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ヒノカミ神楽
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花柱の倭柊依さんの屋敷に行って出会った、霞柱の双子のお兄さん・時透有一郎くん。彼に頼まれて、竈門家に伝わるヒノカミ神楽を倭さんがいるところで見せてほしいと頼まれた。けれどもそれ以降、倭さんが長期任務に出ていたり、俺も任務に出て怪我をして療養していたりで、なかなかお互いの予定が合わないまま数ヶ月が経ってしまった。
那田蜘蛛山で下弦の伍の鬼と戦ってから、普段自分が使っていた水の呼吸に加えてヒノカミ神楽も戦いに応用できることが分かったのはいいけれど、俺が未熟だからかヒノカミ神楽を使うと1つの型だけで身体を動かせない程の疲労に襲われてしまう。だからヒノカミ神楽を使うのは、鬼へのとどめの一撃の時だった。
炎の呼吸の使い手である炎柱の煉獄さんはヒノカミ神楽のことを名前すら聞いたことないと言っていたし、無限列車を操る下弦の壱の鬼との戦闘の後で突然現れた上弦の参と戦った末亡くなってしまった。その後訪れた煉獄さんの生家で見せてもらった歴代の炎柱の書は、先代の炎柱によってズタズタに引き裂かれて読めなくなっていた。
先代の炎柱は俺の耳飾りを見て“日の呼吸”について何か言っていた。けれどとても話ができる状態ではなくて、俺はヒノカミ神楽についても“日の呼吸”についても詳しいことが何も分からないまま煉獄家を後にしたのだった。
悲しい。大好きな煉獄さんを亡くして悲しい。
悔しい。自分が弱いせいで煉獄さんを守れなかった。死なせてしまった。
早く強くならなければ。こんなんじゃ大事な人たちを守ることも、禰󠄀豆子を人間に戻すことも、鬼舞辻󠄀無惨を倒すこともできない。
もっと、もっと、もっと強くなりたい。その一心で、俺は蝶屋敷での療養中も退所してからもひたすらに鍛錬を重ねた。
音柱である宇随さん、同期の善逸や伊之助との合同の任務の後、俺は約2ヶ月間意識が戻らなかったらしい。俺が目を覚ましてから、倭さんがお見舞いに来てくれた。アオイさんたちによると、眠っている間も時々様子を見に来てくれていたそうだ。
『炭治郎くん』
「あ、倭さん!」
ある日、機能回復訓練を終えたところに倭さんが声を掛けてきた。
『身体の調子はどう?』
「大分いいですよ。全快…、とまではまだいかないですけど」
『そう、よかった。…あのね、しっかり回復してからでいいんだけど、前に話してくれた神楽を見せてもらいたいなと思って』
「もちろんです!」
『ありがとう。日程はまた調整しましょうね』
「はい!」
倭さんがにっこり笑った。とても綺麗だと思った。
それから更に1週間後、全快で蝶屋敷を退所した俺は花柱邸を訪れた。この日は幸い倭さんも在宅で、有一郎くんと無一郎くんも一緒だった。客間でお茶をいただいて、少し話をしてから道場に向かった。
「柊依さん、ようやく“ヒノカミ神楽”見られるね」
『ええ。嬉しいわ』
「僕もまだ炭治郎と一緒に任務に行ってないから見るのはこれが初めてだ」
『そうよね。今日は全型をひと通り見せてくれるって。炭治郎くん、無理のない範囲でお願いね』
「はい!頑張ります!」
3人に見守られる中、俺は深呼吸を一つして構えた。
驚いた。ヒノカミ神楽を舞う炭治郎は時々まるで精霊のように見えた。
けれど12個ある舞型を全て終えた途端、炭治郎はものすごい汗を流しながら道場の床に倒れ込んでしまった。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
「炭治郎大丈夫か?」
「僕ちょっと水持ってくる」
『お願いね。…炭治郎くん、無理させちゃったね。ごめんなさい』
「いえ…っ…!これは…、俺がまだ…、未熟だか、ら、で……。父さんはこれを、…ひと晩中、舞い続けてられた、んです…」
「『ひと晩中!?』」
肩で大きく息をしながら炭治郎が話したことに俺と柊依さんが声を揃えて反応した。そこへ水を持った無一郎が戻ってきた。柊依さんが炭治郎の身体を起こさせて、無一郎が水を飲ませ、俺は団扇で扇いでやる。
