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ゆみと弓
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第三章 さよならを綴った手紙 前編
――リュカ視点――
旅立ちの日は驚くほど穏やかな朝だった
昨日まで何度も考えていた
「行きたくない」
そう言えば何か変わるだろうか、と
けれど答えは最初から分かっていた
王族として生まれた以上
自分の気持ちだけでは生きられない
それなら最後くらいは笑って送り出してもらいたかった
身支度を終え、部屋を見渡す
長い時間を過ごした場所
嬉しい日も、泣いた日も、この部屋が受け止めてくれた
今日で最後だと思うと
不思議なくらい実感が湧かなかった
扉を開けて廊下に出たら母上が立っていた
「支度は済みましたか」
リュカ「はい」
母上は俺の髪を整えるように優しく触れて微笑んだ
「立派になりましたね」
リュカ「…母上」
「泣いてはいけませんよ」
そう言った母上の目も潤んでいた
「あなたはヴァレンティアの誇りです」
「けれど、それ以上に私たちの大切な息子でもあります」
堪えていたものが込み上げる
リュカ「っ…はい」
やっとの思いで返事をすれば母上は俺を抱き締めた
「幸せになるのですよ」
その温もりを忘れないように俺も抱き返した
城門の前には大勢の人が集まっていた
父上、母上、騎士たち、侍女たち
幼い頃から知っている顔ばかり
みんなが笑顔で送り出そうとしてくれている
俺も笑わなくちゃ
そう思うのに胸の奥は苦しくなる一方だった
「リュカ」
父上が俺の前に立つ
「ローゼンフェルト王国との未来は、お前に託された」
「責任は重い」
「だが、お前ならきっと乗り越えられる」
父上らしい言葉
厳しく聞こえるけれど
その瞳には息子を信じる気持ちが宿っていた
リュカ「はい」
まっすぐ頷く
すると父上は一度だけ俺の肩に手を置いた
「身体には気を付けなさい」
その一言だけで十分だった
父上なりの愛情が伝わってくる
馬車へ向かおうとした時
「リュカ様!」
聞き慣れたあの声に足が止まる
振り返ればエリアスが息を切らしながら駆けてきていた
制服のまま
髪も少し乱れてる
急いで来てくれたことがすぐに分かった
リュカ「エリアス…」
俺の前まで来て呼吸を整えながら一枚の封筒を差し出す
エリアス「これを」
リュカ「手紙?」
エリアス「ああ」
それだけ答えて
エリアスは照れくさそうに笑った
エリアス「今は読まないでほしい。向こうに着いて、一人になった時に読んでくれ」
封筒を受け取る
丁寧に封がされていて
表には俺の名前だけが書かれていた
リュカ「…分かった」
どうして手紙なんだろう
どうして今日なんだろう
聞きたいことはたくさんあった
それなのに言葉にならない
エリアスは俺を見つめたまま
何度か口を開きかけては閉じる
伝えたいことがある
そんな表情だった
俺は待った
幼い頃から知っている
エリアスは大切なことほど言葉を選ぶ人だから
長い沈黙のあと、ようやく彼が口を開く
エリアス「…元気で」
たったそれだけだった
胸が痛い
違う
俺が聞きたかったのはその言葉じゃない
それでも、エリアスは精一杯笑っていた
だから俺も笑うしかなかった
リュカ「うん」
手紙を胸に抱えて馬車へ乗り込み扉が閉まる
ゆっくりと馬車が動き始めた
窓の外ではみんなが手を振っている
父上も母上も、侍女たちも
そして、エリアスも
最後まで笑っていた
俺も笑顔で手を振り返す
だけど、城門が遠ざかって姿が見えなくなった途端に張り詰めていた気持ちが途切れた
手の中にある封筒を強く抱き締める
リュカ「…エリアス」
名前を呼んでももう返事は届かない
この手紙には何が書かれているのだろう
知りたい
でも読むのが怖い
もし、この手紙が本当の「さよなら」だったら
そう考えただけで胸が苦しくなった
馬車はゆっくりと俺を新しい運命へ運んでいく
その膝の上には
まだ開かれていない一通の手紙が大切に抱えられていた
・
コメント
1件
Ranru(らんる)さん、第6話めっちゃ沁みた…😭💕 母上の「泣いてはいけませんよ」が自分も潤んでるのに優しくて、もうここだけで涙腺崩壊しかけた… エリアスからの手紙、開けずに抱えるリュカの気持ちが痛いほど伝わってきて、読んでるこっちも「読まないで…でも知りたい…」ってなる。このもどかしさがエモすぎるよ〜!! ラストの手紙を抱えた描写、続きが気になりすぎて今夜眠れないかもしれない🌸 次話、心の準備して待ってます🔥