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──アリエッタが起きる前の精神世界。

迫りくる壁に危険を感じたエルツァーレマイアが、アリエッタを呼び出し、対策を練っていた。


『たぶん晩御飯はぱひーが作ると思う』

『どうかしら。折角違う世界に来てるんだから、色々食べてみたいって思うんじゃない?』


対策を……


『いっそアリエッタが作ってみる? みゅーぜもぱひーも喜ぶんじゃない?』

『えっ、そそ、そうかな?』


対策を練ってくれませんかね?


『あっはい、ゴメンナサイ』

『? 誰に謝ってるの?』

『何でもないよ。そろそろあの壁の話をしましょっか』

『え? あっ』


アリエッタはちょっと忘れていたようで、慌てて姿勢を正していた。


『外にあるあの壁っぽいの、魔法の力で出来ているみたいなのよ』

『壁魔法的な?』

『詳しくは分からないけど、そんな感じ。そんなのがこっちに向かって撃ってきてるし、ちょっとずつ近づいてるみたいだし、危ないでしょ』

『うん』


現状を整理し、次は対策の話へ。しかしやはり緊張感は全く無い。

アリエッタはまだピンと来ていないが、エルツァーレマイアは詳細が分かっている上で、のほほんとしているようだ。


『あの壁をアリエッタはどうしたい?』

『えぇ……どうするって言われても……』

『私がやってもいいんだけど、アリエッタはミューゼに褒められたいでしょ?』

『う、うん』(確かに! 僕が頑張れば褒められる!)


甘い言葉で考えが女児寄りになるアリエッタ。本人はちゃんと考えているつもりだが、その名で説得するだけで簡単に誘導する事が出来る事を、エルツァーレマイアは理解していた。完全に娘の恋愛事情におせっかいして喜ぶ母親である。


『だったらおもいっきり壊しちゃいなさいな』

『えっ、そんなこと出来るの?』

『もう、何のためにあの戦闘機の模型作ったの?』

『はっ』

『それか、リモコンで止めちゃう?』

『流石に遠くない?』

『そっかー、他に良い方法あるかな』


エルツァーレマイアが出れば、おそらく即解決するだろう。しかしそれでは実際に褒められるのがアリエッタではないので、微妙な気持ちになってしまう。どうせなら自分の力だけで解決して、ミューゼに褒められたい。そんな思いを膨らませ、アリエッタは頭を悩ませる。


『うー、こんな事ならいろんな魔法陣作っとくんだった』

『魔法に慣れてないから仕方ないわ。道具を真似て作るのはアッサリ出来るんだけどねー』

『……あの木で作る料理とかに夢中で最近やってなかった。今は木の板とかすぐに用意できないし』

『今着てる服とかで何か出来ないの?』

『あ、その手があったか』


何かを思いついたアリエッタは、その事を相談。その案に驚きながら、いいんじゃないかとエルツァーレマイアは頷く。


『でも聞いた感じだと、あの壁と至近距離で対決になりそうね』

『う、そっか。それに撃てるのは細いビームだけだし』

『そうなの? じゃあやっぱりアレでドカーンとやるしかないね。ぴあーにゃちゃんにも良い所みせちゃいなさい』

『!! わかった!』


妹分の名前で、さらにやる気に火が付いた。

この後しっかりと段取りを考え、アリエッタは精神世界から出たのだった。




──そうして、少女は戦闘機の有線ラジコンを使い、フルパワーで壁を撃ったのだった。

強烈な光と音が収まると、そこには顔を押さえて転げまわるアリエッタの姿があった。


『目が、目がああああ!!』


破壊の為、全力で壁を直視していた。という事は、直撃によって生まれた光も直視したという事である。あまりに眩しすぎて、ダメージを食らってしまったのだ。

慌てて駆け寄るミューゼとパフィ。直撃し、爆発したと思った瞬間、爆風などから顔を守る為、とっさに防御したのである。強烈な光と音で一瞬動けなかったが、悲鳴が聞こえてすぐ、アリエッタを抱きしめる為に、我先にと動いたのだった。

そして再びサンドイッチされるアリエッタ。


「アリエッタ!」

「もしかして光を見ちゃったのよ? 大丈夫なのよー?」

「ふええぇぇぇん!」


自爆であろうとなんだろうと、今こそアリエッタに甘えられるチャンス!と、2人とも全力で飛びついたのだ。

やがて光が落ち着き、周囲にいるシーカーやソルジャーギア達が見たのは、空までそびえたつ壁を2つに分ける程の巨大な穴と、それを背にして小さな少女をその大きな母性に埋めるパフィと、埋まっている少女に顔を埋めるミューゼだった。


