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秋の空は高く、どこまでも澄んでいた。
空に手が届きそうな朝。
中学校の校庭では、紅白ののぼりが風にはためき、生徒たちの声が入り乱れていた。
「よーし!今日は体育祭だーー!!ナオトーーー!気合い入れてくよおお!!」
「うるせえ……まだ朝の7時だぞ……」
朝の集合前から、月島ももは全力でテンションが振り切れていた。
髪はいつもより高く結び、赤組のハチマキをリボンみたいに巻き、口には早弁のサンドイッチを咥えたまま走ってくる。
「見て見て!もも特製”勝利のベルド”作ったの!」「何それ…..って、ただのリボンじゃねぇか…….しかも”勝利”の字、間違ってるぞ」
「えっ、“勝づ”ってにんべんだっけ?」「いや、たぶんそれ”情けだな…….」
そしてそのすぐ後ろ、白組のもう一人のテンション爆弾が現れた。
「ナオトくーん!グッドモーニングデース!」「うわっ、エレナ!急に背中に抱きつくな!暑いって!」
ロシア人ハーフの転校生・エレナは、見た目がモデル級に美しく、どこかミステリアス……
ーーと思わせておいて、やってることは、ももと大差ない。
「ねぇナオトくん、わたしのハチマキ、すごくな
いデスか?」
「え?なにその…..絵柄…….」
なんとエレナのハチマキには「^闘魂注入♪」とカタカナで書いてある。しかも逆さま。
「ロシアでは、闘魂が勝利のシンボルです!」「たぶんそれ、日本のプロレスだと思う」
**
■開会式
校長の長すぎる話に全員が地面を見つめている中、ももだけが両手を突き上げていた。
「イェーーー!体育祭ーーー!校長ーー!がんばってええーーー!!」
「ももやめろ、目立つ…..あと校長いま3回噛んだぞ」
そんな騒がしさをものともせず、いよいよプログラムが始まる。
**
■午前の部:「騎馬戦」
ももはもちろん先頭騎馬。
「エレナ!ナオト!私の馬になれええええ!!」「お前が乗るんか!?」
「ナオトくん、わたし左の足ですデース!」
一崩壊の未来しか見えない騎馬戦が始まる。
「いけええ!角田を狙えええ!」「角田!?おまえまたやられたのに復活してるの!?」
「月島騎馬隊、暴走中ですッ!」放送部の三島がプロのような実況をする。
ももが突っ込んだ先にいたのは、なんと学年主任の先生チーム。
先生のハチマキを吹っ飛ばして、拍手喝来 (そ
して減点)。
**
■綱引き
次は、綱引きです。放送係の放送が鳴った。位置についてよーいドン!先生が合図すると一斉に、「いっけぇーーー!!腕がもげても引けええええ!!」
「もも!力入りすぎ!腰が反ってる!」「ナオトくん、わたしの腕、今たぶん1.3倍に伸びてます!」
赤組は善戦したが、最後は全員一緒に後ろにぶっ倒れるという華麗なオチで終わった。
**
そして午前の部は終わった。
■お昼休み
「ナオトくん、エレナ特製ピロシキ食べますか?」
「いや…..俺弁あるし……てかなんでおまえのピロシキに納豆入ってんだよ」
「ロシアン・ナットウ・ピロシキ!日本文化リスペクトです!」
もももバナナしか持ってきてない。
「見て見て!バナナに『勝』って書いたよ!これ勝利のバナナ!」
「だから、おまえら食い物に気合い込めすぎだろ」
「絶対勝ちましょうネ!ナオト君!」
熱意がこもったように言うエレナに負けじと、もも、も「おー!」
ももとエレナ、ナオトの三角ベンチの上では、奇妙で笑える昼食タイムが続く。
**
そして、午後の部が始まった。午後の最初の競技は、借り物競走だった。……俺はくじを引いたが……、『好きな人』
「は?」
「もも!」
「え?!何?私?」
「そうだ!はやくこい!」
「レッツゴー!!!」
なんとか、ももを連れていき、ゴール。順位は2位だった。
赤組1組目ゴール!
お題はーー
「好きな人!!!」
余計な放送だ
「ふぇぇぇ!…///」
「ちげぇよ!た、ただ、居なくて、お前以外見つからなかったから…///」
エレナは応援席からそれを不思議そうに見つめていた。
**
そして、そこからどんどん競技が終わっていった。
■最終競技:「リレー」
アンカーはもも。
なんとここで赤組、奇跡の1位争い。
「ナオトォ!見ててねぇぇええ!!」
「絶対なんかやる予感しかしねぇ……」
もも、バトンを受け取って猛ダッシュ。…したのも束の間。
「うわあああああ!バトンがああああ!」
手からバトンが飛び、前の走者の背中に当たって転がり、拾いに戻ってまた走りー「がんばれももー!!」
「ナオトくーん!いま涙目デース!!」
最下位ゴールだったが、なぜかいちばん拍手が大きかった。
**
■閉会式
成績発表の瞬間、全校が静まり返る。
「優勝は……白組!」
「えーーーーっ!?負けたぁーーー!?バナナが足りなかったか……」
「うん、完全にバナナの問題じゃない」
**
そして、俺らの中2の体育祭は無事終わった。
放課後
ももは地面に寝転がりながら空を見てつぶやいた。
「ナオト、今日ね……なんか……青春してた気がする」
「まあ、確かに……走って、転んで、笑って、叫んで…….」
「あと、バトン投げたし」
「それは青春じゃない」
エレナがやってきて、3人で空を見上げる。
「またこういうの、したいデスね…….」「うん……今度は文化祭?運動会?…いやもう毎日お祭りにしちゃえ!」
「それはうるさいからダメだ」
一笑って、走って、青春の秋が過ぎていく。