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四月十七日……。この日、ナオトたちは『蒲公英《たんぽぽ》色に染まりし花畑』にあるというモンスターチルドレンを元の人間の姿に戻せる薬の材料を採《と》りにやってきた。
あてもなく探し続けていたその時、十一月の誕生石の名を持つ『ゴールデンサファイアント』に出会う。
事情を話すと、彼はナオトたちをそれがある場所まで案内してくれた。
しかし、そこにあった『イエローズ』は花畑の女王であるため、そこから動かすことはできない。
何か手はないかと彼に訊《たず》ねると、体に異常がある者が近づくと、種をばらまく時期が早まるという情報を入手した。
そのため、現在『|黒影を操る狼《ダークウルフ》』を身に纏《まと》った副作用で触覚が麻痺しているナオトがその役を引き受けることとなった……。
「さて、近づいたはいいが、何も起こらないな。どうすればいいんだ?」
ナオト(『第二形態』になった副作用でショタ化してしまった身長『百三十センチ』の主人公)はラフレシア(ポ○モンではない方)サイズの黄色いバラを見ながら、そう言った。
「というか、このバラって、どうやって生《は》えてきたんだ? 単体で咲くバラってあるのかな?」
「人間よ、私に何か用か?」
「ああ、そうだよ。この無駄にでかいバラの種がどうしても必要でな……って、今、なんか声が聞こえたような。気のせいかな?」
「気のせいではない! まったく、今すぐ全身の血を吸い尽くしてやろうか?」
「あー、えーっと、もしかして、このバラが俺に話しかけてきたのかな?」
「いかにも。私がこの花畑の女王である『イエローズ』だ」
「え、えーっと、さっきのは、その、なんというか、言葉の綾《あや》というか、なんというか……」
「ふむ、私も長くここにいるからな。人間の悪口など、もう聞き飽きた」
「そ、そうか。なら、俺の血を全部吸い尽くすっていうのは……」
「無論、冗談だ」
「で、ですよねー。信じた俺がバカでしたよー。あははははは」
「だが、お前の血液は全て浄化させてもらう。異論はないな?」
「……え? それはいったいどういう……」
「じっとしていろ。すぐに終わる」
その直後、『イエローズ』の根っこが地面から出現した。
それは彼を拘束すると、茎《くき》にある棘《とげ》で彼の両首筋を刺した。(今の彼に触覚はないため、痛みはない)
「えーっと、いったい何をしているんだ? 俺にはさっぱり……」
「黙っていろ。死ぬぞ」
「あ、はい、分かりました」
ナオトは彼女に従うしかなかった。だって、主導権は彼女にあるのだから……。
数分後、やるべきことが終わると、彼女は俺を解放してくれた。
その直後、俺は彼女がなぜそんなことをしたのか訊《き》いてみた。
「なあ、『イエローズ』」
「『ローズ』で結構だ」
「そうか……。んじゃあ、ローズ」
「なんだ? 人間」
「俺の血を浄化するって言ってたけど、あれはどういう意味だ?」
「そのままの意味だ」
「いや、だからそれが分からないから訊《き》いてるんだけど?」
「人間のくせに察しが悪いな、お前は」
「わ、悪かったな、察しが悪くて」
「おっ? 拗《す》ねたのか? 可愛いところがあるではないか」
「す、拗《す》ねてなんかねえよ! それに俺はこう見えても、大人なんだぞ!」
「ふふふ、その情報はお前の血液から入手済みだ」
「そ、そうなのか? はぁ……まったく、俺で遊ぶなよ」
「久しぶりに私と話ができる者に出会えたからな、ついやってしまった。すまない」
「そうなのか? なら、いいよ。誰だって心のどこかでは一人でいるのが怖いって思ってるだろうからな」
「……ふむ、お前は面白いやつだな」
「え? なんか言ったか?」
「いや、なんでもない。それよりどうだ? 体は元に戻ったか?」
「ん? ああ、まあ、相変わらず身長は低いままだけど、触覚は元に戻ったぞ」
「そうか、そうか、それは良かった。では、お礼に私の種をやろう」
「え? いいのか? 俺、お前に何もあげてないぞ?」
「……私は他人の体の異常な部分を養分として吸収することができる。これが何を意味するのか分かるか?」
「えーっと、つまり俺はお前にごちそうしたってことか?」
「ああ、その通りだ。ちなみに、お前の体はお前の心臓のおかげでバランスが保《たも》たれている。だから、誰かに奪われないようにするのだぞ?」
「心臓を奪われるなんてことはないとは思うけど、一応、用心しておくよ。ありがとな」
「なあに、これくらいの情報を教えるのは、ごちそうになったこちらとしては当然のことだ。さて、そろそろ種を出すとするか。少し下がっていろ」
「ああ、分かった」
俺が三歩下がると、彼女は勢いよく種を発射した。(花の中心から、ピンポン玉くらいの種を一つだけ)
「すっげえな! なんだ! 今の!!」
「……」
「おーい、聞こえてるか?」
「…………」
「『イエローズ』さーん。起きてますかー?」
