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次に入って来たのは、3人目のメイドさん。
緑色の髪の毛でショートカット。見るからに活発そうなイメージだ。
「失礼します。アイナ様、お茶をお持ちしました」
「ありがとー。ささ、こちらへ」
「はい!」
そのメイドさんはテーブルにお茶の入ったカップを置くと、そのまま綺麗な姿勢で立っていた。
……まぁ、やっぱり座らないか。
「えぇっと、あなたのお名前は?」
「はい、ミュリエルと申します。
身体を動かすのが得意なので、そういった用事は私にお任せください」
おお、見た目と得意分野が合ってる!
実に覚えやすくて、素晴らしい。
「改めまして、私はアイナです。これからよろしくね」
「よろしくお願いします!」
「それじゃお茶、いただきます」
さて、どんな話から切り出そうかな?
全員同じ話だと。何だか面接っぽくなるからなぁ。うーん、さてさて……。
そんなことを思いながらお茶をひとくち――
ゴクリ
「…………」
「?」
「――――ぶふッ!?」
お茶を口に含めた瞬間、水面に広がる波紋のように、隅から隅へと何かが押し寄せた。
今まで感じたことの無い味覚。いや、味覚と言って良いのだろうか?
苦みとも辛みとも違う、何か刺激的なもの。それは他の感覚にまで波及して、おかしな臭いや急激な体温の低下すらも感じさせた。
「ど、どうしましたか、アイナ様!」
「ごほっ、ごほっ! これ、何!?」
「え? 紅茶ですが……」
こ、紅茶? これが? もしかして毒入り!?
えい、かんてーっ!
──────────────────
【不味い紅茶(S-級)】
不味い紅茶。場合によっては体調異常を起こす
※追加効果:精神衰弱×1.6
──────────────────
……どうやら毒は、入っていないようだ。
それにしてもS-級なのに――……いや、『不味い紅茶』としての出来が良いから、こんな品質なのか。
普通の紅茶だったら、きっとF-級とかなのだろう。
「……個性的なお茶だね」
「よく言われます!
特に料理についてはクラリスさんの舌には合わないようで、お屋敷で料理するのは禁止されてしまいまして……」
「このお茶は、ミュリエルさんが?」
「はい、心を込めて淹れました!」
「お茶も禁止」
「えぇっ!?」
「禁止」
「は、はい……」
創作物でたまに見かける、メシマズのキャラ。
まさかそれが実在して、うちのメイドさんの中にいるだなんて……。
……ここでの暮らしが慣れるまでは、しばらく口に入れるものは鑑定しておいた方が良いかもしれない?
「ところで今回は軽くお話をしたかっただけなんだけど、ここで働くにあたって何かある?
希望とか、要望とか」
「はい! 私、メイドとしての実力を付けていきたいです!
ですので、お屋敷のお仕事は全力で頑張りたいのですが――」
「ですが?」
「……料理も、勉強したいです……」
ミュリエルさんは少し、気落ちしながらそう言った。
メシマズなのは自覚しているのかな? 少なくとも、周りの反応から何かは察しているのだろう。
「あー……。食材は使って良いから、賄いとかで練習してみては?
……もちろん、クラリスさん監督の元で」
「え、よろしいのですか!? ありがとうございます!
他には特に何もありませんので、全力でお仕事をさせて頂きます!」
「うん、よろしくね。
それじゃ次のメイドさんを呼んでくれるかな? あと、お茶の換えを……」
「それでしたら私が――」
「禁止」
「は、はい……。でもいずれ、私も淹れられるようになりますので!
それでは失礼します!」
そう言うと、ミュリエルさんはお辞儀をして部屋から出ていった。
……それにしても、どうやったら紅茶をあんな味にできるんだろう……。
レアスキル『工程省略<錬金術>』とは逆の感じで、作るときに不味くする工程が勝手に入ってしまう……とか?
うーん、謎だ……。ああ、それならミュリエルさんを鑑定してみれば良いのか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
しばらくすると、ドアをノックする音が聞こえた。
部屋の中へ促すと、4人目のメイドさんが登場した。
白色の髪の毛で、カール気味のロングヘア。ミュリエルさんとは逆の、落ち着いた印象だ。
「失礼します。アイナ様、お茶をお持ちしました」
「うん、ありがとう。あなたのお名前は?」
「はい、ルーシーと申します」
「改めまして、私はアイナです。これからよろしくね」
「よろしくお願いいたします」
「……」
「……」
……話が自然に途切れてしまった……。
さてさて、今回はどんな話をしていこうかな。
ミュリエルさんのときは紅茶から話が広がってしまったんだよね。
そんなことを思いながらお茶をひとくち――
ゴクリ
「…………あ、あまっ!!?」
口の中に、圧倒的な甘さが広がる。
それは得も言えぬ甘美の世界……などでは無く、ただひたすらに、問答無用で甘いだけだった。
「はい、アイナ様はお疲れかと思いましたので、砂糖をたくさん入れて参りました」
「えぇっ、さすがにこれは多すぎない!?」
「私はいつもこれくらい入れていますので……」
「あ、そうなんだ……? いやいや、でも甘すぎだよ!?」
「申し訳ございません、次からは半分ほどにいたします」
「それでも多いよ!?」
「では、砂糖は別でお出しいたしますね」
「う、うん。それなら……」
「……」
「……」
――また、会話が途切れてしまった。
なるほど、ルーシーさんは大人しい感じの人なんだね。おっとりというよりは、物静かという感じだ。
「ルーシーさん。皆に聞いているんだけど、ここで働くにあたって何かあるかな。
希望とか、要望とか、何でも良いんだけど」
「……特にはございませんが、休憩時間に裏庭で休むお許しを頂けると嬉しいです」
「え? 裏庭で?」
「はい。外で読書をすると、とても気持ちが良いので……是非、お許しを頂ければと……」
ルーシーさんの趣味は読書、って感じなのかな。
良い感じのテーブルセットでくつろいでいると、サマになりそうな雰囲気を持っているしね。
「うん、問題ないと思うよ。
テーブルと椅子もあると良さそうだから、クラリスさんと話しておくね」
「え? いえ、そこまでは……」
「なんのなんの。休憩する環境もしっかり整えないと!」
何となく、昔の職場の休憩所を思い出してしまう。
一応場所はあるんだけど、『とりあえず作りました』って感じが強かったんだよね。
だからもし私が作る側に回るのなら、こういったところも全力投球したかったのだ。
「それでは、よろしくお願いいたします。
ご検討いただきまして、誠にありがとうございます」
「いえいえ。
さて、それじゃ次のメイドさんを呼んでくれる? あと……、お茶の換えをお願い……」
「かしこまりました。それではこちらはお下げします」
そう言いながらルーシーさんは激甘の紅茶を持って部屋から出ていった。
――さて、次で5人目。最後のメイドさんなんだけど……早く来てくれないかな。
何と言っても、口の中がめちゃくちゃ甘ったるい。早く口直しの飲み物を――
……って、そう言えばアイテムボックスの中に水は入っていたか。
でもここまできたら、そっちで口直しするのは違うような気がする。流れ的に……というやつで。
そんなことを考えている辺り、私にもまだ余裕はありそうだ。
この状況を、どこか楽しんでいるっていうのかな?
……とは言え、口の中の甘さだけは、早くどうにかしたいんだけどね……。