テラーノベル
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あの日から、何かが少しずつずれていった。それがいつだったのか、はっきりとは思い出せない。
でも、思い返すたびに胸の奥がきゅっと痛む。
最初は、ほんの小さな違和感だった。
ステージの上で笑っていても、
心のどこかが冷えていた。
拍手の音が遠く感じて、
ファンの笑顔が、まるで別の世界のものみたいに見えた。
「楽しい?」って元貴に聞かれた時、
「楽しいよ」って即答できた。
けど、その答えの中に“実感”はなかった。
それから少しずつ、
眠れない夜が増えた。
深夜に曲を書こうとしても、
頭が真っ白になって、ペンが進まない。
何かを作るたびに、「これじゃだめだ」って自分を責めた。
人前に出るのが怖くなったのも、その頃からだ。
笑顔を作ることが仕事なのに、
鏡の前で笑おうとすると、顔が引きつる。
楽屋でみんなが笑っていても、
心の中だけはずっと静かだった。
本当は、誰かに「しんどい」って言いたかった。
でも、そんな自分を見せたら終わりだと思ってた。
みんなの“藤澤涼架”を壊したくなかった。
だから、黙って笑って、
黙って飲み込んで、
黙って少しずつ壊れていった。
――その結果が、今。
ベッドの上で天井を見つめながら、
涼ちゃんは静かに息を吐いた。
「……どこで間違えたんだろ」
問いかけても、答えは返ってこない。
ただ、外から聞こえる風の音だけが、
まるで慰めるように、優しく鳴っていた。
コメント
2件
どこからこんな綺麗な表現が出てくるのですか?!!✨️