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鬼を連れた隊士
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俺が前線から離れて2年の月日が経った。無一郎は変わらず霞柱のまま、柊依さんも花柱のまま健在だった。俺はというと、任務にはほぼ赴かず、主に花柱の屋敷で家事をして、無一郎や柊依さんを支える生活をしていた。
前線から離れても、俺の体調がいい時は柊依さんが稽古をつけてくれた。身体が鈍らないように。万が一、柱の2人が不在の時に屋敷が鬼に襲撃されてもただやられるだけで済むようなことにならないように。俺は任務には出ないけれど、道場で竹刀や木剣や自分の日輪刀を握って稽古する時間は以前と変わらず好きだった。
ある日、とんでもない報せが耳に届いた。
新しく入った鬼殺隊員が、なんと鬼を連れているとのことだった。しかも元は人間の妹だと。無一郎と柊依さんはそいつの裁判の為、緊急の柱合会議に出掛けていった。
身内を鬼に殺された人はたくさんいる。もしかしたら、家族が鬼になったという人も、それを自らの手で殺めた人もいるかもしれない。でも、鬼になった者が人間を喰わずにいられたなんて話、聞いたことがなかった。
俺が両親を亡くしたのは事故や病気で、鬼に殺されたわけじゃない。無一郎も俺も、危ないところを柊依さんに助けられて今こうして生きている。
もし、無一郎が鬼にされたら?人を喰わずにいられたとしたら?…きっと俺だって、大事な弟を殺すなんてできないし、人間に戻す方法があるのならそれを求めて探し続けるだろう。
そんなことを考えながら洗濯物を干していると、会議を終えた柊依さんと無一郎が帰ってきた。
「柊依さん、おかえりなさい。無一郎もおかえり」
『ただいま、有一郎くん』
「兄さん、ただいま」
「…どうなった?」
『とりあえず、例の兄妹は処刑されずに鬼殺隊に身を置くことが許されたわ。不死川さんの血塗れの腕を突きつけられても我慢したのをその場にいる全員が目にしたし、お兄さんが言ってた、“妹は人を襲わない、一緒に戦う”って話は本当だと私は思う』
え、あの稀血を前に我慢できる鬼がいるのか!?
「その鬼の妹の為に、兄さんのほうと冨岡さん、元水柱様の命が懸けられてるから、それほど特別な存在なのかもね。もしかしたらほんとに、鬼殺隊の一員として戦っていってくれるのかも」
そうなのか……。
『柱全員でさえ、彼らを認められない人はまだいるわ。一般の隊士ならもっとかも。でも、彼らのこれからの頑張り次第では鬼殺隊にとって必要な存在になるんだと思う』
柊依さんが優しく微笑んだ。あまり警戒する様子もなくそう言うところを見ると、“竈門兄妹”は本当に害のない人物たちなのかもしれないと思った。
「…ま、お館様のお話を遮ったから小石ぶつけてやったけどね」
「おま……。やめてやれよ…」
『しかも2つもね』
「うわ…、かわいそう」
「だって腹が立っちゃったし。…それより僕お腹空いちゃった。兄さん、お昼ごはん何?」
けろっとした様子で聞いてくる無一郎。
「切り替え早いな……。今日はごはん、焼き魚、ほうれん草の白和え、味噌汁だ」
「ふろふき大根は?」
「今朝食べただろ。作ってないよ」
「えー!なんで!毎食食べたいくらい好きなの知ってるくせに!」
不満を隠そうともせず顔に表す無一郎。俺たちのやり取りを見ていた柊依さんが可笑しそうに笑った。
「ごめんください!」
聞き慣れない声が聞こえて玄関に向かうと、花札のような耳飾りをつけた隊士が立っていた。背中には木でできた箱を背負っている。
「えっと、どちら様ですか?」
俺がたずねると、隊士はびしっと姿勢を正して口を開いた。
「竈門炭治郎と言います!花柱の倭さんに招いてもらって来ました!」
竈門炭治郎……。この人が例の“鬼を連れた隊士”なのか。
『あ、炭治郎くん。いらっしゃい』
「倭さんこんにちは!」
奥から出てきた柊依さんの声に、緊張感の表れていた顔がほっと和らいだ竈門炭治郎。
「柊依さん。“招いてもらった”って?」
『稽古をつけようと思って。彼も水の呼吸を使うらしいから』
「よろしくお願いします!…えっと…、霞柱の…」
『あ。この子は霞柱じゃないわ。双子のお兄さんの有一郎くんよ』
「えっ!双子だったんですね!」
そういえば、無一郎が石ぶつけたって言ってたな。だからちょっと顔が強張っていたのか。
「無一郎の兄の有一郎です。よろしく」
「有一郎くんか!よろしくな!」
にっこり笑った竈門炭治郎と軽く握手を交わす。不思議と親近感を覚えたのは、きっと、彼の赤みがかった髪と瞳の色が父さんと重なったからだ。
『有一郎くんもきつくなかったら炭治郎くんと稽古するといいわ。同じ水の呼吸を使う者同士ね』
「うん、そうする」
『じゃあ、早速道場に行きましょうか』
「はい!」
