告白の仕方、と不満げに韓国さんが言う。
いつかの尖った唇が頭をよぎった。
「……ふぇ……っ?」
ようやく明かされた情報の意味がわかって、顔がカッと赤くなる。
「ほんっと鈍感だよね。…まぁ、そこがかわいいんだけど。」
少しいじけたような、照れたような…初めて聞く韓国さんの声。
握られた手のひらにもじっとりと汗が滲んでいて、飛び出しそうなほど心臓がうるさい。
「…でさ、どう?嬉しい?」
湿気を含んだ吐息が耳にかかる。
「んっ…………。」
ゾクゾクと甘い電流が背中を駆け抜けた。
「ねーぇ、聞いてんの?」
「…うれしい、です……。」
「何て?」
「……性格わっる。」
だって聞こえなかったんだもん、と悪びれもせず言う。
「……僕も、好きです…。」
ぎゅっ、と抱きしめられ、首筋にキスを落とされた。
「ふぁっ………。」
思わず甘い声が漏れた。
「…ねぇ日本。」
僕のこと、ここまで入れてよ、とお腹を撫でられた。
大きな目を熱で潤ませた上目遣い。
絶対、僕がこの顔に弱いことを知っている。
「……やっぱ、いじわるじゃないですか……///」
何のこと、ととぼける彼を軽く睨んで、向き合うように体制を変える。
「ね、どうされたい?」
「…キス、してください。…顔見えるの、嬉しい、から……。」
「ヘタレにしては上出来じゃん。」
唇が触れ合う。
韓国さんの真似をして、彼の背中に腕を回した。
部屋に水っぽい吐息がこだまする。
「ん゛ぁっ……ふっ……あっ……♡」
輪郭がわからなくなりそうなほど、絡み合った舌が熱い。
頭がふわふわして、目の前の快楽と彼のこと以外、何も考えられなくなる。
「ふふっ、もうトロトロじゃん。」
「いっぱい触ってあげるからね……。好きだよ、日本。」
成就した恋ほど、語るに値しないものはない。
あれはきっと、照れ隠しのために作られた言葉だ。
(終)
コメント
12件
うわうわうわあ!!!!!!好きッ!!!!!!やっぱ何と言いますか、、、うーん美味しすぎて言葉が出てこない。韓国くんと祖國が可愛いのはわかります。はぁなんて才能の塊。恐ろしや恐ろしや、、こんな方の作品が見れて私は幸せもんだなぁ!!!!!末永く生きてください。(情緒不安定)
はぁぁあまじでぇぇ なんっっでこんなに文章上手なんですか!?ほんとに私の指悲鳴あげてますけど押すのやめられませんって
もう大好きです(語彙無)