テラーノベル
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ちょい長です
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その日一日、
こさめはやたらと機嫌がよかった。
廊下でも、教室でも、
いつもより少しだけ歩くのが軽い。
「らんくーん!
今日の英語の小テストさ〜」
「みこちゃん今日眠い?」
「なつくんそれ新しいイヤホン?」
やけに話しかける。
やけに笑う。
(……俺、単純だな)
でも、どうしても。
あの時のことが頭から離れなかった。
――すちが、前に出てくれたこと。
――はっきり「近づかないで」
って言ってくれたこと。
(……守られた、って言うのかな、あれ)
胸の奥が、じんわり温かい。
そして。
すちはというと。
……落ち着かなかった。
(……なんで、あんなに機嫌いいんだ)
席が少し離れているから、
ちらっと横顔が見えるたびに、
こさめが笑っているのが目に入る。
(……俺、なんかしたっけ)
いや、した。
したけど――
(あれ、そんなに嬉しいこと
だったのか……?)
昨日までは、
こさめに話しかけられると
どこか緊張して、
どこか距離を取っていたのに。
今日は逆だ。
こさめが笑うたびに、
なぜか胸の奥がざわつく。
(……落ち着け)
ノートに視線を落とす。
でも、文字が全然頭に入ってこない。
その時。
「すっちー!」
少し弾んだ声。
顔を上げると、
机の横にこさめが立っていた。
「なに?」
「今日の放課後さ、一緒に帰れる?」
ただそれだけの一言。
なのに。
心臓が、変な跳ね方をした。
「……今日は部活あるんだよね」
「そっか!じゃあ…まつから
一緒に帰ろう?」
にこっと笑う。
あまりにも自然に。
距離も、
声も、
表情も。
全部。
「待たせるの悪いし先帰ってていいのに」
そう言うのが精一杯だった。
こさめは
「でもすっちーと一緒に
帰りたいから!」
と元気よく頷いて、
また友達の方へ戻っていった。
その背中を、
すちはしばらく目で追ってしまってから、
はっとして視線を逸らした。
(……何やってんだ、俺)
(気にする必要、ないだろ)
でも。
胸の奥に残る、
小さくて、でも無視できない違和感。
(……昨日までは、
こんなふうに見てなかったのに)
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
家に帰った瞬間、
こさめはカバンを床に放り投げて、
ベッドにダイブした。
「はぁぁぁぁ……」
天井を見つめながら、
ごろごろ転がる。
(今日……すちといっぱい話した……)
正確には、
そんなに長く話したわけじゃない。
でも。
(目、合ったし……)
(話しかけたし……)
(放課後の話もしたし……)
「……やば」
枕に顔をうずめて、
じたばたする。
「なにこれ……
めっちゃ元気出るんだけど……」
昨日のことを思い出す。
ニキが絡んできた時、
すちが前に出てくれたこと。
はっきり、
守るみたいに言ってくれたこと。
(……守られた、よね……あれ)
胸の奥が、またじんわり熱くなる。
「……はぁ……」
スマホを手に取って、
意味もなく画面をつけては消して、
またつけて。
「……連絡来るわけないか」
そう思った、その瞬間。
――ピコン
通知音。
「……え?」
画面を見る。
【すち】
「……………………え??????????」
一瞬、思考が止まる。
次の瞬間。
「え、え、え、え、え、え、え?????」
がばっと起き上がる。
「なんで!?!?!?」
心臓が急にうるさくなる。
(え、なに、なんで、なに!?!?)
震える指で、トークを開く。
【すち:さっきのさ】
「さっきの……!?」
(なに!?!?なに!?!?!?)
【すち:待たせてごめんね】
「………………」
一気に顔が熱くなる。
(別にこさめが勝手に待ってた…
…だけなのに)
【すち:こさめちゃんと
一緒に帰れてよかった】
「…………………………は?」
一瞬フリーズ。
次の瞬間。
「はぁぁぁぁ!?!?!?」
ベッドの上で転がる。
「なにそれなにそれなにそれ!!!!」
(やばいやばいやばいやばい)
(え、うそ、嬉しすぎるんだけど)
(ばかじゃないの俺!?)
スマホを抱きしめて、
ごろごろごろごろ。
「……どう返す……どう返すのが正解……」
深呼吸。
震える指で、文字を打つ。
【こさめ:ほんと!?
また一緒に帰ろう!】
送信。
すぐ既読。
心臓が止まりそうになる。
【すち:じゃあまたね】
「………………」
しばらく、画面を見つめたまま固まる。
「……」
「…………っしゃぁぁぁぁ!!!!!!」
ガッツポーズ。
「やばいやばいやばいやばい!!!!」
「明日も一緒に帰るんだけど!?!?」
「なにこれ夢!?!?」
ベッドに倒れ込んで、
またじたばた。
(俺、単純すぎ……)
(でも……)
スマホを胸に抱きしめて、
にやにやが止まらない。
(……嬉しいに決まってるじゃん……)
一方その頃、
送信したあとスマホを伏せたすちは、
「……」
(……なんで送ったんだ、俺)
ちょっとだけ、
耳が赤くなっていた。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
次の日の朝。
こさめは、
いつもよりちょっと早く家を出た。
「……♪」
無意識に、足取りが軽い。
(昨日……一緒に帰った……)
(ちゃんと話せたし……
気まずくならなかったし……)
思い出すだけで、口元がゆるむ。
「……やば」
(顔、にやけてないよな……?)
