「私、もう行くから」
「あぁ――」
言いたいことの半分も言えなかった。マナが飯塚と付き合っているのは、本人の口から確認がとれた。でも、俺がマナにしてやりたかったのは、飯塚と付き合うのをやめるよう説得することだ。遊ばれているのを気付かせなければならなかった。
その日の午前中、マナは休み時間になる度に教室から出て行ってしまったので話をする機会がなかった。
「圭ちゃん、お金貸して」
「いいけど、パンならあるぞ」
昼休みになると、いつものようにマナは昼飯をもらいにやって来た。
「それももらってくけど、お金も貸して」
「何に使うんだよ?」
「チョッとね――」
そして俺は、マナにコンビニで買ってきたパンとおむすび、500円を手渡した。するとマナは、慌てて教室を出て行った。
「あのお金何に使うのかな?」
俺とマナのやり取りを黙って見ていたゆずきが俺の前の席に座るとそう言った。
「自分のを買うんじゃないよな?」
「飯塚先輩に何か買ってくるように言われたのかもしれない」
「だとしたら――」
「やっぱり都合のいいように使われてるんだよ。どうするの?」
「しばらく様子を見るしかないだろ」
「そうだけど、早く手を打たなきゃ――」
その日も、マナは帰りのホームルームが終わると、俺とゆずきに声をかけることもなく教室を出て行った。そして次の日も、さらにその次の日も、マナは昼休みになると昼飯とお金をもらうためだけに俺のところにやって来た。何に使うのかを聞いてみたけど〝ちょっとね〟そんな言葉しか返ってこなかった。確かめる必要があると思った。
そしてそんな日が1週間経とうとしていた頃、俺は昼飯と500円を受け取ったマナの後をつけてみた。マナは教室を出ると、迷うことなく食堂に小走りで向かっていた。食堂に着くと、パン売り場の列に並びながら誰かに電話をしていた。会話の内容までは聞こえなかったけど、売り場にあるパンを見ながら話しているところを見ると、誰かに頼まれて並んでいるらしい。電話の相手は間違いなく飯塚だろう。それからパンを買い終えたマナは階段を上がって2階にある3年のフロアにやって来た。そして4組の教室の前まで行くと、中から出てきた飯塚ではない男子生徒にそれを渡した。どういうことだ? 電話の相手は飯塚ではなかったのか? パンを渡し終えたマナが階段を下りて行くと、その男子生徒は教室から出てきた他の2人にパンを渡して3人で分け合って食べ始めた。その中には飯塚の姿もあった。
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