テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
859
773
み ん と
Episode 1「チカ級トリオン」
三門市の空は、今日もどこか灰色だった。
巨大なゲート災害を経験した街にしては、人々は驚くほど普通に暮らしている。学生は学校へ向かい、店は開き、道路には車が走る。
その“普通”を守っている組織の名前を、黒瀬は何度もニュースで見てきた。
――ボーダー。
その本部ロビーで、黒瀬は無言のまま椅子に座っていた。
「次、黒瀬葵君トリオン測定ねー」
軽い調子で呼ばれ、黒瀬は立ち上がる。
案内された部屋には、見慣れない測定機器が並んでいた。
「緊張しなくていいよ。すぐ終わるから」
オペレーターらしき女性に言われ、黒瀬は小さく頷く。
機械が起動する。
淡い光。
数秒後。
ピッ――という電子音が鳴った。
「……え?」
最初に固まったのはオペレーターだった。
続いて、近くで書類を見ていた隊員が顔を上げる。
「どうした?」
「いや、その……数値が……」
画面を見た瞬間、その隊員の表情も止まった。
黒瀬は眉をひそめる。
「……何か問題ありました?」
「問題っていうか……いや……」
隊員は困ったように頭を掻く。
「お前、トリオン量やばいな」
「……?」
「玉狛第二の雨取千佳レベルだぞ、それ」
主人公は一瞬、反応に困った。
チカ、という名前は知っている。
大トリオンで有名な隊員だ。
ただ、それがどれほど凄いのかまでは分からない。
「そんなに珍しいんですか」
「珍しいなんてもんじゃない」
隊員は呆れたように笑った。
「ここまであると、何やっても有利だわ」
「何やっても?」
「まあトリオン量って基本、全部に関わるからな。弾数、威力、シールド強度、継戦能力……色々盛れる」
黒瀬は測定結果の画面を見る。
数字だけ見ても実感は湧かなかった。
すると隊員が続ける。
「やっぱシューターが強いんじゃねぇかな。総合2位の二宮隊隊長みたいな感じ」
その名前は主人公でも知っていた。
圧倒的火力で相手を制圧するボーダー最強クラスのシューター。
「トリオン多いやつの王道だよ。弾ばら撒けるし、火力も出るし」
黒瀬は小さく頷いた。
なるほど。
強いトリオンがあるなら、それを最大限活かせる戦い方をすればいい。
単純な話だ。
数日後。
黒瀬は訓練室で黙々と弾を撃っていた。
アステロイド。
分割。
射出。
――が。
「……難し」
弾が散る。
狙いがズレる。
軌道制御が甘い。
訓練用ターゲットには当たる。だが、教本映像のような綺麗な弾幕には程遠かった。
「トリオン量はすごいんだけどなぁ」
見学していた訓練員が苦笑する。
「制御苦手か?」
主人公は無言。
再度アステロイドを展開する。
分割。
射出。
……またズレる。
「同時制御向いてないタイプかもな」
その言葉が妙に刺さった。
トリオンが多い。
だからシューター向き。
そう言われた。
でも、やってみれば全然上手くいかない。
置き弾も苦手。
包囲も苦手。
複数操作も苦手。
火力だけは出る。
だが、それだけだった。
黒瀬は静かにトリガーを解除した。
その日以降、主人公は訓練後によくランク戦を見るようになった。
最初は参考のためだった。
シューターの戦い方を学ぶため。
だが、見続けるうちに考えが変わっていく。
戦い方は、一つじゃない。
ワイヤーで動きを封じる隊。
狙撃で盤面を支配する隊。
連携で崩す隊。
地形を使う隊。
正面から撃ち合わない隊。
そして。
モニターの中で、隊員が突然消えた。
「……!」
カメレオン。
姿を消した小柄なアタッカーが、死角から一瞬で敵を斬り落とす。
風間隊。
相手が反応した時には、もう間合いに入っている。
真正面から勝負していない。
なのに強い。
主人公は画面を見つめたまま動かなかった。
その数日後。
別の試合。
今度は銃声が響く。
近い。
異様に近い距離。
一瞬の抜き撃ち。
相手がシールドを張る前に撃ち抜かれる。
「速……」
弓場隊。
早撃ち。
近距離射撃。
主人公は理解する。
あれは真似できない。
反応速度も技術も足りない。
でも。
頭の中で、二つの戦い方が繋がった。
風間隊の“見えない接近”。
弓場隊の“近距離高火力”。
主人公はモニターを見つめながら、小さく呟く。
「……見えないまま近づいて撃てばいいのか」
弓場みたいな早撃ちは無理だ。
風間みたいな近接も無理。
でも。
奇襲なら。
死角なら。
近づいてから撃つなら。
できるかもしれない。
主人公の視線が、端末のトリガー一覧へ向く。
バッグワーム。
カメレオン。
ハンドガン。
静かに、新しい戦い方の輪郭が形になり始めていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!