テラーノベル
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長いです!
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教室の扉が、がらっと開く。
「おはよ〜」
少し間延びした、聞き慣れた声。
すちだった。
その声が聞こえた瞬間。
こさめは、ほんの一瞬だけ表情を
こわばらせて――
すぐに、ぱっと切り替える。
くるっと振り向いて、
さっきまでの空気が嘘みたいに、
にこっと笑って。
「おはよ〜!!すっちー!」
声も、表情も、いつもより少しだけ
甘くて、明るい。
すちは、少しだけ目を瞬かせてから、
「……お、おはよ」
(……今日も元気だな……)
って思いながら、なんとなく
照れくさそうに視線を逸らす。
らんとなつは、その様子を見て、
一瞬だけ目を合わせてから、
「あ〜……俺、先生にプリント
出さなきゃだった」
「俺もトイレ」
って、あからさまな理由をつけて、
少し距離を取ろうとする。
いるまも、
「……じゃ、俺も席戻るわ」
って、空気を読んで離れていく。
その場に残ったのは、
こさめ、すち、そして――みこと。
みことは、
そのままそこに居座ったまま。
腕を組んで、すちとこさめの様子を
じっと見ている。
(……なにその距離)
(……なにその空気)
らんは、少し離れたところから振り返って、
「……みこと」
って、小さく呼ぶ。
みことは一瞬だけそっちを見る。
「なに」
らんは、目で「来い」って合図する。
みことは、少しだけムッとした顔をして、
「…ごめ、」って言いかけるけど、
なつが、「いいからちょっと」
って、半ば強引に腕を引く。
「……ちょ」
「……分かったって」
そう言いながらも、
みことは、離れる直前に、もう一度だけ、
こさめとすちを見る。
こさめは、すちの方だけを見て、
楽しそうに笑っていて。
すちは、ちょっと落ち着かない様子で、
それでも、こさめの方をちゃんと見ている。
(……もう)
(……なんなん)
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みことは、視線を逸らして、
その場を離れた。
その背中を見送りながら、
らんは小さくため息をつく。
「……ややこしくなりそうだな」
一方その頃。
こさめは、みことたちが離れたのを
確認してから、
少しだけ声のトーンを落として、
「……ね、すっちー」
「今日もさ、」
すちは、少しだけドキッとして、
「……な、なに?」
(……なんで俺、こんな緊張してんだ)
胸の奥が、また少しだけ、ざわついた。
「……あの、」
こさめは、すちの机の横に立ったまま、
少しだけ首をかしげる。
「一緒に帰れる、?」
「…今日部活ないし帰れるよ」
「そっか!じゃあ一緒に帰ろね!」
そう言いながら、
こさめは、ほんの一歩だけ近づく。
本当に、ほんの一歩。
でも、さっきまでより確実に距離が近い。
すちは、一瞬だけ、肩がぴくっと動く。
(……近……)
でも、こさめはまるで
気にしていないみたいに、
机に軽く手をついて、身を乗り出す。
「ねえねえ、今日の授業って
移動教室あるんだっけ?」
「……え、えーっと……たしか、次の次が」
こさめは、すちのノートを覗き込む形に
なって、さらに顔が近づく。
距離、たぶん――30センチもない。
すちは、視線のやり場に困って、
ノートと、こさめの顔を、行ったり来たり。
(……昨日までは、
こんなに近くなかったよな……)
こさめは、そんなことお構いなしに、
「そっか〜、じゃあ一緒に行こ」
って、さらっと言う。
「……い、一緒……?」
「うん。すっちーと行きたい!」
「…別にいいけどさ……」
って言いながらも、
すちは、なぜかちょっと耳が赤い。
こさめは、そんなすちの様子に
気づいてないのか、
それとも気づいてて知らないふり
してるのか、「ねえ、すっちー」
また、名前を呼ぶ。
今度は、少しだけ声が近い。
すちは、思わず、びくっとして、
「なに……」
「今日のお昼さ、こさめと一緒に食べよ?」
「……あ、うん……」
(……なんでこんなにドキドキすんだよ……)
すちは、心臓の音がうるさくて、
こさめの方をちゃんと見れない。
一方のこさめは、
そんなすちの反応を見て、
ほんの一瞬だけ目を丸くしてから、
(……あ)
(……意識、してる……?)