『炭治郎くん。お父様は今見せてくれた舞をひと晩中舞い続けてたの?』
「舞い終わった炭治郎めちゃくちゃきつそうだけど、今のをずっと続けて舞うの厳しいんじゃないか?」
ようやく息の整った炭治郎が少し悔しそうな表情を浮かべた。
「…父さんは竈門家に伝わるこの神楽を歳の初めに日没から夜明けまで舞い続けていられたんです。身体が弱かったのに。つらいだろうから来年からは自分が舞を代わるって提案したこともあるんですけど、父さんは不思議と舞をしている間はつらくないって言ってたんだ。…多分、俺はまだその“極み”に達してないからしんどいと感じるし型をひと通り舞っただけで疲れちゃうんだろうなって…」
炭治郎のお父さん、身体が弱くて病気で死んじゃったって言っていたな。そんな状態で真冬の凍てつくような寒さの中、この神楽をずっと舞っていたなんて。にわかには信じ難いけれど、炭治郎が嘘を言ってるようにも全く見えない。
『……炭治郎くん。お父様はその時何か仰ってなかった?』
「えっと、“感覚を閉じる”、“大切なのは正しい呼吸と正しい動き、最小限の動作で最大限の力を出すこと ”って言ってました」
炭治郎がお父さんから聞いた話の内容はこうだ。
初めのうちは動きや感覚を覚えなければならないし拾わなければならない。五感を開き自分の身体の形を血管の一つひとつまで認識し、たくさんのことを覚え吸収した後は必要でないものを削ぎ落とす。その動きに必要なものだけを残して“閉じる”のだと。
『…人がよく聞こうとする時に目を閉じるみたいなことかしら?』
「あっ、はい。そう言ってました。そういうふうにその瞬間最も必要なものを選び取っていくんだって。そしたらやがて身体中の血管や筋肉の開く閉じるを瞬きするように速く簡単にこなせるようになるんだって。そしたら段々と頭の中が透明になっていくって言ってました」
すごく難しいようで、どこか分かりやすいような説明。頭では何となく理解できる気もするけれど、それを実際に行うとなるととても過酷な道のりだと思った。
『そう。……私、子どもの頃に舞踊の習い事をさせられててね。その時も動きを覚えたての頃より、ひたすらお稽古を重ねて身体にしみついてからのほうがきつくなかったなって思い出したわ。お父様が仰っていたことに通じるものがあるのかもね』
そっか。単純に無駄な動きが多いから身体がつらいんだ。炭治郎のお父さんも、舞踊を習っていた柊依さんも、稽古を重ねて、覚えたての頃にはなかった感覚を開いていたからこそ身体のつらさを感じることなく動き続けられる領域に達していたのかもしれないな。
「柊依さんも炭治郎に教えてもらってヒノカミ神楽やってみたら?」
突然の無一郎の提案に驚く俺たち。
「小さい時に舞踊習ってたなら柊依さんだってすぐ動きを覚えて舞えるようになるんじゃない?」
まあ、それもそうかもしれないけれど……。
「戦いにも応用できてるって話だし、それを使う人が増えれば増えるほど敵と戦う時に有利になるんじゃないかと思うんだよね 」
なるほど……。
『…無一郎くんの言う通りね。すぐに極めるのは無理だけど、練習してみようかな。炭治郎くん、型を一つずつ教えてくれる?』
「はい!家族も禰󠄀豆子以外みんな死んでしまったし、父さんから直接習ったのは俺だけだから他に舞える人がいないんです。倭さんも一緒にヒノカミ神楽使って戦ってくれたらすごく心強い!」
そう言って、炭治郎が嬉しそうに笑った。
一旦お昼ごはんを食べてしばらく時間を置いてから、俺たちは再び道場に戻った。全身が映る大きめの姿鏡を置いて、早速稽古に入る。
鏡で動きを確認しながら、炭治郎が柊依さんにヒノカミ神楽の型を一つひとつ教えていく。驚くことに、柊依さんは一度教えられただけですぐに動きを覚えてしまった。やっぱり習い事の経験から、勘が鋭いのだろうか。
試しに自分だけで12個の型の動きを連続で実施する柊依さん。ゆっくりだけれどとても綺麗で、初めて舞うとは思えない程とても滑らかだった。
「すごい!全部完璧です!」
