おれはドワーフ族に気に入られたらしい。それはいいとして、樽の中に着の身着のまま入れた彼女をどうやって起こすべきなのか。魔石に触れるよりも先にそっちの方を何とかしなければ。
未だに呆《ほう》けているフィーサを目覚めさせるためにもここは荒療治を施すことにする。
元が剣とはいえ彼女の体に触れて洗うのは何となく気まずい気持ちになるので、シーニャにしたように樽の中にある成分不明の液体を浮かせ、頭上から勢いよく流すことに。
「ひゃぅぅぅ!?」
冷水では無かったが、頭から液体を浴びせたことで彼女は驚きの声を上げた。
「気が付いたか? フィーサ」
「あ、あれ、イスティさま!? ど、どうして……?」
「ごめんな。驚かすつもりは無かったんだよ。おれは外に出て待っているから、布服を乾かしたら外に出て来てくれるかい?」
「わ、分かったなの」
思考停止していたフィーサがようやく元に戻った。それにしてもフィーサのレベルと年齢は約九百歳。魔石に付与されたからといって何が変わるというのか。
魔石に触れるだけで剣を磨くのと同じ効果が得られることはにわかには信じがたいが、フィーサの魔石に触れてみることにした。【フィーサブロス】と見える魔石を手に取り、表面を手でなぞる。だが、手の平の上に置いた魔石からは特に何の変化も感じられない。
――そう思っていたが、
「ひゃあぁぁぁん……!? や、やめて、ください~イスティさま、イスティさま~」
小屋の中からフィーサの悲鳴?
魔石に触れただけで磨かれるとドワーフのおっさんはそう言っていた。小屋の中で彼女の体を洗うことは避けていたのに、フィーサが勢いよく飛び出してくる。
「イスティさま! くすぐるなんて、ひどいよ~!」
「そ、そんなつもりじゃ……」
「小屋の中でほったらかし! これも!」
「ご、ごめ……ん?」
落ち着いて彼女を見ると何かが違う気がした。見た感じ随分と大人びているし、何より言葉遣いが変わっている。
「どうかしたの? わたし、何かしたのかな?」
フィーサが変化しているようなので、その流れで魔石を使ってガチャを引いてみることにした。魔石をシャッフルさせながらガチャを引く――はずが、何故かすぐに剣の姿に戻ってしまった。
「えっ……? わわっ!?」
【宝剣フィーサブロス 落ち着きのフィーサ:人化時のみ Lv.901】
【Sレア 魔法カウンタースキル 両手剣時常時発動】
【Sレア 魔力を溜めることが出来る :持ち主に依存】
レベルが一つだけ上がっているな。大人びたことと関係があるのか?
装備の内訳は見事にフィーサ固有のものばかり。専用の魔石の意味がこれだとすれば、ルティにもちゃんとした装備を用意出来そうな気も。
「あれれ、イスティさま? わらわ、何かしたなの?」
「――えっ? あれ?」
「あっ、それがわらわだけの魔石?」
「あ、あぁ」
やはり剣の姿だと少女のままだ。人化の時のみ大人びて言葉も落ち着くということらしい。よく分からないが、人化の時に浴びた謎の液体のせいかもしれない。
それとも――?
「イスティさま、そろそろ戻るなの! 小娘も虎娘もうるさいなの」
「そ、そうだな。そうしよう」
人化の姿が成長しても両手剣の形状が変わるわけでもなかった。つまりそういうことなのだと納得せざるを得ない。専用の魔石と宝剣フィーサの成長。どちらも同様に謎が深まるばかり。
しかしまたすぐに分かるだろうし、今は気にしないでおく。
「ルシナさん、戻りました」
それにしてもルティの家に戻ってからの疲労感が半端ないな。
「ただいまなの~!」
「お帰りなさい、アックさん。あら?」
ルシナさんは変化に気付いたか?
「……えっと、何か?」
「いいえ、ふふっ。何でも無いですよ。アックさんもお疲れでしょう?」
「まぁ」
「でしたらお休みになられては?」
フィーサの成長、そして魔石の影響で疲労感が出ているのは明らかだ。ここは素直に休むことにする。
「お言葉に甘えてそうしときます。ルティたちもまだ眠っていますよね?」
「あの子ったら一度熟睡すると物凄く眠ってしまうんです。あの子の目の前に樽があればすぐにでも目覚め……あら、そういえばその樽……?」
樽で目覚めるとかどういう効果があるんだ?
違う意味で恐ろしさを感じるし、ルティが目覚める前にすぐにでも眠っておこう。
「へ、部屋は奥です?」
「ふふふっ、慌てなくても大丈夫ですよ。獣人の子も静かに眠っていますから」
ルシナさんの言葉に甘えて寝ることにする。
「わらわも一緒に寝てもいいなの?」
「ふふっ、どうぞ」
フィーサの成長と変化、魔石に記憶された彼女たちの成長もこれから先、魔石が示してくれるのだろうか。
とにかくまずは眠る。ぐっすりと寝て、それからだ。
「ふふふ、よく眠っていますよ。今のうちにお連れしてはいかがですか?」
「そうする! ルシナちゃん、他の子は無理だよ? それでもいい?」
「分かっています。娘のルティシアと彼だけを――」
「はいは~い! 任せてっ!」
「お願いね、姉さま」
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