俺が彼女に近づくと彼女はこう言った。
「私のことは『ローズ』と呼べと言っただろう? それに種を出した後の私は少しの間、意識を失ってしまうのだ。だから……」
「だから、反応が遅れた……ってことか?」
「ああ、その通りだ。さあ、もうここに用はないのだろう? 早くここを離れろ」
「何をそんなに焦ってるんだ? 誰か来るのか?」
「ああ、来るさ。私がこの世で一番、嫌いなやつらがな」
「やつら? 一人じゃないのか?」
「ああ、そうだ。やつらは群れで行動する。だから、早くここから……離れろ」
「……忠告には感謝するが、今のお前じゃ、そいつらに勝つのは難しいんだろう? だったら、俺はお前と一緒にそいつらと戦うぞ」
「や、やめておけ。やつらは……人ではない」
「それがどうした。苦しそうなやつを置き去りにしてまで助かりたいなんて、俺が考えると思うか?」
「……人が良すぎると、いつか自分を苦しめることになるぞ……」
「……まあ、そうかもな。けど、その時、助けなかったせいで後悔するよりかはマシだろう?」
「……ふん、お前は今まで出会ったどの人間よりも大バカ者だな」
「別にそれでいいよ。それが俺のやり方だから」
「……そう、だな。お前なら、やりそうだ……では、頼んだぞ。『小鬼《ゴブリン》』共を全て駆逐……して……くれ」
俺は彼女の花弁を優しく撫でながら。
「ああ、任せとけ。俺の……いや、俺たちの力を小鬼《やつら》の目に焼き付けてやる」
俺はみんなの方へ歩いていくと、そのことをみんなに伝えた。
すると、全員が笑顔で親指を立てた。どうやら、協力してくれるらしい。
こうして、俺たちによる『小鬼《ゴブリン》駆逐作戦』が決行されたのであった。
*
その頃、『ハトパーズ』(金色のハト)は『ウシトリン』(金色のウシ)のところへ戻ってきた。(彼は彼女の背中に乗った)
「おかえりなさい、どうだった? 見つかった?」
「いや、ダメだった。やはり、あのサイズともなると見つけるのは困難だな」
「……やっぱりそうよね。私たち誕生石の中で一番小さいから見つけるのは困難よね」
「はぁ……『ゴールデンサファイアント』よ。お前はいったいどこにい……」
その時、二匹の背後に気配を感じた。
二匹は会話を一時中断すると、それの正体を突き止めることにした。
試しに『ハトパーズ』がクルッと体を百八十度回転した。するとそこには……。
「えーっと、お前たちが『ゴールデンサファイアント』と同じ十一月の誕生石……なんだよな?」
身長『百三十センチ』ほどの少年が立っていた。
この少年……足音一つ立てずに近づいてきたな。いったい何者なんだ?
……いや、待て。この少年の体の中から、かすかな波動を感じるのはなぜだ? ま、まさか、こいつは!
「うーん、おかしいな。俺の体の中にある『アメシスト』と『エメライオン』の話だと、お前たちが十一月の誕生石だって言ってるんだけどなー」
その時、『ウシトリン』が彼の方を向いて、こう言った。(『ハトパーズ』は一度、飛んだ後、再び彼女の背中に乗った)
「あなた、もしかして……『アメシスト』と『エメライオン』の契約者なの!?」
彼は当然のように話し始めた。
「ん? ああ、そうだけど。それがどうかしたのか?」
「どうかしたのかって、誕生石を一つ体内に入れるだけでも体には相当の負担がかかるのよ!? あなたみたいな子どもが持っていい力じゃないわ! 今すぐ契約を破棄しなさい!」
「そう言われても……俺はスマートフォンも魔法もスキルも使えない、ただの一般人なんだぞ? そんな俺がこの世界で生きていけるわけないだろう?」
「あなたはその力をなんだと思ってるの! 石言葉の力を与える代わりにその代償を支払わなければならない不完全な力なのよ!?」
「不完全かどうかは知らないけど、俺には必要な力なんだよ。まあ、俺の心臓がただの心臓じゃなかったおかげでその代償を支払う必要ないけどな」
「う、嘘《うそ》よ! 普通の人間の心臓が誕生石の力に耐えられるわけないじゃない!」
「まあ、そうだよな。俺もそうであってほしかったよ。だけど、俺の心臓は『|夏を語らざる存在《サクソモアイェプ》』っていう蛇神《じゃしん》の心臓なんだよ」
それを聞いた二匹は目の前の少年を哀れんだ。
「おっと、俺としたことが本題を言い忘れていたな。なあ、お前ら。『ゴールデンサファイアント』の仲間なんだろ? そいつの居場所を知ってるから、俺と一緒に来てくれないか?」
二匹はコクリと頷《うなず》いた。
「ありがとう。えーっと、お前らの名前はなんていうんだ?」
「……『ハトパーズ』だ」
「……『ウシトリン』よ」
「そのまんまだな……。まあ、どうでもいいけど。それじゃあ、一緒について来てくれ」
ナオトはクルリと回れ右をすると、小さな足で少しずつ前に進み始めた。(二匹は彼の後を追った)
二匹が黙って彼についていくことにしたのは『ゴールデンサファイアント』を探す手間が省けると思ったから。
そして、若くして誕生石を二つもその身に宿したナオトの力になりたいと思ったからである。