テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
秋の風が、教室の窓からふわりと入り込む。
落ち葉がひらりと舞っては、廊下の隅にくるくると転がっていく。
「ナオトー!今日はすごく大事な日だよ!」
いきなり後ろから元気いっぱいの声。もちろん、
ももだ。
振り返る直人の顔には、すでにうっすらと不安の色が浮かんでいた。
「…..まさかとは思うけど、また変なこと考えてないよな?」
「いやいやいやいや、変じゃないし!むしろ”革 命”だし!」
「ほぼ確定だな…….
今日の放課後、ももは「校内ナゾ探し大会」を勝手に開催する予定らしい。
しかも”優勝者には、ももスペシャルハグ券”という謎の報酬付き。
「誰が欲しいんだよ、それ…..」
「ナオト?」
「いや、俺は別に……」
「なーんだ、欲しくないのかー。じゃあエレナにあげよーっと!」
「ちょ、ちょっと待て!それはそれで…….」
「ナオトくん、あげるの?」
廊下からひょこっと顔をのぞかせたエレナが、ニコッと笑う。
「あっ、エレナ~!じゃあこれ、エレナにもクエスト出すね!」
「オーケー!がんばる、でもよくわかってないけど!」
ももの”ナゾ探し大会”は、教室、図書室、屋上、保健室、体育館、そしてなぜか用務員室を巻き込んで大混乱に発展。
一番正解数が多かったのは、無口なメガネ男子・佐久間くんだった。
「…..俺、ただ本を返しに行っただけなんだけど」
その日の帰り道。夕焼け空の下、三人は並んで歩く。
「結局、何が“ナゾだったんだ……?」
「うーん、人生?」
「深いようで浅すぎる……!」
笑い声が秋の空に溶けていく。
“何でもない日”が、いちばん楽しかったりする。
月島ももは、やっぱり止まらないーー
その翌日。
ももはいつものように、元気に教室のドアを蹴るように開けて登場した。
「ナオトー!今日の英語、絶対ムリ!」
「……まだ授業始まってないぞ」
「ムリなの!だってアルファベットの順番が、急にわかんなくなるときってあるよね?」
「それは”急に”じゃなくて、普段からだと思う」
「バカじゃないし!」
はい、恒例のツッコミだ。
3時間目、英語の時間。
「apple」「banana」「cat」…と黒板に書かれる単
語たち。
先生が指名したのは一
「月島さん、”D”で始まる単語、何かある?」
「えっ!”D”!?えーと、えーと……」
ももの目が泳ぐ。教室の空気が静まっていく。
「デリシャス!」
「….それは形容詞だね。できれば名詞を」「デリシャスりんご!」
……うーん…….」
「え、えーと、ドーナツ!ドーナツって英語だっけ!?」
「それは合ってます」
「やったー!ドーナツは世界を救う!」
直人は小さくため息をついた。
「やっぱこいつ、すごいな……」
昼休み。
ももは購買でパンを買い損ね、テンションが下がっていた。
一応、この学校特別に、金曜日の時だけ、購買が開かれるんだ。
「なんで私のメロンパンが……!」
「遅かったからだろ。ほら、俺のコッペパン半分やるよ」
…..ナオト、それは愛?」
「違う。友情」
「ふーん……じゃあ、半分こは愛情の証ってことで」
「いや、もうそれならあげるよ全部」
「わあい!やっぱりナオトって、将来私の執事に向いてるよ!」
「絶対嫌なんだが……」
放課後。
エレナが、教室の後ろの席でももと何やらごにょごにょ話している。
「わたし、いい事思いついたんデス」
「…..また何か企んでるのか?」
「ナイショ、ナイショ~!」
ももの顔には、すでに勝利の笑みが浮かんでいた。
そして、ふたりのバカ(+ナオト)の日常は、今日も、明日も、続いていく。