って、心の中で思って。
それから、
ちょっとだけ、嬉しそうに、
口元を緩めた。
「……すっちー、今日なんか
静かじゃない?」
「そ、そうか……?」
「うん。なんか……かわいい」
「……っ!?」
すちは、完全に固まる。
こさめは、すちの反応を見て、
一瞬だけきょとんとしてから――
「……あ、ごめん。近かった?」
そう言いながら、離れない。
むしろ、ほんの少しだけ体を引いて、
それでもまだ、十分近い距離。
すちは、その動きにすら動揺して、
「い、いや……別に……」
って、視線を逸らす。
(別にじゃないだろ……俺……)
こさめは、そんなすちの横顔を見て、
にこっと笑う。
「すっちー、顔赤いよ?」
「……っ、暑いだけだから」
「え〜、教室そんな暑い?」
こさめはそう言って、
すちの机の横にあった椅子を、
勝手に引いて座る。
「ちょ、こさめちゃん……?」
「ん? ここ座っちゃだめだった?」
肩と肩が、ほんの少し触れるくらい。
すちは、息を呑む。
(近い近い近い……)
こさめはノートを開きながら、
さも当たり前みたいに言う。
「すっちーの字、読みやすいよね」
「……そう?」
「うん。なんか、性格出てる」
「……どんな性格だよw」
「まじめで、優しくて、
ちょっと不器用、?的な」
すちは、言葉に詰まる。
こさめは、
すちの方を見上げるようにして、
「ね、すっちー」
名前を呼ぶ声、近い。
「……なに」
「で、電話夜、してみたい、//」
「電話、?なんで」
「え、…えっと…//友達と
電話したことなくて!」
照れながら言う。
「あーそうなの
でもごめんね、夜は勉強しないとだから」
「そっか、ごめんこさめもなにも
考えずに」
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放課後。
チャイムが鳴って、教室が一気に
ざわつき始める。
「じゃ、俺部活行くわ」
いるまがバッグを肩にかけながら
立ち上がり、
なつも「じゃあな」と軽く手を上げる。
らんは自転車だから先に帰る準備を
していて、
みことは鞄をまとめながら
すちの方を見る。
「すっちー、今日野球部だよね?」
「今日はおやすみなんだよね」
その会話の横で、
こさめはスマホをいじるふりをしながら、
ちらっとすちを見る。
(……一緒に帰りたいって言ったけど)
(さすがにふたりきりにはなれないかな、)
少し迷って、立ち上がろうとした瞬間。
「こさめちゃん」
すちの声。
少しだけ視線を逸らしながら、
「帰ろ?」
一瞬、時間が止まったみたいになる。
「……え、うん!」
「じゃあ行こっか」
こさめの顔が、ぱっと明るくなる。
「行く!」
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夕方。
空はオレンジ色で、少し涼しい風が
吹いている。
落ち着かない様子で足先を揺らしていた。
最初は少し沈黙。
靴の音だけが、静かに続く。
こさめは、ちらっと横を見る。
(……なんか、昨日より緊張する)
すちは手をポケットに入れたまま
歩いていて、
少しだけ距離が空いている。
その距離を見て――
こさめは、さりげなく一歩近づく。
肩が、ほんの少し近づく。
すちは気づいて、少しだけ歩幅を乱す。
「……こさめちゃん」
「ん?」
「今日さ、授業中……」
言いかけて、やめる。
「……いや、なんでもない」
「え〜気になるじゃん」
こさめは少し覗き込むように顔を寄せる。
距離、また近い。
夕焼けの光で、
こさめの目が少しきらきらして見える。
すちは思わず目を逸らして、
「……近いって」
小さく言う。
こさめは一瞬止まってから、
「……嫌?」
って、少しだけ不安そうに聞く。
その声が、思ったより弱くて。
すちは、すぐに首を振った。
「……嫌じゃないよ」
こさめはその答えを聞いて、
小さく笑って。
また、少しだけ距離を詰めた。
夕焼けの帰り道、
二人の影が、少しだけ重なった。
並んで歩く、こさめとすち。
「野球部ってどんな感じなの?」
こさめが楽しそうに聞く。
「まだ入ったばっかだけどさ、
先輩がめっちゃ厳しくて」
「え〜!すっちー大丈夫?」
「まぁ…なんとか」
すちは少し笑う。
そんな何気ない会話をしながら、
二人の距離は自然と近いまま。
こさめは歩きながら、
またほんの少しだけすちの方に寄る。
肩が、軽く触れる。
すちは一瞬だけびくっとするけど、
もう離れない。
(……もういいや)
そんな風に思ってしまう。
「ね、すっちー」
「ん?」
「今日も一緒に帰れて嬉しい」
こさめが少し照れたように笑う。
すちは言葉に詰まる。
「……俺も」
その時だった。
少し離れた横断歩道の向こう側。
みことが、立っていた。
コンビニ袋を片手に持ったまま、
信号待ちをしていた。
そして――
二人の姿を見つける。
(……あ)
こさめちゃんとすっちー。
並んで歩いている。
しかも、思っていたよりずっと近い距離。
肩が触れそうで、
こさめちゃんは楽しそうに笑っていて。
すちは、普段あまり見せない
柔らかい顔 をしている。
みことの足が、止まる。
(……そっか)
胸の奥が、少しだけ痛くなる。
らんらんから聞いた時もざわついたけど、
こうして実際に見ると――
思ったより、きつい。
信号が青になる。
でも、みことは動かない。
こさめが、少しだけすちの袖を引く。
「ねぇすっちー、
あのコンビニ寄らない?」
「ん?いいけど」
その瞬間、
こさめが少しだけすちの腕に近づく。
本当に一瞬だけ。
でも。
みことには、
それがすごく近く見えた。
(……そんな顔、するんだ)
こさめちゃん。
(俺と話してる時より楽しそうじゃん)
そう思った瞬間、
自分でも嫌になる。
「……はぁ」
小さく息を吐く。
そして、誰にも聞こえないくらいの
声で呟く。
「……取られる前に、動けばよかったな」
でも。
こさめは、まだ気づいていない。
みことが、
すぐそこにいたことも。
その目が、
少しだけ寂しそうだったことも。
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コメント
2件
そっちか黄くんッッいやぁ、切ないね、でもそれがいい
そっち…!? 緑水派だけど、黄水も見たい…!欲張りセット所望