「なん……だ、あれ」

「でけぇ……」

「子供の頭が埋まるほどなんて」

「ありえない、勝てるわけがないっ」

「オマエら、なんのハナシをしてるんだ!」

「気持ちはよーく分かるわ」

「テリア、おまえもかっ」


ピアーニャ以外全員、その大きさに目を奪われていた。


「絶対に勝てない相手に出会ってしまった時の気持ち、貴女達も覚えておきなさいな」

「はい」

「パフィ・ストレヴェリー……か」


女性陣が真剣な眼差しで、まるではるか遠くにいる相手を見るかのように、パフィを見つめている。さらにネフテリアは話を続ける。


「男どもも、あの中に入ろうなんて、野暮な人はいないわよね?」

「当たり前だ」

「僕等には、あの子達は眩しすぎる」

「尊い……」


男性陣も、光が収まったというのに、眩しい物を見るかのように目を細めていた。


「オマエらいいかげんにしろーっ!」

バチバチバチバチッ

『ぎゃああああああああああ!!』


突然雷光が走り、脱線しまくりの大人達を直撃した。ミューゼとパフィが驚き振り向いている。


「あっちのカベのハナシをしろよ! いまもうナニもうってこないけど!」


巨大な壁に巨大な穴が開き、もはや残っている場所が少ないのではないかと思える光景。遠くに霞んで見える壁にポッカリ空いた壁は、まるで空に穴が開いているようにも見える。それほどまでに強烈な光景なのだ。パフィにもっていかれたが。

憤慨しながら2つの『雲塊シルキークレイ』を手元に戻すピアーニャ。


「痛いんですけど……」

「え、今の総長がやったの?」

「『雲塊シルキークレイ』って変形するだけなんじゃ?」

「ピアーニャ……でツッコミしないでよ……髪がチリチリじゃん」

「しるかっ」


すっかりご立腹なので、ネフテリアの抗議も通じないようだ。

何か聞きたそうなシーカー達が数名いるが、ピアーニャは無視してゼッちゃんに話しかける。


「どうなった?」

「あ、はい。いまの一撃で壁の大半が吹き飛びましたよ」

「そりゃそうなんだが、ムチャクチャだな……」


見れば分かる事だが、改めて見聞きして規模を再認識すると呆れるばかりである。ますますアリエッタのやり場に困りそうな未来を想像し、うんざりするピアーニャとネフテリア。

その時、シーカーの誰かが困惑の声を上げた。


「おい……あの壁消えてねぇ?」

「は? なんだって?」


全員釣られて壊れた壁を見る。すると、残っている部分が徐々に薄くなり、やがて見えなくなってしまった。


「消えた?」

「いえ、違います。気を付けた方が良いですよ」

「どーゆーコトだ?」


ただ1人、状況が分かっている様子のイディアゼッターが、目の前に空間の穴を開け、手を突っ込んだ。


「よっ……と」


すぐに穴が広がり、イディアゼッターから離れていく。それと同時に、大きな四角形の塊が姿を現した。その大きさは小さな家程。イディアゼッターは空間を繋いで、遥か遠くで飛んでいる四角の物体を取り寄せたのである。


「でかっ!」

「そういやさっき、あの木くらいあるって」


四角形のそれは動こうとするが、イディアゼッターが4つの手で押さえて逃がさない。


「おっとっと、随分活きのいい六面体エーテルですね」

「それ生きてんの……?」


力加減を調整して、魚のようにピチピチさせて遊びつつ、ちょっとしたジョークを口にする程の余裕っぷり。そんな若干の神らしい…かどうかわからない超パワーをにじませ、それの解説を始めた。


「あの壁はこのように分解したことで、塊ではなくなりました。ただでさえ幻のように見えるような距離ですから。空を覆う程大きかったから見えただけで、1つ1つが小さければ見えなくなって当然でしょう」

「ああ、そういう事」

「じきに、これが大量に飛んできます。頑張って防衛しましょう」

「そうか……」


全員相槌を打ち、そして首を傾げた。


『……え?』




一方転移の塔では、一足早く飛んできたケイン2人と、何故かついてきたエンディアが、シーカー達による転移の準備を待っていた。


「先程の光はなんだったのでしょう」

「さぁなぁ。本当にキミも来るのか?」

「もちろんです! あわよくば筋肉に挟まりたい!」

「をう、正直な奴め」


すっかり何かに覚醒してしまったエンディアは、いつのまにやら異世界に行くことを決意……というよりは、ケインにくっついて行く気である。

先行してきた理由は、ヨークスフィルンに行って事情を説明し、避難民の受け入れ態勢を整える為。幸いにも観光地なので、宿はたくさんあるのだ。後は夜に気を付けるだけ。

しばらくして転移した3人は、ヨークスフィルンの転移の塔を出た。そして大勢の悲鳴が響き渡った。


「うわあああああ!」

「変態隊長だー!」

「変態が2人に増えてるぞー!」

「しかもえっろい美女つれてやがる」

「ちくしょおおおおお!!」


ケイン達を見ての反応だった。別に嫌がっているわけではないので、どちらかというと様式美のようなものである。しっかりと傍にいるエンディアの煽情的な姿にも注目していたりする。


『はっはっは。元気してたかお前達!』


2人のケインが声を揃えて挨拶した。

その横で、エンディアが胸をプルプル震えさせている。


「すごいっ! いい筋肉が沢山! これが異世界なのね!」


逞しい筋肉が大好きなエンディアにとって、開放的なビーチリゾートはまさに天国だったようだ。その顔にはもう、異世界に対する敵対心や嫌悪感は、全く感じられなかった。

からふるシーカーズ

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