興奮気味に言う炭治郎。
『ありがとう。結構身体きついね。でも楽しい』
柊依さんが額に滲んだ汗を拭いながら笑った。
『頑張ってお稽古するね。1日でも早く戦いの場で応用できるようにならなくちゃ』
「はい!」
いいな。柊依さんは水の呼吸と花の呼吸に加えてヒノカミ神楽も戦いで使えるようになるのか。強さも倍増だな。
『有一郎くんも時々一緒にやってみない?』
「えっ!?」
「いいね。兄さん昔から器用だし、意外と上手だったりして」
柊依さんの言葉に無一郎も賛同している。
「有一郎くんもよかったら一緒にやろう!どれか一つでも覚えられたら実戦で使えるかもしれないし」
「で、でも……。俺いま全然戦いに行けてないから…」
『それでもいいのよ』
「そうだよ。気分転換にもなるんじゃない?」
「うん…、そうだな……」
3人から勧められて、俺は仕方なく頷いた。
その後、無一郎は急に任務が入って、名残惜しそうにしながら出掛けていった。もちろん柊依さんに力いっぱい抱き着いてから。炭治郎はそれを微笑ましそうに見ていた。
無一郎が出掛けた後は俺も一緒にヒノカミ神楽を習う。難しいし身体きついし動きを覚えるのも大変だけれど、新しいことを学ぶのは楽しかった。
その日は夕方まで稽古を続けて、たくさん汗をかいて炭治郎と一緒にお風呂に入った。
「…倭さんってほんとにすごいな。たった1回説明しただけであんなに完璧に動けるようになるなんて」
「そんな狂いなく?」
「うん。びっくりだよ。有一郎くんも初めてなのに上手だった。飲み込みが早いんだな」
「…そうかな。ありがと」
褒められて照れくさい。
身体の泡を流して湯舟に浸かる。
「ここのお風呂、温泉の香りがするな」
「だって温泉引いてあるから」
「えっ!?すごい…!どうりでお湯が軟らかいと思った」
「疲労回復にすごくいいんだって。関節痛とか怪我にも効果があるらしい。柊依さんのこだわりだよ。俺も無一郎もここのお風呂大好きなんだ」
「そうなのか〜!」
炭治郎が湯舟の中で気持ちよさそうに目を閉じる。
「有一郎くんも無一郎くんも、倭さんのことが大好きなんだな。匂いで分かるよ」
「うん、大好き。命の恩人で、尊敬するお師匠様で、大事な家族なんだ。お姉ちゃんみたいな」
「そっか。倭さんからも2人のことをすごく大切に想ってる匂いがするんだ」
「嬉しい…」
身体も温まっているけれど、心の中もほわっと温かくなった。
「…俺さ、とある任務の後から鬼と戦うのがつらくなっちゃって。もう大分長いこと前線から離れてるんだ。無一郎は柱にまで登り詰めてるのに俺はこんなんで。情けなくて悔しくて落ち込むこともあるけど、また無一郎や柊依さんと一緒に戦えるようになれるといいなって」
「きっと大丈夫だ!有一郎くんならきっと大丈夫!俺も味方だ」
真っ直ぐにこちらを見てくる赤みがかった瞳。父さんとよく似た優しい眼差しだ。
「ありがとう、炭治郎。俺、ヒノカミ神楽覚えるの楽しかった。まだまだだけどこれから柊依さんとも練習するよ。いつも家事と剣の稽古ばかりだったから、新しいことに挑戦するの、いいなって思った」
「うんうん!そっか!」
身体をしっかり温めてから風呂場を後にした俺と炭治郎。
俺たちが戻ってきた時には、今日も柊依さんが美味しい食事を作ってくれていた。
続く
コメント
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第16話、めっちゃ良かった!炭治郎がヒノカミ神楽を舞うシーン、想像しただけで鳥肌立ったわ。父親が体弱いのに一晩中舞えた理由が「極み」の話で繋がって、倭さんが即座に覚えちゃうのもすごく納得。有一郎くんも新しい挑戦に前向きになって、花柱邸のあたたかい空気がじんわり伝わってきた。煉獄さんのことまだ引きずってる炭治郎の強さへの執念も刺さる。続き楽しみにしてる🔥
Rぐーなー
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#【推しの子】
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