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「えっ、カミサマ?」
「またまたご冗談を」
ピアーニャがサイロバクラム人達にイディアゼッターを紹介したところ、信じる者は誰もいなかった。だいたい見た目のせいである。
「そんな悪の魔法使い系モンスターな姿で神様と言われても」
「ですよねぇ?」
「偏見が酷すぎませんか?」
流動する黒いマントのような体とその周囲に浮かぶ4つの手を見て、どこからどう見ても悪い生き物と断定していた。
「まぁいいか。べつにゼッちゃんがカミサマでなくても」
「この不本意な否定のされ方は、良くないと思うのですが……せめて後でなんとかしておいてくださいね」
これまでも同じ事が無かったわけではないので、一旦この場はスルーする事にしたようだ。
「それで、アレにこころあたりでも、あるのか?」
「ええ、ちょっとこの世界の神が錯乱していまして……」
『はい?』
「今朝から我を失って暴走してしまったのです」
この世界の神とイディアゼッターは言った。まさかの自分達に関する情報に、この場に残っているソルジャーギア達の動きが止まった。
「イキナリですねー。何かキッカケでもありました?」
「それはまぁ、ドルネフィラーが来たからですね」
『あいつかぁっ!』
ぺちドスッ
「なんで!?」
その名前に、最も被害を受けているピアーニャとネフテリアが叫びながらハーガリアンを殴りつけた。勿論、理不尽な八つ当たりである。
キッカケとなった相手には会ったばかりなので、納得しかない。
(まぁ元々錯乱した原因は別なんですけどね……)
寝ている状態でミューゼとパフィになぜかムギュムギュとサンドイッチされているアリエッタをチラリと見るが、その事は今は話さない事にした。もちろんアリエッタの事は秘密だというのもあるが、保護者の前で全てを言うのも憚られたのだ。
(あ、なんか隠してる)
(まぁアトできくか)
アリエッタが女神だと知っている勘のいい2人は察していた。しかし今はその事を追求している場合ではないので、後回しとなる。
「ではゼッちゃん。ソウドウのゲンインについてはアトでいいから、アレについておしえてくれ」
今はこちらに向かってエーテルの塊を撃ってくる壁をどうにかしないといけない。運よくコロニーには当たっていないが、放っておけば被害が出るのも時間の問題なのだ。
「はい。こちらをご覧ください」
そう言って、イディアゼッターは空間を歪ませ、遠くに見える壁の近くの空間と繋げた。その空間の穴は、横方面から壁が見えるように、角度が調整されている。
「すごいな。ヨコからみえるのか」
「正面からですと、穴に向かって撃たれたら、ここに直撃しますので」
「それにしても、この壁はたくさん穴が開いてるのね」
ネフテリアの言う通り、壁には無数の巨大な穴が開いている。その穴は当然四角形。
見ていると、その穴からエーテルの塊が射出された。
「ほら、飛んできますよ」
「へー……、あ、来た」
距離があるので射出してから時間がかかったが、ゼッちゃんの言う通り、エーテルの塊が飛んできた。問題なく防いでいるが。
「あの穴、相当でかいな」
「比較対象が無いので分かりにくいですが、砲門の高さはあの木ほどありますね」
参考までに指差した木の高さは、2階建ての家くらい。
「でっか。そりゃまぁあんな塊飛んでくるわなぁ」
弾が大きいという事は、砲門もそれだけ大きいという事。ハーガリアンとスタークは納得していた。
「……神様の話出たからついでに聞くけど、なんで四角なの?」
壁を観察していたネフテリアが、我慢できずに疑問を投げかけた。というのも、砲門は勿論の事、壁にも網目状の継ぎ目があるのだ。つまり、四角いブロックが大量に積み重なって出来ている壁という事になる。
「それは……まぁ神のセンスですね」
「センス」
「何を作っても四角にするので、他の神が『それだとヒトが水とか飲めないぞ』と説得し、肉と水をなんとか自由な形に作り替えたという逸話がありましてですね」
『………………』
明らかに生き物を創るのに向いていない創造神の話を聞いてしまい、サイロバクラム人はなんとも言えない顔になっていた。
「もうちょっとでクォンも真四角になってたのかもね」
「なんかイヤです……説得してくれた神様には感謝です」
なんとなく今の人型として生まれた事に感謝し、しれっとムームーに身を寄せるクォン。そしてクォンとムームーの絡みに興奮するシーカー達。
「あーえっと、イディアゼッター様?」
「ゼッちゃんとお呼びくださいませ」
「えっ」
「ゼッちゃんでございますよ」
「え……あの……」
頑なに敬われる事を嫌うイディアゼッターは、時々低姿勢で自分の呼び名を強要する。
質問があって声をかけたが、神様をそんな風に呼んでいいのかと、困り果てるスターク。このままでは質問出来ない。
そこへ、面倒くさい気分になったピアーニャが助け舟を出した。
「ゼッちゃん。ハーガリアンたちは、サイロバクラムのカミいがいのカミをスウハイするには、どうしたらいいのか、しりたいらしいぞ」
「ん? 自分達の神でなくてよろしいので──」
「その通りです! 流石はピアーニャ総長様!」
