アメンカンドッグを片手にパクついている私に
「止めといたら?」
かなり引いているレダーさん
何がどうなってこうなったのか
きっかけは彼らの傍らに置いてある有名メーカの板チョコレートの山
段ボールにパンパンにつまったそれは市長の方から各ギャングにバレンタインデーのチョコとして送られてきたらしい
個人医にはお高そうな箱のチョコが1箱渡された
差別ではないか?私は段ボールでよごったのに
こちらもうまいが、正直足りないとやきもきしていたら
夕コさんから呼び出され、「仲間だろ?消費しろ、ダ イソン期待してるてかマジで手伝え」と告げられた。
死なばもろとも、だそうだ。
チョコで死なないでほしい
あまりにも滑稽なので
とまあ呼び出しをくらい、思い思いに美味しいものもってこいとの宿題を頂き、マシュマロ、クッキー、果物をクーラボックスに詰め込んで来たが
ドア前で、レダーさんがスルメイカを手に検問をしている。なんだったら開封して食べている
チョコと合わせようという猛者がいたらしい。
「マトモなもの持ってきたか?」
「もちろん、定番ですよ見ます?」
「あー通ってよし」
なんともシュールなやり取りしつつドアの検問を通過し
持ってきた物を冷蔵庫に詰める
冷蔵庫の中には、プチシュー、たい焼きにバウムクーヘンなぜかフランクフルト等がならぶ
これからチョコ祭りが始まるとは思わないメンツの数々
うっすら買った人が何となく分かるもので
自分の物かわかるようにイラストをきゅきゅっと花のマークを書き冷蔵庫の隅へ入れる
冷蔵庫の隣の段ボールには合わせるつもりかサキイカ、サラミ、鮭とば、スルメイカにジャーキー
どうやら酒飲みと勘違いしている人がいるらしい
その箱にマシュマロとクッキーを入れていると、ケインさんにエプロンを渡される
「ぐち逸さん、チョコ液は頼みました、タワー組み立てしてきます」
「あぁ、チョコレートファウンテンですか?」
「会長たちが、一番大きいの買ったので」
「…頑張って下さいね」
あれは大変そうだ特大!ホテル用ウエディング等にお使いくださいの文字からうかがえる絶望感といったらヤバイだろう
わいわいと彼らと機械が鎮座する部屋を横目に、私は大鍋を前に手袋をはめた。
カカオの濃厚な香りが立ち込める中、ザクザクと硬い板チョコをナイフで刻んでいく。やがて面倒になり、手でパキパキと豪快に割り始めた。
溶けてしまえば形は関係ない。山脈のように積み上がったチョコレートを、鍋の中でゆっくりと弱火で溶かし始める。
とろりと滑らかになった艶やかなチョコレートに、冷蔵庫にあった牛乳を少しずつ加え、くるくると混ぜる。
本当は生クリームがあればよかったがあいにく家出をしているらしい
ほんのりとラム酒を垂らし、大人の風味を加えると甘く豊かな香りが、肺を満たし、頭の奥までじわりと染み渡っていく。
「わー!完成だぁー!」
向こうの部屋から、歓声が響いた。大鍋を抱えてファウンテンの部屋へ向かう。そこには、部屋の天井に届きそうなほど巨大な、威容を放つ機械が立っていた。
大鍋の中身をメチャでか機械の受け皿に流し込むと、漆黒の液体はごうごうと音を立てながら、滝のように流れ落ちていく。
まるでカカオの川だ
上から仕込んだチョコ液がキラキラと輝く
ウワー圧巻、絶対一番上浸せないだろうな
さながら滝だこれ
匂いが甘く肺を重くするが微笑んでしまうのは
チョコに含まれるエンドルフィンのせいだろう
言ってしまえば幸せホルモンみたいなもんだ
「んじゃ各自開始ってことで」
夕コさんががさがさとトレーに一口大の果物やお菓子を置いていく
彼女はイチゴから行くようだ
みんな思い思いにチョコを纏わせている
やっぱり最初は果物が無難のようで纏わせ食べては
「うっま!」や「くそ甘いやん!」等話している
自分もバナナを2個刺しトロリとチョコを纏わせる
テラテラと輝くチョコが甘く熟れたバナナを包む
確実にうまいのがわかるそれを口に放る
チョコバナナが屋台で流行るのは、需要があるからであろう
甘く舌にチョコの濃厚な重さが乗るがバナナがバランスを取ってくれることで
咀嚼するたびに幸せになれる
栃木の和菓子屋さんがルーツなのが信じられないくらいほどチョコバナナはジャンクでチープでそして幸せである
JDさんはマシュマロを刺して食べるを繰り返しているのでマシュマロが好きなのかもしれないなぁ
自分も刺して楽しむとしよう
マシュマロなんて白いふわふわにとろとろの暖かいチョコ
これも口に放るとチョコと一緒にしゅんわり溶けていく
単体も美味しいが
クッキーの間にチョコを纏ったマシュマロを挟んだらサクトロッモチッでとても幸せである
芹沢さんが真似をしているようで「これ旨いね、やるやん」と指まで垂れたチョコに知らんぷりしてパクついている
さてさて次は何を食べようかとトレーを眺めていると
なぜかアメンカンドッグが残っているようでほかほかのまま沈黙している
北海道で砂糖をまぶしたフレンチドッグがあるのだからワンチャンチョコも合うのでは?
