テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ざまぁ
部屋に入ると、そこには不自然なほどの静寂が満ちていた。
いつもなら、俺が来ると「腹減ってねぇか?」「何か飲むか?」と真っ先に聞いてくれるのに
今日の竜牙さんにはそんな余裕さえないみたいだった。
気まずい。
リビングのソファに隣り合って座っても、何を話せばいいのか分からない。
竜牙さんもどこか落ち着かない様子で
何度も手を握ったり開いたりしながら、視線を彷徨わせていた。
重い沈黙。
耐えられなくなったのは、結局、俺の方だった。
「……ねえ、竜牙さん」
「な、なんだ?」
「……俺のこと、まだ、好き?」
言った瞬間、自分でもなんて馬鹿なことを聞いてるんだと思った。
でも、止まれなかった。
確認せずにはいられなかった。
竜牙さんは、不意打ちを食らったようにきょとんとした顔をした。
「……は?」
「いや、その……最近、喧嘩ばっかりだし。今も、こんなにギクシャクしてて」
俺は視線を膝の上に落としたまま、震える声で言葉を繋ぐ。
「竜牙さんって、あんまり自分の本音を口に出してくれないし……何考えてるか分からない時があるから。それで、最近、ずっと考えてたんだけど」
喉の奥が熱くなる。
でも、言わなきゃ。
お互いのために、一度このモヤモヤを形にしなきゃいけないんだ。
「……俺たち、合わないのかなって。これ以上一緒にいても、竜牙さんを疲れさせるだけなら……別れた方がいいのかなって思って、今日はそれを伝えに──」
最後まで言えなかった。
ガタンッ、と、リビングの空気を切り裂くような大きな音がした。
驚いて顔を上げると、竜牙さんが勢いよく立ち上がっていた。
「は……?」
その顔色は、見ていられないほど真っ白だった。
「わ、別れ……?今、なんて……?」
掠れた、震える声。
その表情が、いつもの「余裕のある竜牙さん」とはあまりにかけ離れていて、俺は息を呑んだ。
「りゅ──」
「やだ……っ、嫌だ、それだけは言わないでくれ……っ!」
その瞬間、ガシッと俺の両手首が掴まれた。
痛いくらいに強い力。
でも、その大きな手は、冬の小鳥みたいにガタガタと震えている。
「待って、違うんだ、そんな…っ、お、俺が悪かった、全部俺が悪いんだ……っ」
竜牙さんの呼吸が、目に見えて乱れていく。
あの鋭い瞳が、今は涙で潤んで、縋るように揺れている。
え。
ちょっと待って。
何、どうしたの。
「頼む……考え直してくれ…っ、別れるなんて、そんな、俺、生きていけない……っ」
次の瞬間、俺は壊れ物を抱きしめるような
それでいて離さないという執念を感じるほどの強い力で、ぎゅうっと抱き抱えられた。
肩に顔を埋めた竜牙さんの体全体が、小刻みに震えているのが伝わってくる。
「やだ…、いやだ……っ、ううっ…別れたくない、けいと…行かないでくれ……っ」
掠れた声。
必死で、涙を零し始めた。
「おれ、頑張るから……隠し事も、全部、全部話すから…だから……っ」
そこには、いつもの完璧なスパダリなんてどこにもいなかった。
大人の余裕も、落ち着いた物腰も、すべてが剥がれ落ちて。
ただ、一人の愛を乞う、無防備で必死な一人の男がそこにいた。
「やだ……っ、慧斗、やだ……っ」
子供が母親に縋るような、切実な声。
それを耳元で聞いた瞬間、俺の頭の中は真っ白になった。
……え。
なに、これ。
竜牙さん、こんなに、泣く人だったの…?
俺が見たかった「知らない顔」は
こんなにも脆くて、俺への愛でボロボロになった、愛しい男の素顔だった。
コメント
1件

やばい好き。