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僕はどんよりとした曇り空の下、一人で歩いていた。
「絶望」と言う感情を覚えたてだった。
ニュータイプのボディーをやっと手に入れて、やっと愛する女性を見つけた。
少なからずとも僕はそう思っていた。
でも、彼女にとっては僕はそんな相手ではなかった事を知った。
やっと、彼女の喉につかえていた気持ちを知った。
雨が今にも降り出しそうだ。
僕は泣いた事はある。
悲しいと目から流れる液体の事を涙と言うのだ。
人間の涙はしょっぱいらしい。
でも、僕達の涙は何の味もしない。
僕の頭の中でアイリと過ごした日々の一つ一つがゆっくりとリプレイされていた。
雨が降って僕はずぶ濡れで涙と混じって泣いているのか、多分通り過ぎて行く人には分からないだろう。
僕はアイリに夢中になっていた。
アイリは僕が人工皮膚のトラブルで入院した時に出会った。
アイリは僕の担当ナースだったのだ。
僕は一目でアイリが人間だと分かった。
人間の動作には無駄が多い。
テキパキと仕事をこなしているが、ロボットのナースと比べるとやはり無駄な動作が多いのだ。
そんな彼女をかわいらしく思った。
僕は淡い恋心を彼女に抱いた。
ロボットの僕になんて無理だろうと思った。
でも、アイリは優しかった。
人工皮膚の張り替えは普通1泊で終わるのだが、僕の場合他の損傷が激しくて修復までに2週間かかった。
退院がアイリから告げられた時、僕はアイリを誘っていた。
アイリは少し驚いたがにっこりと頷いてくれた。
僕は天にも昇る気持ちになった。
アイリは本当に優しかった・・・・。
僕はアイリとずっと一緒に居たくなった。
アイリの肌は白くて血管が透けて見えそうだった。
照れるとポッと頬を赤らませるのがかわいかった。
人間の身体・・・。
羨ましかった。
そして全て欲しかった。
アイリの全てが欲しかった。
「結婚しないか?」
僕はアイリに抑えれない気持ちを伝えた。
アイリは少し考えていた。
人間とロボットの結婚はニュータイプのボディーが出来て認められるようになっていた。
まだ少ないが結婚して幸せに暮らしているカップルも存在する。
しかし、ロボット同士の結婚同様、妊娠しなければ認められないのだ。
妊娠を怖がっているのだろうか?
「でも、妊娠するか分からないわ。」
そう、ぽつんとだけ言った。
「人間の身体は複雑だから仕方ないじゃないか。アイリが僕と一緒にいたい気持ちがあるなら、いつまでも待つよ。」
「一緒に居たいわ。」
どこか寂しげな瞳でアイリは小さな声でつぶやいた。
僕はシードバンクでカプセルを買った。
アイリも買うときは一緒に行った。
何度も行った。
何度も、何度も・・・。
でも、いつまで経ってもアイリは妊娠しなかった。
昨日も僕は白いカプセルを飲んだ。
そして、いつものようににキスをしようとしたらアイリは僕を突き飛ばした。
「どうしたんだよ?」
「もういいの・・・。」
「何で?僕はいつまでも待つよ。」
「無駄なの。」
「無駄って?」
アイリは瞳にいっぱい涙を溜めて僕を睨んでいた。
「どうしたって言うんだよ。」
アイリは黙ったままだった。
「何とか言ってくれよ。」
僕は困り果ててしまった。
そして重い口をアイリは開いた。
「私、妊娠できない身体なの。」
僕の身体に衝撃が走った。
「この前、調べたの。そしたら・・・・。今まで黙っててごめん。」
うつむいてアイリは顔を上げようとしなかった。
でも、それでも・・・。
「一緒にいるだけでも、いいじゃないか。それじゃ、駄目なのか?」
僕は必死で言った。
僕にアイリは必要な大切な存在だった。
僕の憧れ。
僕の喜び。
僕の支え。
でも、どれだけ言ってもアイリはうつむいて2度と僕の顔を見てはくれなかった。
僕が失恋したのは初めてじゃない。
でも、僕にはアイリが全て。
全てだったんだ・・・・。
僕はずぶ濡れになりながら橋の真ん中で首の後ろの人工皮膚を引っかいてボタンを押した。
僕の人生はもうこれで終わり。
強制終了だ。
もう、このままここに存在する意味はない。
このまま永遠に彷徨いたくはない。
さよなら。
アイリ・・・。
僕の首の人工皮膚は剥がれて涙のよに赤い液体が滴り落ち、霧のように僕の身体は分子単位に分解され地球の大気と混ざり合っていった。
僕が膨張するのが分かる。
意識が薄れていく中で僕は宇宙に還元されていく喜びを感じていた。
そして、僕は分かった。
僕にも魂のような見えないものが残っていたと。
僕は、今、人間に一番近いの?
そんな中、僕の意識は完全に途絶えた。