テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
動画を投稿してから、数日後。
二人はいつものように、だらだら過ごしていた。
ショッピングモールから持ってきたビーズクッションに埋まりながら、悠真がタブレットを開く。
「……ん?」
「どうした」
蒼はキッチンでインスタントスープを作っていた。
悠真は画面を凝視したまま固まっている。
「いや、え?」
「何」
「動画」
蒼が近づく。
画面には、自分たちの動画ページ。
その右側に。
『高評価 12.8万』
「……は?」
二人同時に声が出た。
再生数は、もう見えないくらい増えていた。
コメント欄も、止まらない。
『これってARG?』
『雰囲気好きすぎる』
『編集うますぎ』
『本当に誰もいないの?』
『夜空綺麗』
『なんか泣きそうになる』
『次の動画待ってます』
悠真はスクロールする手を止めた。
「……なんで?」
蒼も答えられない。
人はいないはずだった。
世界には二人しかいない。
なのに。
動画は“誰か”に見られている。
「コメント返してみる?」
悠真が半分冗談みたいに言う。
蒼は少し迷ったあと、キーボードを打つ。
『これ見えてる人いる?』
送信。
数秒。
すぐ返信が来た。
『いるよw』
『釣り?』
『海外?』
『設定凝ってるなー』
蒼の指が止まる。
心臓が変に速い。
悠真も黙って画面を見ていた。
“いる”。
人が。
確かに。
その夜。
二人は眠れなかった。
部屋の電気を消したまま、ソファに並んで座る。
タブレットの光だけが顔を照らしていた。
「……どういうことだと思う」
悠真が小さく聞く。
蒼はしばらく答えない。
「わかんない」
「サーバーだけ別世界に繋がってるとか?」
「SF映画じゃん」
「でももう世界がSFだろ」
確かにそうだった。
朝が来ない。
人類が消えた。
それだけでも十分おかしい。
なのに今。
“別の誰か”が存在している。
画面の向こうに。
翌日。
二人は新しい動画を撮った。
カメラの前。
いつもより少し緊張している。
悠真がレンズを見る。
「えー……」
珍しく言葉に詰まった。
蒼が横で腕を組む。
「……これ、見えてる人いますか」
静かな声。
「俺たちの世界には、人がいません」
悠真が続ける。
「街にも、学校にも、どこにも」
「でもコメントが届いてます」
蒼はカメラを見る。
まるで画面の向こうを覗き込むみたいに。
「そっちには、人がいるんですか」
投稿。
数十分後。
コメント欄が爆発した。
『怖すぎる』
『設定うますぎ』
『世界線系?』
『え、でもリアル感やばい』
『空がずっと夜なの何?』
『演出だったら天才』
『もしガチなら返事して』
その中に。
一つだけ。
短いコメント。
『そっちの空、星見える?』
二人は黙る。
蒼がゆっくり返信した。
『見える』
数秒後。
返事。
『こっちは朝だよ』
部屋の空気が止まった。
悠真が立ち上がる。
「……待って」
声が少し震えていた。
「じゃあ俺ら」
蒼も理解していた。
この世界に人類がいないんじゃない。
“二人だけが、別の世界に取り残されている”。
そういうことだった。
その日から。
二人は毎晩、動画を上げた。
世界の様子を映す。
真っ暗な空。
無人の街。
静かな水族館。
止まった学校。
コメント欄には、沢山の言葉が流れてくる。
『綺麗』
『寂しそう』
『信じられない』
『帰れるのかな』
『なんで二人だけ……』
世界の向こう側には、確かに人がいた。
普通に朝を迎えて、学校へ行って、笑っている人たちが。
それを知った瞬間。
安心したはずなのに。
同時に、どうしようもなく遠く感じた。
夜。
屋上。
二人はスマホを並べて、コメント欄を眺めていた。
風が冷たい。
星は今日も綺麗だった。
「……変な感じ」
悠真が呟く。
「人いるんだな」
「うん」
蒼はフェンスにもたれる。
「でももう、想像できない」
「何が」
「普通の世界」
悠真は少し黙った。
街を見下ろす。
誰もいない道路。
静かなビル群。
もう、この景色のほうが当たり前になっていた。
「なあ」
悠真が空を見る。
「俺ら、帰れると思う?」
蒼は答えなかった。
答えられなかった。
ただ。
スマホの画面には、新しい通知が増え続けていた。
『次の動画待ってます』
終わったみたいな世界で。
二人だけの日常は、今日も誰かに見られていた。
午前0時17分学校の屋上で
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!