ほっぺをぺちぺち叩いて、
気合を入れ直す。
でも。
校門が見えた瞬間、
またちょっと口元が緩む。
教室に入ると、
すでに らん と いるま と なつ が
集まっていた。
「おはよー」
こさめが挨拶しながら席に行くと、
らんが一瞬こさめの顔を見て、
すっと目を細める。
「……あ」
いるまもチラッと見て、
「……こさめ」
なつも首をかしげて、
「……なんかさ」
三人同時に。
「「「また機嫌よさそうだね」」」
「……え?」
こさめ、ぴたっと止まる。
「そ、そんなこと……」
らんがニヤニヤしながら近づく。
「いや、めちゃくちゃ分かりやすいよ?」
「顔、ゆるっゆる」
なつもくすっと笑って、
「昨日も機嫌よさそうだったけど、
今日はさらにだね」
いるまは腕組みして、
「なんかあったでしょ」
「……」
こさめ、視線をそらす。
「……べ、別に……」
らんが即ツッコむ。
「その反応がもう“あります”って言ってる」
「え、なに?なにがあったの?」
「もしかして〜……」
らんが意味深にニヤッとする。
「すち?」
「っ……!!」
こさめ、びくっとする。
「な、なんで名前出るの!?」
三人、顔を見合わせる。
なつが肩をすくめて、
「やっぱり」
いるまも苦笑。
「分かりやすすぎ」
らんは楽しそうに、
「昨日一緒に帰ったんでしょ?」
「…………」
こさめ、耳まで真っ赤になる。
(なんでバレてるの!?!?)
「な、なんで知って……」
なつがさらっと、
「たまたま見かけた」
「めちゃくちゃ嬉しそうな顔してたから」
「……う」
らんが追い打ち。
「今日もその顔ってことは、
なんか進展あった?」
「え、え、ない!!」
即答。
「ただ……ちょっと話しただけで……」
らんがニヤニヤ。
「それでそのテンション?」
「かわいいね〜」
「やめて……」
こさめ、机に突っ伏す。
「……そんなに分かりやすい……?」
いるまがぽんっと頭に手を置く。
「うん、めちゃくちゃ」
なつも優しく笑って、
「でも、よかったね」
「最近ちょっと元気なさそうだったし」
その言葉に、
こさめは少しだけ顔を上げて、
「……うん」
小さく、でもはっきり頷いた。
「……ちょっと、嬉しいことあった」
らんがにやっとする。
「ほら〜」
「恋だね〜」
「ちが……っ」
否定しようとして、
でも、言葉に詰まる。
「…………」
(……ちがくないかも)
心の中でそう思って、
またちょっとだけ、笑ってしまった。
教室の少し離れたところ。
みことは、自分の席に向かいながら、
ふとこさめたちの方を見た。
(……なんか、騒がしくない?)
らん、いるま、なつ、
そして真ん中にこさめ。
やけに、みんな距離が近いし、
らんはニヤニヤしてるし、
こさめは顔赤いし、
なつはくすくす笑ってるし、
いるまはちょっと呆れた顔。
(……なにあの空気)
(こさめちゃん、いじられてる……?)
別に珍しい光景じゃないはずなのに、
今日はなんとなく、引っかかる。
みことは、いつもの調子で声を
かけようとした。
「おは――」
その瞬間。
「ほら〜まだ顔赤い!」
「昨日一緒に帰ったくらいでそれ?」
「ほんと分かりやすいよね〜」
「……うるさいよ//!」
こさめのその反応に、
みことの足が、ぴたっと止まる。
(……昨日……一緒に……帰った?)
(誰と?)
(……ん?)
みことは、少しだけ眉をひそめながら、
タイミングを見て近づく。
「……おはよ」
声をかけると、
らんが真っ先に振り返って、
ニヤッと笑った。
「お、みことおはよ〜!」
「いいとこに来たじゃん」
みことは、こさめをちらっと見る。
まだちょっと顔赤いまま、
視線をそらしてる。
「……なに?」
らんは、面白がるように言う。
「聞いてよ」
「こさめとすち、
ちょっと進展したんだって」
「……え?」
一瞬、頭が理解を拒否する。
「……進展?」
なつが補足するみたいに、
「昨日、一緒に帰ったらしいよ」
いるまも、
「それで、今日このテンション」
「ずっとこんな感じ」
みことの視線が、
ゆっくりこさめに向く。
こさめは、気まずそうに、
「……ち、ちが……」
「ちがくはないけど……」
その言い方。
その空気。
(……あ、これ)
(マジのやつだ)
胸の奥が、
一瞬、ぎゅっと掴まれたみたいになる。
(……すっちー…?)
(なんで……)
らんがさらに追い打ちみたいに、
「しかもさ〜」
「今日もめちゃくちゃ機嫌いいんだよ?」
「ね?」
なつも苦笑。
「分かりやすいよね」
みことは、作り笑いを浮かべる。
「……へぇ」「そうなんだ」
でも、胸の奥は、
全然、笑ってなかった。
(……なんで)
(なんで、…この子と)
こさめは、みことの視線に気づいて、
ちょっと不安そうにこっちを見る。
「……みことくん?」
「……な〜に?」
その声に、
一瞬だけ、いつもの調子に戻ろうとする。
「……いや、別に」
「よかったじゃん」「……おめでと」
そう言いながら、
自分でも分かるくらい、
声が少しだけ硬い。
(……ざわざわする)
(なんだ、この感じ)
(……ムカつくとか、そういうのじゃ……)
(……でも)
胸の奥が、ずっと落ち着かない。
みことは、無意識に、
教室の端の方――すちの席の方を見た。
(……すっちーか)
(すっちーも…こさめちゃんのこと
気になってたらどうしよう)
知らないうちに、
指先が、きゅっと握られていた。
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