3人で道場へ向かう。
身体をしっかり解して、木剣を握る。素振りと、水の呼吸の型をひと通り行う。そして1対1の稽古だ。
まずは柊依さんと炭治郎。普段は花の呼吸を使う柊依さんだけれど、今日は相手に合わせて水の呼吸の剣技で応じていた。
綺麗だな。花の呼吸を使っている時の彼女の動きも華やかで好きだけれど、水の呼吸を使う姿を見ると、それを自分も修得できたことを嬉しく思う。でもその反面、今は任務から離れてしまっている自分が情けなくて胸がちくりと痛んだ。
『…はい、いいわ。まだ少し粗いところはあるけど、体幹もしっかりしてるし型も変な癖がついてなくて綺麗よ』
「ありがとうございます!」
打ち合いを終えた2人が滲んだ汗を拭いながら微笑む。
『有一郎くんも手合わせしてもらう?』
「うん、そうする。炭治郎、いいか?」
「もちろんだ!」
『じゃあ、少し休憩してからね。私はごはんの仕度してくるから、時間になったらいらっしゃいね』
「「はい!」」
柊依さんを見送って道場の床に腰を下ろす。
「…炭治郎。この前弟が石ぶつけたって聞いた。ごめんな」
「いや、いいんだ。俺も場を弁えず喚き散らしてたし。気にしないでくれ」
「そっか。ありがとう」
炭治郎が笑った。耳飾りが揺れる。
「その耳飾り、ずっと着けてるのか?」
「うん。亡くなった父さんの形見でな。俺の家に代々伝わる神楽と一緒にこの耳飾りも受け継いだんだ」
「…神楽?」
「うん。“ヒノカミ神楽”っていうんだ」
確か、柊依さんが上弦の壱の鬼と戦った後から神事や神楽について調べ始めたって言っていたな。
「それ、門外不出だったりする?」
「ん?いや、そんなことはないと思うぞ。年の初めに舞う時は家族以外も見てたし」
「そうなんだ。今度柊依さんもいるところで見せてくれないか?なんか今、柊依さんを中心に各地の神事とか神楽とかを調べてるらしくてさ」
「もちろんいいぞ!ただ、12個の型を舞い続けるのは結構しんどくて。ひと通り舞ったらそれで限界かも」
「いいよ。無理しない範囲で。後で柊依さんに話してみよう。すごく興味持ってくれると思う」
「うん!」
炭治郎の息が整ったので立ち上がり、木剣を持って構え、向かい合う。
「…よし、じゃあ、有一郎くん。手合わせ頼む!」
「うん。お手柔らかにお願いします」
木剣をぶつける音と、床を踏みしめる音が道場に鳴り響いた。
「…っはぁ〜!有一郎くん強いな!」
「炭治郎こそ。力では敵わないよ」
手合わせが終わって、2人して床に寝転ぶ。ひんやりした感覚が火照った身体に心地いい。
「あ、そろそろ夕飯の時間だ。炭治郎、行こう。今日は柊依さんが作ってくれるんだ。柊依さんのごはんすごく美味しいぞ」
「そうなんだ!楽しみだ。お腹ぺこぺこだから余計に美味しいだろうなあ!」
起き上がり、道場の床を拭いてから、俺たちは食事をする部屋へと向かった。
「うわ!美味しい!ほんっとに美味しいです!」
『お口に合ってよかった。おかわりあるから遠慮せずたくさん食べてね』
「はい!」
柊依さんが作ったごはんを口にして、興奮気味の炭治郎。
『有一郎くんもしっかり食べるのよ』
「うん!」
無一郎は数日遠くの任務に出ているから。いつもと違う3人での食卓。新鮮だ。
ガタタ…ゴソゴソ……
「あ、禰󠄀豆子」
炭治郎が背負っていた箱が開いて、中から女の子が出てきた。
『彼女が炭治郎くんの妹の禰󠄀豆子ちゃんよ』
「むーー」
“禰󠄀豆子”が嬉しそうに柊依さんに擦り寄っていく。そして彼女の頭を優しく撫でてやる柊依さん。
この子が鬼?炭治郎が鬼の妹を連れているって本当だったんだ。
長い髪。綺麗な顔立ちだけれど、瞳は獣のそれのように縦に細長い瞳孔だ。口には竹を噛ませてある。桃色の麻の葉紋様の着物がよく似合っていた。
『有一郎くんや無一郎くんと同じ歳だからきっと仲良くなれると思う』
「えっ!こんなに小さいのに?」
「今は小さい子どもの姿だけど、身体の大きさは好きに変えられるみたいなんだ」
「へえ。…禰󠄀豆子、よろしくな」
「むーー!」
禰󠄀豆子が目を細めてにっこり笑ってくれた。
鬼なのに、人を襲わない。喰わない。半信半疑だったけれど、今目の前にいる禰󠄀豆子を見ると納得がいく。きっと、これから鬼殺隊の一員として一緒に戦ってくれるんだろう。
続く
コメント
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第15話、すごく温かい空気だったね…🥀 主人公が前線から離れて2年、家事や稽古で無一郎と柊依さんを支える日々にほっとした。 そこに竈門兄妹が来て、炭治郎の真っ直ぐさと禰󠄀豆子の愛らしさで屋敷の空気がパッと色づいた感じがしたよ。 「不思議と親近感を覚えたのは、父さんと重なったから」って有一郎のセリフがすごく好き。家族の輪が広がっていく予感がして、胸がじんわりした。 続きも静かに待たせてもらいます🌙
無一郎再来