考えを言い当てて褒められたピアーニャはドヤ顔。
「まぁ、サクランしてジブンたちにコウゲキしてくるカミなんて、きらわれてトーゼンだろうな」
「しかも存在自体初めて知ったみたいだし」
ピアーニャとネフテリアのコメントに、会話が聞こえている全員がうんうんと頷いていた。
一応サイロバクラムにも宗教はあるが、創造神などは祀られていない。全てが想像による信仰である。そんな所に突如存在が明らかになった神は、よく分からない壁の兵器を使って無差別に撃ってくる『破壊神』と呼びたくなる者。向けられる感情は言うまでもないだろう。
「錯乱してても、せめて見た目がよければ救いようがあったんですけどねー」
「そ、そうですね……」
「まぁそーだな」
寝ているのをいい事に、腹部を中心に頬擦りされまくっているアリエッタを横目で見ながら、ため息を吐くネフテリア、ピアーニャ、イディアゼッターの3人。
気を取り直して、サイロバクラムの神が出した壁に対抗する作戦会議を始めた。断続的にエーテルの塊が飛んできているが、完全に無視である。
「ん、おはよっ」
「ああ、起きたのよ?」
「げっ……」
のんびり作戦会議をしている最中、アリエッタが目を覚ました。イディアゼッターが小さくうめき声をあげている。
軽く伸びをして見渡すと、妙に満足した顔になっているミューゼ、パフィ、クォンと、気まずそうに視線を逸らすムームーがいた。丁度保護者達が満足した後だったので、寝ている間に何をされていたのかはアリエッタが知る事は無い。
(よーし、やるかー)
「……なんか妙にやる気に満ちてませんか?」
「うーん」
アリエッタの様子に、ネフテリアまでちょっと怖くなってきた。今までの経験上、その力は強力無比だが、何が起こるか分かったものではないのだ。
「アリエッタ、どうしたのよ?」
「ぱひー、だいじょうぶ! あたし、する!」
「そうなのよ?」(何を?)
頑張って会話し、一歩前へ。そしてポーチから小さな木の模型を取り出した。
「それ使うのよ?」
「ん!」
心配なので手伝うパフィ。ミューゼはムームーとクォンに説明中。
コントローラーを握ったアリエッタが、遠くに見える壁に向かって、模型の飛行機の砲身を向けた。そう、これはエテナ=ネプトで星を粉砕した有線ラジコンである。
「エネルギーチャージ!」
なんとなく盛り上げる為に、その行為を口にしていく。当然ながら、全員意味は分からない。
しかし、いままで一緒にいた者達には、何をしようとしているかは心当たりがある。
「イヤー、ココロヅヨイネ」
「そーだな……」
ネフテリアとピアーニャの目が死んでいる。以前見た光景を思い出しているのだ。それでも止めないのは、神には神を、非常識には非常識をぶつける事を、今だけは容認している為である。
しかしアリエッタの非常識は、その上を行く。
(まだまだ。このチャージは3段階あるんだ! あのシューティングみたいに!)
そのシューティングゲームの名前は微妙に思い出せないようだが、そのエフェクトはしっかり覚えている。威力も『どこかの宇宙戦艦の波動砲もすごかったし、溜めたらもっと凄いだろう』という勝手なイメージと神の力が合わさり、あの壁くらいなら破壊できると確信している。
さらに、
(みゅーぜとぱひーを守るため! 僕はやるぞー!)
アリエッタがやる気に満ちている。周囲には何をするのか分かっていない者、今は諦めてよく分からない神の力に頼ろうとしている者、少女の本質を見極めようとしている者、そして頑張る少女が可愛くて応援する者がいるだけで、誰も止めようとはしていない。
「ダイジョウブかな?」
「さぁ……こっちにも神様いるし、なんとかなるでしょ」
もしもの時に期待されるイディアゼッターは、プレッシャーを感じながら身構えている。神を止められるのは神だけなのだ。
「チャージかんりょー!」(見ててみゅーぜ!)
「えっ、何ですかこのパワー」
有線ラジコンのチャージが終わった所で、イディアゼッターが震える声でつぶやいた。他の全員は何も感じない。
アリエッタの力は魔力とは違うので、感知も計測も人には不可能なのだ。
「ふぁいあー!!」
ドッシュウウウウウゥゥゥゥ!!
小さな砲身からバカでかい光が放たれた。しかも真っ直ぐ飛ぶのではなく、数本の光が捻じれながら飛んでいく。しかも距離が延びるほど、少しずつ広がって。
その光に向かって、壁からもエーテルの塊が一斉に発射された。
「外敵排除のシステムが組まれていたようです!」
空間を繋げて、アリエッタが放った光と、壁側の攻撃を俯瞰で見られるようにしたイディアゼッターが解説する。
「大丈夫なの!?」
「ええおそらく」
全員が見守る中、アリエッタの光はエーテルを全て飲み込み、さらに突き進む。
「エーテルではそもそも防げないでしょうね……」
光同士の押し合いといった盛り上がりも特に無く、アリエッタの一撃は壁へと到達した。
イディアゼッターが空間を閉じる。それはもちろん着弾による爆発を恐れた為。
アリエッタの一撃を受けた壁は、遠くからでも空を埋め尽くす規模で、大爆発を起こしていた。
「……あのこれ、世界の終焉じゃないよね?」
ネフテリアのつぶやきは、少し経って到達した爆音と光に飲み込まれるのだった。