そう思いアメンカンドッグを取るとこの世の終わりのようにめちゃくちゃ引いているレダーさんと目があった
「止めといたら?」
「人生はチャレンジャーが必要ですよ?」
「いや、絶対合わないだろ」
何を言うかと思えば
メイプルどしゃがけパンケーキにベーコン挟んで食べるようなものだろうと彼に伝えると
「普通が一番とか言いながら、お前のやることが一番異端だぜ?」
スイカに胡椒とかさぁ
と必死に止める彼を口論しながらチョコの滝にアメンカンドッグを突っ込む
うわぁっと顔をしかめる彼を見ながらチョコがかかったカリカリでふんわりしたモノにパクつく
うん、案外美味しくいけるな
縦長の揚げパンみたいなもんだ合うに決まっていた
「うげぇ、旨いの?」
「揚げパンにチョコ掛けた感覚が近いかもです」
正直こいつやべぇなぁといいながらサラミをチョコに浸しているこの人に言われたくない台詞ではある
遠くでチョコがかかったポテチを食べながら見守っているバニさんは私よりあなたに引いていると思うのだが
「まぁ良いや、結構チョコ残るかもしれないから何個が持っていってよ」
「分かりました、あとそれ美味しいのですか?」
「うーん、割りといけるけど人によるかも」
夕コはまっず!って叫んでたからと続けそれを口にねじ込まれて咀嚼
不味いと言われたものを口に入れるな
食べ物に罪はないので食べるが
しばらく咀嚼していた
しょっぱくて甘いそれは、確かにいけた
夕コさんは「嘘だろ!お前はこっち側だろ!」と叫び
レダーさんは「ほらー!旨いんだって!」とからかっている
楽しそうで何よりだ
あと私は旨いとは言っておらず
彼の感想でしかない
あとこれはあまりおすすめはしない、あまりにも好き嫌いが分かれるだろう
トレーの上が寂しくなってきたので冷蔵庫のから取り残されていたバウムクーヘンやたい焼きを出し
気になっていたたい焼きを刺す
アンコは案外チョコに合うので美味しいと思うのだ
音成さんが串に果物を焼き鳥のように刺しながら
嘘やろ?それ単体用で買ったのにとか言うが知らない
事前に伝わっていないので、具材へと変貌しただけである
トロッとチョコが垂れるたい焼き
ビジュアルが割りと良くて面白い
かじるとトロッサクッもったりで
「あっ美味いですねこれ」
味が手の込んだ美味しいスイーツだ
和洋折衷がこれほど合うとは
トピオさんも「ん~!!音成さん!美味しいですこれ!」とパクつき
音成さんは「いやー!そんなことないやろ…うま!レダーこれ美味いぞ!」
と即鞍替えしていた
その絡まれたレダーさんは鮭とばをチョコに浸していた
やっぱりこの人が一番異端だろ
夕コさんが「お前やばい!」と笑って
868の皆さんもケラケラとつられて笑っている
美味しいなぁと思いながら手に付いたチョコを拭き、自分も笑っていた